42 油断
クイーンはまだ立っている。
ただ今までと違う点がある。
明らかにダメージを受けている様子だ。
こちらに向かって歩いてくるのだが、動きがかなり鈍い。
ここが倒しどころだ。
「ファイアボール!ファイアボール!」
魔法を連続で放ち、いずれも直撃する。
だが、それでもやはり倒れない。
もう僕には魔力がほとんどなく、先程のように強い魔法を撃てないのだ。
【主よ!右に避けろ!】
【次は左によけろ!】
【上からの攻撃じゃ!後退しろ!】
相手はふらふらになりながらも連続で魔法を放ってくる。
なんとか直撃を避けることは出来ているが、何発を当たっており、僕も満身創痍だ。
「ファイアボール!ファイアボール!」
さらに連続で魔法が直撃すると、敵は魔法を放って来なくなった。
しかし倒れない。こちらを見つめている。
クソ……しぶといな。
「ファイアボール!」
プシュッ……
あれ。魔法が出ない……
もう一度だ。
「ファイアボール!」
プシュッ……
もしかしてこれは……
【主よ、魔力切れじゃ。】
「やっぱりか。あと少しなのに。」
【魔法が使えぬなら、物理でやるしかなかろう。相手は体力がほとんどない。勝機はあるぞ。】
「そうだな。やるしかないな。」
相手はもう魔法を撃ってこない。
僕の方を睨むように見てくるだけで、動けないようだ。
今なら近づける。チャンスだ。
地を蹴り、一気に相手との距離を詰める。
そして右拳を力強く握りしめ、全力で拳を突き出した。
「これで倒れろ!!」
拳が当たる。
そう思い安心した瞬間……強い衝撃とともに僕の身体は後方へと弾き飛ばされた。
何が起こったのか分からない。
分かることは、僕は仰向けで大の字となり地面に倒れている。
「あれ……どうしてだ……」
【主よ!しっかりしろ!早く起き上がるのじゃ!】
身体に力が入らず、起き上がることができない。
「何があったんだ……」
【奴に殴り飛ばされたのじゃ。動けないフリをして、チャンスを狙っておったようじゃ……油断したの……】
「殴られた……?なんだよ……あいつ魔法だけじゃないのかよ……」
【早く起きるのじゃ!】
「無理だ……力が入らない……」
スケルトンクイーンがふらふらになりながらも一歩一歩近づいてくるのが見えた。
【主よ!このままではまずいぞ!気合いを入れよ!】
「もうダメだ……僕はもう死ぬのか……」
奴は目の前だ。
腰にぶら下げていた鞘から剣を抜いた。
「剣まで持ってたのかよ……」
剣を上段に振りかぶり、奴は止まる。
そのときの奴の顔は笑ったように見えた。
「骸骨のくせに笑うなよ……」
そして僕めがけて剣を振り下ろす動作に入る。
【主ーー!】
終わった……
そう思った瞬間だった。
一瞬、僕の眼には、前方で光が横に走ったように映った。




