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26 飲みにケーション

目の前で吐かれるのは予想外だった。



  

「ごめん……なさい……気持ち悪くなっちゃって……」




ゲロゲロゲロ……




あ、また吐いた……




まぁでも仕方ないか。

ちょっと前まで普通にOLしてた女性が、魔物とはいえ人型の生き物を殺したんだから、そりゃ気持ち悪いよな。




「大丈夫ですか……?しばらく休憩しましょうか……」




「うん……少し休憩させて……」


 


この調子で依頼を全部こなせるんだろうか……

ちょっと不安になるな……



 



少し巣から離れて15分程休憩し、アズサさんの体調は少しマシになったようだ。




「ごめん……迷惑かけたわ。」




「大丈夫ですか?」




「うん……なんとか……」




「そうですか。じゃあ次行きましょうね。」




「次……?」




「はい。巣の奥にはまだまだいますので。事前の報告では15体は少なくともいるようです。全部やっちゃいましょう。」




「15体?私が?全部?」




「あ、今1体倒したので。あと14体ですね。あとさっき殺したゴブリンの耳もちゃんと切り取りましょう。」




「ちょっと待って……この状態の私を見て言ってる……?」




「はい。気持ちは分かりますよ。でも慣れないと今後やっていけないです。さあ行きましょう。」




アズサさんは顔面蒼白である。

本当に気持ちは僕も分かる。でも慣れないといけないのは事実である。




「無理無理無理無理……」




「無理と思うから無理なんです。アズサさんはできるんです。やりましょう。」




腕を掴み、無理やり耳を切り取らせたのだが、また吐いている。




また休憩なんかをしていたらいつまで経っても依頼が終わらないので、無理やり巣まで連れていき、ゴブリン狩りを決行した。



  




それからのアズサさんは凄かった。




最初は嫌々ながらも、恐る恐るゴブリンに近づき、背後から1体1体をゆっくり丁寧に殺していった。

何度も吐きながら。




1つ目の巣の殲滅は全てアズサさんのみによって完了した。

時間も余裕があったので、2つ目のゴブリンの巣の殲滅に着手する。



2つ目の巣に入ったときには、もう慣れたものである。

流れるように気配を消し、背後から静かに殺す。ゴブリンは声を上げることも許されず、静かに息絶えていく。

たとえ相手が複数体いたとしてもだ。

殺しても一切表情を変えずに、次のゴブリンを探している。



「アズサさん、凄いですね。もうゴブリンはもう相手にならないですね。」



 

「うん。」



 

アズサさんの表情が死んでいる。

ちょっとやりすぎたかな。

でも僕は悪くないよ。これは仕方のないことだ。




結局その日のうちに2つ目の巣の殲滅を完了し、翌日には残り3つのゴブリンの巣の殲滅、計5つの殲滅をアズサさん一人で完了したのだった。



依頼完了の帰り道、あまりに表情が死んでいるアズサさんが心配になったため、飲みに誘うことにした。

僕が大嫌いな飲みにケーションである。まさか自分が行うとは思わなかった。

アズサさんの好きなものってお酒しか僕は知らないので、仕方ないのである。




「今日はゴブリンの巣の殲滅依頼完了のお祝いとして、飲みにでも行きましょうか。」




「うん。」




反応薄っ。

元のアズサさんに早く戻さないと……やりづらいな……






今、酒場に来ており、僕らの目の前にはビールが置かれている。


 


「今日は僕のおごりです。飲みましょう。乾杯。」




最初は無表情だったのだが、どんどん追加でビールを頼み、アズサさんが6-7杯飲んだくらいだろうか、酔いながらも表情が戻ってきている。




「もうゴブリンは慣れましたよね?」




「慣れてないわよ!あんなにこき使って!返り血をたくさん浴びて!気持ち悪いわよ!」




「でも、もう怖くはないですよね?」




「怖くはない……けど、慣れてはないの!あんたは人使いが荒いの!女の子の気持ちが分からないダメ人間!」




「まぁ他人ですからね。他人の気持ちは分からないですよ。」



  

「気持ちを分かろうとしてない!」



声がでかい。

完全な酔っ払いで、周りの客もチラチラとこちらを見ている。


 

「これくらいしないと今後やっていけないですよ。僕だってこんな荒っぽくはしたくなかったんです。でも、これはアズサさんのためを思っての行動なんです。アズサさんは大切な仲間なんです。それに、次の依頼からは僕も参加しますんで、許してください。」



一応、言い訳だけはしておこう。



「大切な仲間……うん……あんたも一緒にやるなら……許す……次からはちゃんとやりなさいよ……」




あ、許してくれた。まさかである。

何に納得したのか分からないが、とりあえず納得してくれたので良かった。

やっぱり困ったときはお酒である。

飲みにケーションは大切ということだな。

勉強になった。




その後もアズサさんはお酒をガブガブ飲み続け、僕の財布がすっからかんになった。

明日必ず、ギルドに報酬をもらいに行かないとまずいな……

 



あと飲み過ぎたのか、宿までの帰り道にアズサさんはまた吐いた。




女性がこんなに頻繁に吐くのを見るとは思わなかった。

飲ませ過ぎた僕が悪いのだが……




飲みにケーションは、ほどほどに。

勉強になりました。

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