32 グリモ
次の目的地は魔法書店である。
僕らは看板に『グリモ』と書かれた店に入った。
店内に入ると、カウンターの向こうに座った老婆がこちらを一瞥したが、すぐに手に持っている本に目線を戻して読み直している。
老婆はエナン帽子をかぶっており、いかにも魔女という感じだ。
間違いなく店員だと思うが、何の挨拶もしないところを見ると、愛想が悪いのだろう。
客が一人もいないのは、この店員のせいじゃないだろうか。
恐らく魔法書だと思うが、店内には書物がいっぱい並んでいる。
今まで読んだこともないし、読んだところで魔法が使えるのかも分からない。
アズサさんに聞いても知らないみたいなので、結局あの店員に話し掛けるしかないのだ。
「すみません。聞きたいことがあるんですけどいいですか。」
「……」
老婆はこちらを見ているが、一言も発しない。
「えっと……いいですか?」
「……」
「あの……」
「なんだい!話したいことがあるなら早く話しな!冷やかしなら早くお帰り!」
めんどくさい……
アズサさんを見ると笑いを堪えてる。僕が怒られているのが嬉しいんだろうな。
クソっ。
「あ、すみません。魔法書を探してるんです。あと魔法書って読むだけで魔法が使えるようになりますか?全然知らなくて教えて欲しいんです。」
「けっ。素人かい。面倒だねぇ。今日は厄日だよ。」
「すみません……」
僕だって厄日の気分だよ、って言いたいよ。
「で、なんの魔法書を探してるんだい。」
「ウォッシュっていう魔法を使いたいんです。」
「あぁくだらない。さすが素人だね。使うのはあんただけかい?人数分の魔法書が必要だよ。」
アズサさんも使えた方がいいだろう。
「僕とこの子の2人が使えたらなと思ってます。」
「え、わたし⁉ウォッシュって何?」
あ、そういえば魔法書店に来た理由を言ってなかったな。
「ウォッシュって、魔法で身体の汚れを取る魔法らしいんです。この世界ってお風呂に入りたいけど、入れないじゃないですか?水浴びだけじゃ汚れが取れた気がしないので。アズサさんは必要なかったですか?」
「は⁉先に言いなさいよ。必要に決まってるじゃない。あんたは説明が遅いのよ。」
「……ということで2人分お願いします。」
「……」
「ウォッシュを2人とも使えるようにしたいです。」
「……」
「あの……」
「あんたち……」
「はい。」
「なんでお風呂に入りたいんだい?貴族か?」
「いえ、貴族ではないですが、以前はお風呂によく入ってたので……」
「貴族以外はお風呂に入る訳ないじゃないか。あんたたち……異世界から来たんだろ?」
「はぁ……まぁそうです。」
別に隠すことでもないしな……
「やっぱり!」
「なんで異世界から来たって分かったんですか?」
「異世界人は風呂好きって聞いたことがあるんだよ。あんたたち、異世界人ならそれを先に言いなさいよ。ただの素人が来たと思ったじゃないか。」
「はぁ……異世界人なら何かあるんですか?」
「あんたは異世界人の価値も分かってないんだね……残念な子だよ。」
ヤレヤレという仕草をしながら憐みの表情で僕を見てくる。
本当にムカつくババアだな。
「異世界人の価値って何ですか……?」
「残念なあんたに特別に教えてあげるわ。異世界人はね、魔力量が規格外なの。」
「それで?」
「あー残念残念。ほんとダメな子だね。魔法はね、魔法ごとに必要な魔力量が違うのよ。」
「はい。えーと……」
「お馬鹿さんだね。あんたと話してたら私まで馬鹿になっちゃうよ。そっちのお嬢ちゃんは分かるかい?」
「えっと……あ、異世界人は使える魔法の種類が多い……みたいな?」
「嬢ちゃんは会話が成り立つようね。正解よ。あんたは嬢ちゃんを見習いなさい。ほんとに。」
「はい……すみません……」
またアズサさんがこっちを見て笑いを堪えてる。
「それで、結局何が言いたいんですか?使える魔法が多いってのは分かりました。」
「さっきも言った通り、あんたたち異世界人はね。魔力量が規格外なの。私たちがどれだけ研鑽を積もうが使えない魔法だって、あんた達なら使えたりするんだよ。」
「なるほど。」
「もう私の言いたいことは分かるわね?」
「あぁさすがに分かります。あんたにも使えない魔法を、僕たちにさせたいんですね。」
「正解だよ。さすがにそこまで馬鹿じゃなかったようだね。」
「で、どんな魔法なんですか?」
「……」
「どうしました?」
「……」
黙ってるな……
なんだか危険な匂いがする……
「やっぱり聞くのはやめと……」
「あんたたち。」
「はい。」
「あんたち、私と契約をしないかい?」




