29 初めまして
「よし、殲滅完了だ。討伐証明だけもらって帰りましょう。」
「あんた……ひどくない?悪いことしてない人を殺して……」
「人ではないでしょ。獣人かもしれないけど、本当かどうかは分からない。あと簡単に騙されないでくださいね?」
「騙される?」
「人間襲ったことないって言ってましたよね?」
「言ってたわね。それが嘘なの?」
「嘘ですね。ここに来るまでに洞窟の中で骨が転がってましたよね?あの中に、人の骨もいくつかあったらしいですよ。」
「え?そうなの?」
「それに、あいつからは人の血特有の匂いがかなりするらしいですよ。あと……」
「あと?」
「僕らの依頼内容は巣の殲滅ですよ?逃がしたら依頼達成してないじゃないですか。巣まで案内してくれた人が見張ってるはずですよ。」
「そっか。確かにそうね。」
「依頼内容はちゃんと覚えておいてくださいね。今後はしっかり頼みますよ。」
「さっきは私に助けてもらったくせに! 偉そうでむかつく!」
「それは……すみません。助けてくれて有難うございます……」
「ふんっ。というか、人の骨が落ちてたとか、人の血の匂いがするってあんた誰から聞いたの?」
「え?」
「いや、あんたさっき言ってたじゃない。人の骨があったら『らしい』とか、人の匂いがする『らしい』とか。誰かに聞いた感じでしょ。」
あ……確かに……言ったな。
あんまり考えずにしゃべってしまった。
「そ……そんなこと言いましたっけ……」
「言ったわよ。絶対に。誰に聞いたの?あんたと私しかいないのに。」
「いや、単なる言い間違いです。誰かに聞いたわけでもなく、ぼ……僕の意見ですよ。」
「なんであんた人の血の匂いとか分かるわけ?そんなスキル持ってなかったじゃない。」
くそっ。
普段は全然適当なのに、こんな時だけ鋭い。
「か……勘ですよ……」
「へぇ。あんた、ただの勘でコボルトのことを『嘘つき』って判断して殺したんだ。そんなことしていいの?」
「クっ……」
「そういえば……あんたたまに一人でブツブツ言ってるわよね?あれが何か関係してるの?」
アズサさんは、何やらニヤニヤしながらこっちを見てくる。
僕が何かを隠してるって気付いているな……
なんでだ……ポンコツだと思ってたのに……
【主よ。もう苦しいんではないか?もう我のことは話したらどうじゃ?】
「(まだだ。まだごまかせる……はず……)」
「あ、またなんか一人でブツブツ言ってる。それ何?」
【もう無理じゃ。早く楽になれ。別に我のことがバレても、問題はない。もう面倒じゃ。】
確かに……
何で隠そうとしてたんだっけ?
別にいいよな。
「分かった……僕が悪かったよ。全部話します。」
「はぁ。やっと観念したのね。ちゃんと話しなさいよ。」
◇
それから僕はサタの魂の器になったこと、サタと僕は意思疎通ができること、さっきのコボルトの件もサタからこっそり聞いたことを伝えた。
「ふーん。あんた悪魔にとりつかれてるんだ。」
「とりつかれてるっていう表現が合ってるかは分からないけど、そんな感じです。」
「ねぇ。その悪魔と私って会話できるの?」
「え?」
「いや、私も会話できた方がいいでしょ。というか喋ってみたい。」
無理じゃない?
【可能じゃ。】
「((⁉))」
え⁉
そうなの⁉
よく見るとアズサさんも驚ているようだ。
「(もしかして、既にアズサさんにも話しかけてるのか?)」
【うむ。我と話したいのじゃろ?我のような高位な悪魔であれば、人の魂に直接語りかけることは容易じゃ。そもそも主が器になる前から、会話ができていたじゃろう。】
そういえば、そうだったな……
「(あの……サタさん……っていうのよね?)」
【うむ。主の仲間であれば、「サタ」と呼ぶがいい。】
「(分かったわ。初めまして、サタ。私はアズサ、よろしくね。)」
【うむ。頼むぞ、アズサよ。】
サタとアズサさんが会話してるのは新鮮だな。
でも最初からこうしていれば良かったな。
コソコソしてたのが馬鹿みたいだ。
「(ねぇ、サタ。一つ聞きたいんだけど。)」
【なんじゃ。】
「(ヒロキってやたら強いんだけど、サタのおかげで強いの?それとも、あいつって元から強いの?)」
【うむ。100%我のおかげじゃな。主は、才能がない。アズサの方が才能があるじゃろうな。主よ、もっと我に感謝るがよい。】
「なぁんだ。あんた、私に偉そうに言ってたけど。ズルしてたんじゃない。最低。サタに感謝しなさいよ。」
【そうじゃぞ。アズサは理解が良いな。主よ、早く感謝の言葉を述べよ。聞いてるのか?主よ。】
うっぜぇええええ。
やっぱりこいつらを会話させるんじゃなかった。
後悔しかない。
「早くしなさいよ。ヒロキ。」
【早するがよい。主。】
あぁ……もうだめだ……
「とりあえず討伐証明だけ手に入れて、帰りますよ……」
今後が思いやられる……
アズサさんとサタの感謝しろ攻撃はしばらく続いた……




