28 魔物とは?
危なかった。
アズサさんに後方に投げられていなければ、僕は斬られていただろう。
そんなに気を抜いていたつもりはなかったんだけどな……
「すまない。助かったよ。」
オオカミの顔をした魔物、これがコボルトか。
僕に剣を振り下ろした奴の後方から、ゾロゾロと仲間が出てきた。
僕らを品定めするようにじっくりと見ている。
「なんか、いっぱい出てきたわよ……本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だ。問題ない。」
多分な。サタが雑魚って言ってたから、間違いない。
「そんなこと言って、さっきやられそうになってたじゃない。あんた本当に強いの?戦ってるところみたことないから、不安になってきたわ。」
【言っておくが、先ほどの攻撃に当たっていたところでさほどダメージは受けていなかったぞ。主よ、馬鹿にされたままでいいのか?】
「(良くないな。僕の強さをそろそろ見せてやろうか。)」
【主の強さというよりも、我のチカラなのじゃが……】
「(うるさい)」
「相手は12体だな……僕が先陣をきりますんで、あとは適当に倒せそうなやつをアズサさんに任せます。」
「え?」
力強く地面を蹴り、僕は群れに突っ込み、一番先頭の奴をぶん殴った。
ゴブリンとは違い、頑丈らしく、顔を殴っても潰れたりはしなかったが、首の骨は折れているので恐らく絶命しているだろう。
いきなり間合いに入られ、仲間が倒されたことにコボルト達は呆気にとられているようだ。
そんな中、すかさず次の獲物、次の獲物へと攻撃を加えていく。
アズサさんを横目でみると、驚き、固まっているようだ。
「何しているんですか?早く加勢してくださいよ。パーティでしょ?」
「わ、分かってるわよ。」
アズサさんもようやく加勢してくれるらしい。
僕を警戒しているコボルトの背後にまわり、首を狙って攻撃を繰り出した。
1体は簡単に上手く倒せたようだが、その後は素早い複数のコボルト相手に手こずっているようだ。
でもまぁ問題はなさそうだな。
僕も残りを倒してしまおう。
コボルトは確かに素早かった。
ただし、ゴブリンに比べて、という程度だ。
何の問題もない。
僕の攻撃はほとんど当たるし、相手は防戦一方で、僕に対して攻撃をする余裕もない。
やはり大したことないんだな。
最初の不意打ちはヒヤッとしたが。
アズサさんが戦っている奴以外、残すは1体のみである。
じゃあ、片づけてしまおう。
そう思った時だった。
「貴様!我が同胞を……」
え⁉
しゃべった⁉
「お前、喋れるの?」
「何を言っている。喋れるに決まっているだろう。」
「魔物なのに?」
「我らは獣人だ。貴様らが勝手に魔物扱いしているだけであろうが。」
「そうなのか……初めて知った。」
そうなのか。
確かに人型だもんな。
「というか獣人ならなんでこんなとこに住んでるんだ?街に住んでいる獣人もいるだろ?」
「貴様ら人間が我が種族を迫害したのであろう。何を言っている。我らの居場所を奪ったのは貴様ら人間だ!」
なんかよく分からないが、かなり怒っているな。
「よく分からないんだが、お前らが悪いことしたんだろ?」
「ふんっ。悪いことだと?何を吹き込まれたか知らんが、我らは何もしておらん。」
「え、人間を襲ったり、家畜を襲ったりしたんだろ?」
「ん??」
「貴様は何も知らんのだな。教えてやろう。人間はそうやってありもしないことを我らのせいにして、我らを殺す口実にしているのだ。」
「そうなのか?でもさっき僕は急に殺されかけたんだが……」
「それは貴様が、我が領地に勝手に入って来たからじゃろうが。不審な奴が侵入してきたら、普通は攻撃するじゃろう。」
「確かに……お前の言う通りだ。それは俺が悪かったな。」
「ほお。貴様は話が分かるようじゃな。人間にしては良い奴だな。どうじゃ、今回は我を見逃してくれんか?」
「褒めてくれたのか。有難う。見逃す?」
「あんた、何やってるの?」
アズサさんは戦闘を終わらせて駆け寄ってきた。
「いや、こいつが話せるやつなので、会話をしてたんです。」
「は?何で話せるの?」
「知らないですけど、コボルトは獣人だから喋れるらしいですよ。見逃してほしいって言ってます。」
「獣人?魔物じゃないの?というか見逃すの?」
「こいつら悪いことはしてないらしいんです。人間も家畜も襲ってないらしいんです。でっち上げだって。」
「そ、そうなの?それは可哀そうかも。」
「小娘よ。我は獣人じゃ。貴様らにその気がないならば、危害を加えるつもりはない。見逃してくれるならば、この地からは出ていこう。ここに住んでいることが気に食わないのじゃろう。もう我はおとなしく暮らしたいのじゃ。ただそれだけじゃ。」
「あ、出て行ってくれるんだな。それじゃあ問題ないのか?」
「知らないわよ。でもここから出ていくなら依頼は達成かな……どうだろ。可哀そうだしね……」
「ふむ。それなら我はもう行く。二度とここには戻ってこない。今後も我が同胞を見たときには、大目に見てやってくれ。我らは悪いことなどしてないのだからな。」
そう言って、コボルトは背を向けて出口へと歩いて行く。
「おい」
「なんじゃ?」
振り返ったコボルトの頭を僕は掴んだ。
「人間よ、なんのつもりだ!」
「俺は見逃すなんて言ってないぞ。」
「⁉」
「死ね。」
頭をそのまま地面に叩きつけ、コボルトは絶命した。




