34 ペナルティ
「それで、契約と言いましたが何かにサインすればいいですか?」
「サインって訳ではないが、あんたの血を少しもらうよ。」
「血……ですか?」
血をもらうって表現が怖いな。
どうするんだろう。
「準備をするから待ってな。」
そう言ってシエルさんは何も記載されていない羊皮紙らしきものを取り出した。
そしてシエルさんがそれに手をかざすと羊皮紙に一瞬で何やら文字が浮かび上がる。
「ここに契約内容が書かれているから確認しな。」
紙に書かれた文字を見てみると、契約内容が本当に書かれているようだ。
どういう理屈で一瞬で文字が書かれたのか気になったが、とりあえず内容を見ることにした。
1. 冒険者ヒロキは、シエル・ノーブルの求めに応じ、魔法:死者蘇生の行使を試みなければならない。
当該魔法の発動が成功した場合、以後、シエル・ノーブルは冒険者ヒロキに当該魔法の行使を求めてはならない。
2. 冒険者ヒロキは、1ヵ月に1度はシエル・ノーブルに対面で会わなければならない。
但し、シエル・ノーブルに事前に許可を得た場合、もしくはやむを得ない事情がある場合は免除することとする。
3. 冒険者ヒロキは、対価として、シエル・ノーブルより魔法習得の援助を得ることができる。
シエル・ノーブルは冒険者ヒロキに対し、初級魔法習得の無償提供、中級魔法以上の習得援助を提供しなければならない。
4. シエル・ノーブルは、上記を逸脱した場合、冒険者ヒロキが希望するいかなる要求も受け入れる必要がある。2カ月以内に要求を受け
入れなかった場合、シエル・ノーブルはペナルティとして死亡することとなる。
冒険者ヒロキは、上記を逸脱した場合、シエル・ノーブルが希望するいかなる要求も受け入れる必要がある。2カ月以内に要求を受け
入れなかった場合、冒険者ヒロキはペナルティとして死亡することとなる。
契約書の内容はこんな感じであった。
死亡……という文字が見えるのは気のせいだろうか……
いや、はっきりと書かれている……
怖い……怖すぎる……
「ちょっと待ってください。死亡って書かれているんですけど、これ大丈夫ですか?」
「契約を守るつもりがあるんだったら大丈夫だろう?守る気がないのかい?」
「いや、守る気はあるのですが……」
「じゃあ大丈夫じゃないか。問題ないさ。あとはこの紙にあんたの血を1滴垂らしてくれればそれでいいよ。」
「あと、月に1回って会う必要があるっていうのは……」
「そりゃあ、あんたに逃げられないためだよ。魔法の無償提供だけして、逃げられたら私が損するだけだからね。」
確かに……
「あんたは私が要求したときに発動を試すだけでいいんだよ。1度でも成功したら、もうそれで終わりだ。簡単じゃないか。」
「そうなんですけど……」
「早くしなさいよ!なにうじうじしてるのよ。」
お前は契約するわけじゃないから、気楽でいいよな。
「じゃあ、アズサさんが契約したらどうですか?アズサさんも魔力高かったですよね。」
「そうなのかい?私は魔法力が高い異世界人だったらどちらでもいいよ。」
「な、な、なんで私なのよ。魔力はヒロキの方がかなり高いわよ?ま、魔力は高い方がいいんじゃなかったっけ?」
「そうかい。それじゃあ、ヒロキの方がいいね。」
クソが。この女逃げやがった。
「検討させてもらってもいいでしょうか……」
「ヒロキ、あんた早くしなさいって。私が指をナイフで切ってあげる。早く契約しましょう。」
ふざけんなよ。
僕の生死がかかってるんだぞ。
【主よ。早く契約するがよい。もしや血を出すのが怖いのか。勇気がでないなら、我が手助けしてやろうか?我が主の身体を動かして血を垂らすくらいならできるぞ?その程度の行動範囲なら今の我でも可能じゃ。主は何もせず待っているがよい。】
あぁ……僕に味方はいないようだ。
「分かりました……契約します。」
サタに無理やり動かされるよりは自分でやる方がいい。
サタって僕を操れるの?
初めて知ったし、怖すぎるよ。
「やっとかい。早くしな。」
僕とシエルさんは指をナイフで切り、お互いが紙に血を垂らした。
シエルさんと僕は一瞬だけ光に包まれた。
光が消えたのち、シエルさんが言った。
「今度こそ契約は完了だ。あんたに損はさせないよ。よろしくね。」
「はい……もう何でもいいです……とりあえず僕はあなたを利用させてもらいます。とことん利用します。」
「あんたも言うじゃないか。威勢が良くていいね。」
「もう吹っ切れましたんで。もう契約も成立したんですから魔法を教えてもらっていいですか?」
「はいよ。ウォッシュは教えるとして、あんた、魔法属性は何だい?」
「能力鑑定では炎って出てました。」
「攻撃魔法の王道だね。じゃあ、まずは基本的な魔法として、ファイアボールとファイアアローを覚えてみな。」
「初級魔法ってそれだけですか?」
「一気に覚えても使いこなせないじゃないか。少しずつ試しながら感覚を掴んでいくのが魔法のコツだよ。まずはその2つで慣れな。あんたがどうしてもと言うんだったら、この場で全て教えるがどうする?」
「そんなもんなんですかね。じゃあ、シエルさんの言う通りにしときます。」
「素直じゃないか。素直な子は私は好きだよ。」
婆に好かれても嬉しくはない。
「はい……じゃあそういうことで……」
「はい!はい!はい!私は風属性なんだけどどんな魔法があるの?」
何言ってるんだこの人は。
「アズサさんは今日は無理ですよ。」
「なんでよ!」
「魔法書は高いんですから……そんなお金ないですよ。」
「初級魔法はタダなんでしょ?」
「アズサさんは契約してないんで、お金がかかりますよ。魔法書は高いんですから、今日は無理ですよ。」
「なんでよ!ヒロキだけずるいじゃない。」
「ズルいとかじゃないですよ……シエルさんからも言ってやってください……」
「いいよ。」
「ほら……ダメでしょ……?……え……?アズサさんはタダじゃないですよね?」
「この娘もタダで教えるつもりじゃよ?」
「でも、契約してな……」
「私は、あんたが契約してくれたから別に問題ないさ。」
「ほら、シエルもいいって言ってるじゃない!」
「僕だけリスク負って……おかしくないですか?」
「私に言われても知らん!」
「え?」
絶対におかしいよね?




