44 会計
街に到着し、ギルドに向かったのだが、建物の入り口ドアには『閉館』のポスターが貼られていた。
もう夜も遅いし、当たり前なのだが、営業時間の概念を完全に忘れていた。
「ギルドに閉館時間ってあったんですね……」
「知らなかったわ……確かにこんな遅い時間に来たことなんかないわね。また明日来るの面倒ね……」
「仕方ないですけど出直しましょう……」
「えー。今日は稼いだお金で飲みに行きたかったのに……」
それは……僕は遠慮したい。この人、酒癖悪いからな……
帰りましょうと再度声を掛けようと思ったとき、女性に声を掛けられた。
「あれ!ヒロキ様、アズサ様、いかがされましたか?」
「あ!アンジュ!ちょっと聞いてよ。ギルドに入れなくて困ってたのよ!」
「こんな遅くに何か急ぎのご用件でしょうか?」
「依頼完了の報告して、報酬で飲みに行こうと思ってたの!でも閉まってるから、報酬貰えないーってショックで……」
いや!そのショックを受けてるのは、あんただけだよ!
僕は別に飲みに行こうと思ってない。一緒にするな。
「そうだったのですね……明日改めてお越しいただくしか……え、もう依頼完了されたのですか?スケルトンはどうでしたか?」
「終わったわよ。スケルトンがじゃんじゃん出てきて大変だったのよ!」
「え!そうだったのですね!お二人とも無事でよかったです!大変申し訳ございませんが、明日の朝早めにお越しいただくことは可能でしょうか?改めて状況をお伺いし、すぐに討伐依頼を出すようにしますので……」
「もう討伐は終わったわよ!もう一体もいないわ。」
「え?討伐もされたのですか?」
「そうよ!全部倒したわ!あと、スケルトンクイーンもいたのよ!」
「スケルトン……クイーン……?倒されたのですか?」
「そう、私がね!凄いでしょ?こいつは殺されそうになってたけどね。」
「ちょ……ちょっと待ってください!」
「な、なに?」
「く、詳しく聞かせてください!私が会計をお持ちしますんで、酒場でお話はいかがでしょうか。」
「え、いいの?じゃあ行きましょ!」
アンジュさんってお金に執着があったはずだよね?
会計持つとか大丈夫なんだろうか?
「そんな、アンジュさんに払っていただくわけにはいきませんよ。もう遅いですし、帰りましょう。」
「おごってくれるって言ってるんだから、おごってもらいましょうよ。あんたは余計なこと言わなくていいの。」
「そうですよ!私は全然大丈夫です。専属契約のお二人がスケルトンクイーンを倒したとなると、私の評価も、報酬も……」
「え?」
「いえ、こちらの話です。お二人は気になさらいでください。では行きましょうか。」
「僕は行くとは言ってない……」
「ほら!あんたもグダグダ言ってないで行くわよ!」
アズサさんに腕を掴まれ、酒場に無理やり連れていかれることになった。
僕は飲むなら、1人でゆっくり飲みたいんだよ……騒がしくならなければいいのだが……
そう思い酒場に向かったのだが、案の定、大変な目に遭った。
アズサさんはスケルトンクイーンを倒した武勇伝を語り、アンジュさんは「凄いです!」をひたすら連呼する。
調子に乗ったアズサさんは次々に酒を注文し、泥酔&嘔吐。
結局、僕がおんぶをして宿に連れて帰る羽目になった。
あれだけ飲んだらそりゃあ潰れるだろう。
一体会計はいくらだったのだろうか。
会計時にアンジュさんの顔が引きつっていたのを僕は見ていた。
絶対後悔してるだろう。
二度と僕らを食事に誘うことはないだろう。




