04 違和感の正体
仕方なく入院を続けて、そろそろ2週間が経過する。腰が良くなってきてるとはいえ、病院から出れないというのは苦痛だ。
栄養バランスの良い食事とは重々承知しているが、
普段の食事との味の違いもあるので、なかなか思うように箸が進まない。
以前、友人が入院病棟を抜け出して「これからステーキ」に食べに言った気持ちが少し分かる。
病院のスタッフからも嫌な奴に思われるのは間違いないが、本当にやってはいけないことは、僕でも分かる。つもりだ。ルールは守るのだ!
まぁこのような感じでお腹を減らして朝食に期待しながら、最近は眠っている。
本日は少し肌寒くなり寝付けなかったのもあるので、病院の消灯時間を過ぎても携帯小説で時間潰しだ。
ちなみに大部屋なのに病院には僕1人しかいない。
自由なんだ!!
スタッフさんからすると邪魔だろうなと思いつつ、正当な手続きの上でこの状態なので、嫌な奴になれた気がしてにやけてしまう。
まぁ退院したときの、復職時には地獄を見るけどね。
嫌だ……
話はそれたが、今の生活の基盤はスマホだ。
電子書籍、某動画サイトの君チューブ、あとはゲームは嗜む程度とフル活用だ。
逆にこれ以外の遊びがないのだ。
ギガが爆速で減っていく…
もう通信速度止まりそう…
今後の入院生活に絶望を感じながら深くため息を吐き、ひっかかって落ちたイヤホンを拾ったその時、違和感を感じた。
やけに静かなのだ。
いや、消灯しているので、外を歩いている患者はいないし静かなのは当たり前なのだが、それでもやけに静かだ。
そういえば肌寒さが消えてることに気づき、空調が動いていないことにも気づいたのだ。
今の病棟は結構寒くても空調止めないので、確かに変である。
トイレ行くついでに周り見ようかなと病室から出たそのとき、廊下が真っ暗闇であることも気づいた。
おかしい
廊下の電気が消えていても、トイレやナースステーションの電気は灯があるはずなのだ。
不気味だな思いつつも停電の可能性が頭によぎり、病院であれば非常用電源があるし、放っておけば大丈夫かと一応は納得した。
そしてトイレをすまし、手を洗おうとした瞬間であった。
斧を持った生き物が僕の病室に向かって行くのが隙間から見えたのだ。
瞬時に悟った
逃げるしかない。
斧を持っていた理由が分からないって?
深夜病棟に斧を持ってくる仕事が存在するなら検討しよう。だが今はそんな職知らないので逃げる。
生物が何か分からなかったって?
もうそこはどうでもいい。
人間でも怖いし、それ以外の生物でも怖いです。
私の腰は爆弾を掲げているので今は走れない。
音を立てずに逃げる(歩く)のみだ。
そんなことを考えていると僕の病室の方から、ガタンガタンと爆音がする。物が壊れた音である。
あっかーん。絶対殺されるやつやん。
どうしようか。こっちに来る。
テンパっていたときに、ナースステーションから小さな声がした。
「こっち早く!」
ギリギリ隠れられそうな所があるみたいだ。
今は看護師1名と僕1名のみが隠れている。
「助かりました。他の人はどうしたんですか」
「あっち見て」
戦った形跡が見られており、両者相打ちのような形で最期を遂げていた。他1名は行方が分からないそうだ。
斧を持った生物は、ライトノベルでよく見かけるいわゆるゴブリンだ。
ゴブリンが現実にいることの怖さと、男性とはいえ一般人でも頑張れば倒せるレベルの強さを理解した。
今の僕じゃどうやっても勝てないのは間違いない。
「いま、走れないんで本当に助かりました。死ぬかと思いました。」
「そんな見捨てる訳ないじゃないですか。一緒に逃げきりましょう。誰か助けてくれるはずですから。」
頼もしい。
看護師さんは仕事柄なのか、患者とのコミュニケーションのために、おそらく興味のないことを話かけてくることがあった。
僕はそういう馴れ合いが嫌いなので話は膨らまさないように返答し、冷たい対応とってると思われているだろう。
僕は命の恩人になんて礼儀知らずなことをしていたのだろう。嫌な奴になりたいという信条は捨てれないが、人は選ぶ必要があると深く反省した。
「一緒に逃げましょう。出来ることなら任せてください。走れないですが…」
「大丈夫ですよ!絶対助かりますから!」
心強い仲間をヒロキは手に入れた。