31 レモン
アズサさんの大幅能力UPだ。
しかもスキルが増えている。
「なんでスキルがポンポン増えていくんですか?僕は増えないのに……」
「さぁ?もともとの才能の違いじゃない?」
【うむ。アズサの言う通りかもしれんな。】
ほんとムカつく奴らだ。
いちいちイラつくことを言ってくる。
だが反応したら負けだ。
スルーするのが一番だ。
◇
僕らは能力鑑定をしてもらい、ギルドを出た。
「ねぇ、さっき言ってたDランクの魔物ってどんな魔物なの?」
「魔物図鑑に載ってると思いますよ。多分ですけどオークは豚っぽい大きい魔物で、スケルトンは骸骨の魔物、ハーピーは鳥人間みたいな魔物だと思います。」
「へぇ……なんかキモそうね。戦いたくないわ……」
「いずれは戦わないといけないので、我慢してください。とりあえずは買い物しましょう。」
「服を買いたいわ!もうこんなボロボロの服、もう嫌よ!」
「私服は後にしましょう。装備品を優先して、残ったお金で服を買う方がいいと思いますよ。」
「分かったわ……」
不服そうだが、仕方ない。
今は安全のためにも戦いに備える必要がある。
ただでさえ、アズサさんは防御力についてはそこまで高くないのだから。
アンジュさんにピックアップしてもらったお店は、武器・防具をどちらも取り扱っているお店らしい。
値段もリーズナブルになっており、低ランクの冒険者がよく行くお店みたいだ。
しばらく歩くと地図に示されたお店を見つけることができた。
武器・防具屋『レモン』。これが店の名前だ。
とりあえず入ってみることにした。
「いらっしゃい。」
店内にいる男がそう言った。
この男が店員なのだろう。
見た目は髭を生やしたおっさんなのだが、かなり背が低い。
もしかしてファンタジー世界でよく出てくるドワーフなのかもしれない。
店内を見渡すと、武器や防具が数多く並べられていた。
その後、色々商品を見たのだが、どれを選べばいいのか全然分からない。
「すみません。こういうお店に初めてきたんですけど、どれを選べばいいか分からなくて……おすすめってありますか……?」
店員の男に話かけることにした。
「おすすめ?ああ、俺でよければ相談に乗るが、あんた冒険者になったばかりか。Fランクか?」
「いえ、つい最近冒険者になったのはそうなんですけど、Dランクです。」
「ん?じゃあ、今まで武器はどんなのを使ってたんだ?」
「僕は素手で殴ってました。この子は、ギルドで借りたナイフを使ってます。」
「ナイフはまだ分かるが……素手?どういうことだ。魔物相手に素手で戦ってたのか?素手で戦うスキルとかか?」
「素手で戦うスキルとかは持ってないですね。ゴブリンとホブゴブリン、コボルトくらいしか戦ってないですが、素手で問題なったです。でもDランクに昇格したんで、そろそろ武器が欲しいなって思ってお店にきました。」
「素手で……そんな聞いたこととないぞ……アドバイスがしづらいな……どんな武器を使いたいとかはないのか?」
「どんな武器……剣士とかかっこいいなと思うので、剣がいいですね。」
「剣士か……じゃあ、ロングソードにしとけ。どれも品質はそんなに悪くないし、お前の場合はとりあえずどんな武器が合うかも分かってないんだから、金の無駄にならないように一番安いやつでいいぞ。」
「なるほど。分かりました。」
「そっちの嬢ちゃんはナイフって言ってたけど、どんな戦い方をしたいんだ?」
「うーん……怖いから、あんまり正面から戦いなくないわ。素早さが私の長所なの。だから相手の背後に回ってナイフで刺すというやり方がいいわ。ゴブリンやコボルトとはそんな風に戦ってたの。」
「なるほどな。じゃあ、嬢ちゃんはダガーにしとけ。予算はどれくらいだ?」
「ダガー?よく分からないけど、それでいいわ。予算は……うーん……この人が他にも色々買うものがあるらしいから、とりあえず一番安い奴がいいんだけど、いくらくらいなの?」
「一番安いので、銀貨8枚だな。」
「じゃあ、それでいいわ。」
アズサさんは、ダガーの基本的な使い方を店員から教わることができた。
アズサさんにしては真剣に店員の話を聞いている。
僕の話も普段から真剣に聞いて欲しいものだ。
「あと、お前さんたち、あまり金もないようだし防具は2人ともレザーアーマーにしとけ。動きも遅くならないし、一旦はそれでいいと思う。」
「分かりました。それを購入します。」
結局、ロングソードとダガー、レザーアーマー2着分を購入した。
総計で金貨3枚の出費だ。
思ったよりも安いな。
「お前ら、パーティ名は何て言うんだ。」
「『終末世界』っていうパーティ名でやってます。」
「変な名前だな。」
「でしょ?私が決めたんじゃないのよ。こいつが勝手に決めたの。ほんとセンスないわ。」
くそ。ムカつくやつだな。
「言っとくけど、名前はサタの案だぞ。いいのか?」
「え⁉嘘⁉そうだったの⁉い……いい名前だなって実は思ってたのよ!ほんとよ!」
こいつ、サタの案と言ったら、態度を変えやがった。
ほんと僕への態度と、サタへの態度が全然違うな。
「お前ら、もう一人パーティがいるのか?」
「あ、いえ。2人パーティですよ。サタっていう友人に名前を相談したんですよ。」
「ああ、そういうことか。お前らの名前は何て言うんだ。」
「僕がヒロキ、この子がアズサっていいます。」
「ヒロキとアズサだな。お前らはちょっと変わってて、面白そうなやつらだな。覚えておくよ。また、装備について分からないことがあればいつでも来い。俺の名前はエストロだ。相談に乗ってやる。」
「装備品の知識が全くないので助かります。エストロさんは、ドワーフですか?間違ってたらすみません。」
「ドワーフだぜ。見れば分かるだろ?」
「いえ、最近この街に来たばかりで、僕はドワーフの方に初めてお会いしたんです。」
「ドワーフなんてこの街以外にもかなりいるだろう……今までどこに住んでたんだよ。やっぱりお前らは変な奴らだな。まぁこれからもよろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
そう挨拶を交わし、僕らは店から出た。
「エストロだっけ。なんかいい人そうで良かったわ。」
「まぁそうですね。でもあんまり信用しないでくださいよ。まだ一度しか会ったことないんですから。」
「また始まったわね。あんたの人間不信……」
「いい人には裏があるんですよ。それはですね……」
「ああ、もういいわ。聞くのがめんどくさいから。次行きましょう。」
やっぱり僕の話は真剣に聞かないな。
まぁいいか。
後ほどしっかりと言い聞かせよう。
僕のこれまでの体験談を添えて。




