35 初めての攻撃魔法
僕らはシエルさんから初級攻撃魔法とウォッシュを無償で教えてもらった。
てっきり魔法書をタダでもらえると思っていたのだが、そうではなかった。
シエルさんがブツブツ言葉を唱え、僕に手をかざすと、なぜかは分からないが教えてもらう予定だった魔法の使い方を自然と理解できるようになっていた。
シエルさん曰く、結構高度な魔法みたいで、自身の理解している魔法を他者に教えることができるらしい。
僕は『ウォッシュ』『ファイアボール』『ファイアアロー』という魔法を教えてもらい、
アズサさんは『ウォッシュ』『ウインドアロー』『ウインドカッター』という魔法を教えてもらった。
「はやくウォッシュで身体を洗いたいわ!あと攻撃魔法も試してみたい!魔法を使えるってテンション上がるわ!」
アズサさんは大はしゃぎである。
やっぱり僕だけリスクを負って、アズサさんも無償で魔法を教えてもらえるなんて絶対におかしいよね?
何度考えても納得がいかない。
今更何をいっても仕方ないのだが……
僕とアズサさんはそれぞれ炎属性、風属性の魔法のみしか使えないのだが、
シエルさんはいずれの魔法も使えるということか……
実は有能なのかもしれないなこの人は。
「そういえば、シエルさんって何で死者蘇生が必要なんですか?」
肝心なことを聞くのを忘れていた。
「…………」
「まさか……悪いことしようとしてたり……しないですよね?」
「しないよ……絶対に。」
シエルさんは少し寂しそうな顔を見せた。
あまり聞かない方がいい話なのかもしれないな。
「それならいいんですけど……なんか変なこと聞いてしまってすみません……」
「いいさ。気になるのは当然だと思うよ。大切な人を蘇らせたい。ただそれだけさ。別に悪人じゃない。それだけは伝えとくよ。」
「はい。教えてくださり有難うございます。」
「それじゃあ、今日教えた魔法に慣れた頃にまたこの店に来な。別の魔法を教えてあげるよ。あんたには早く強くなってもらわないと困るんだから、サボるんじゃないよ。」
「分かってますって……それじゃあまた来ます。」
そう言って、僕らはグリムを出た。
◇
その後、アンジュさんに教えてもらったお店で私服を購入し、宿屋オアシスに戻った。
夕食を食べながら今後の予定について、アズサさんと話し合った。
とりあえずは魔法に慣れるために、明日は依頼を受けずに弱い魔物相手に試し打ちをしようということになった。
どこに向かうかという点だが、トイフェルの森だ。
そう、僕が異世界に飛ばされてきた場所だ。
あそこであればゴブリンとホブゴブリンしか出会わなかったし、サタに聞いても弱い魔物しかいないという返答があった。
明日、問題がなければ、明後日以降にギルドでDランクの依頼を受けようと合意し、
僕たちは部屋に戻った。
今日はいつもと違う。
魔法書を購入する必要がなかったのでお金に余裕もできたので、今日から僕とアズサさんは別室なのである。
久しぶりにベッドで眠れることに幸せを感じる。
それ以上に僕が期待していることがある。
僕は部屋に入り、ソファに腰を掛け、目を瞑った。
僕は真っ裸だ。
他人から見るとただの変態だろう。
ただこれには理由があるのだ。
「ウォッシュ」
僕がそう唱えると。
身体が綺麗になっていくのが分かった。
ほんの数秒で魔法の発動が終えた。
凄い!
この魔法は本当に凄い!
昨日まで脂ぎっていた顔がつるつるになっている。
ベタっとなっていた髪の毛もサラサラだ。
いくら水浴びしても残っていた体の不快感は、完全になくなっている。
素晴らしい。
これは金貨10枚かけても習得すべき魔法だろう。
僕らはタダで覚えたのだが……
まぁ欲を言えばやはりお風呂に入りたいという気持ちはある。
身体を綺麗にし、お湯につかり、身体を癒す。
日本にいたときは一日の中でも最も好きな時間だったかもしれない。
貴族しかこの世界は入れないんだもんな…
ズルいよな……
まぁこればっかりは仕方ない。
ウォッシュのおかげで今後の生活に光が見えたのでOKとしよう。
そんなことを考えながらベッドに寝転ぶと、僕はすぐに眠くなり、すぐに意識が遠くなった。
◇
朝目覚めたときの気分は最高だった。
この世界に来て初めての熟睡だったかもしれない。
身体を綺麗にして眠る。いかに素晴らしいことか分かった。
朝食を食べているとアズサさんが向かいの席に座った。
「どう?今日の私?感想は?聞いてあげる。」
髪の毛を無駄にふぁさふぁささせながら、上から目線で話しかけられた。
確かにいつもと違うな。
「いつも朝は眠そうにしてるのに、今日はすっきりしてますね。」
「そうなのよ……ってちがーっう!そうだけど違う!」
「朝から大声出さないで下さいよ……」
「確かに昨日はよく眠れたからすっきりしてるわ。」
「じゃあ違わないじゃないですか。」
「でも、私が聞きたかったのはそこじゃないの。あんた馬鹿なの?これだけ髪の毛をアピールしてるのに何で気付かないの?」
「あぁ寝癖がない?ですか?」
「あんた本当にダメね。0点よ。私が言いたかったのは髪の毛がいつもよりサラサラで綺麗でしょ?ってことなの。」
「はぁ……どうでもいいですね……とりあえず早く食べて準備してください。」
「あんたって本当にムカつく。せっかく気分の良い朝だったのに、テンションが下がったわ……」
もう無視するのが一番だ。
ちなみに「それ」はこっちのセリフだ。
◇
準備も終え、街を出て、今はトイフェルの森に僕らは来ている。
「とりあえず僕から使ってみますね。」
1体のゴブリンを見つけている。
僕らは木に隠れながら、魔法を使うタイミングを見計らっているのだ。
とりあえず僕はファイアボールを使ってみることにした。
よく漫画でも出てくる魔法で、魔法を覚えたてのものが使うケースが多いと思う。
小さい球状の炎を出して、相手に放ち燃やす魔法だ。
シエルさんに教えてもらったが、僕のイメージ通り、まぁ弱い魔法らしい。
恐らくゴブリン程度なら倒せるだろう。
1発で倒せるだろうか……
ちょうどゴブリンが僕らに背を向けたその時。
「ファイアボール」
僕は手に魔力が集まるのを意識し、そう唱えた。
ビュンッ!
ジュワッ!
もの凄いスピードで放たれた大きい球状の炎は、避けられることなくゴブリンの背中に直撃した。
炎がゴブリンに直撃した瞬間だった……
ゴブリンは跡形もなく消滅した。
「……え?」




