23 仲間になるために
とりあえずアズサさんを連れて、僕はオアシスに戻ってきた。
宿屋の店員に事情を説明したところ、同室でも良ければ本日はアズサさんも泊まってもいいとのことであった。
本当はパーティメンバーでもない限り、ギルドから紹介されていないメンバーは宿泊できないらしい。
宿にも迷惑をかけてしまったな。今日は本当についてない……
アズサさんを部屋に案内した。
「本当はダメなところを泊めてもらってるんです。今日だけですからね。明日の朝食はもちろん僕の分だけしか用意されていないですからね。あと騒いだりしないでくださいよ。」
「すごい!あんた、こんな綺麗なところに泊まってるの⁉うらやましい……私の方がこの世界の先輩なのに……ずるいわ!」
「ずるくないですよ……ちゃんと働いてますから。明日は早く起きるんで、早く寝てください。」
確かにこの世界に来たのはアズサさんの方が先輩かもしれないが、年齢的には僕の方が恐らくかなり先輩だ。
アズサさんは見た感じ20代前半、僕は35歳なので一回りくらい違うんじゃないかな。
なんで僕の方が気を遣ってるんだよ……
気遣いとか僕の一番嫌いなことなのに……
ってまだ寝ようとしていない。
「早く寝てくださいよ。」
「えっと……」
ん?何か気まずそうにこちらを見ている。
なんだろう……あ⁉
仕方ないな……あとで文句を言われても面倒だ。
「ベッドは使ってください。僕はソファーで寝るので。本当に今日だけですからね!」
「ありがとう!感謝するわ!」
そういえばタメ口使われているな。
普段は気にしないんだが、この人には腹が立つ。
早く追い出さないと。
そう思いながら、僕は眠りについた。
◇
翌朝、起床するとアズサさんはぐっすりと眠っていた。
僕は部屋を出て朝食を一人でいただき、水浴びなども済ませて部屋に戻って来たのだが、まだ寝ている様子である。
そろそろ依頼をこなすためにオアシスから出発したかったので、アズサさんを起こそうとするもなかなか起きない。
「もう少し寝かせて……お願い……」
はぁ面倒くさいな……
【主よ、この女、邪魔であるな。殺してしまってはどうか?】
サタは、相変わらず気が短いな。
まぁ気持ちはものすごく分かるのだが。
「気持ちは分かるが、これでも同郷なんだ。殺しはしないよ。もしかすると僕に何かメリットをもたらすかもしれないし……」
【メリット……この女から……限りなく低そうじゃな……まぁ好きにするがよい。】
そうなんだよね。
サタの言う通り、限りなく低そうだよな……
まぁとりあえず起こさないと。
「アズサさん!早く起きないと、今後一切助けませんよ!」
「すみません。起きます。助けてくれなきゃ困ります。」
あ、起きた……急に敬語になってるし……
「とりあえず僕は仕事に行きますんで、宿屋から出てください。」
「私もついて行けばいいのね。分かったわ。」
「え?戦えないんですよね?邪魔なんでついて来なくていいですよ。」
「なんでよ!戦えるようにするわ!私はどうすればいいのよ。仲間にしてくれるって昨日言ったじゃない!」
「言ってないですよ……考えはしますが、今すぐにとは思ってないです。とりあえずアズサさんは一人で仕事を見つけてください。」
「なんでよ!もう、一人は嫌よ!お願い!見捨てないで……」
またアズサさんは僕にしがみつきながら泣き出してしまった。
ほんとめんどくさいな……
でも、これでは話が進まない。
「アズサさんは仲間になったら何ができるんですか?どんな能力があります?」
「簡単に自分の能力を教えることはできないわ。そんなの常識じゃない。」
「じゃあ、もういいです。さようなら。」
正論だが、腹が立つ。
「ごめんなさいー。嘘です。ちゃんと教えますから待ってください。」
「はぁ……全部は教えなくていいんですけど、何か僕の役に立てそうな能力があれば言ってください。」
「ないの……多分。ギルドに登録したときに鑑定してから、改めてしたことはないの。」
「鑑定したときに、スキルは何もなかったんですか?」
「スキルはなかった……」
あ、やっぱりダメだ。
「やっぱり、パーティは組めませんね。」
「待って!私はもう2年くらい冒険者をやってるの。今、鑑定すればスキルの1つくらい習得しているかもしれないわ!」
なるほど。一理あるな。
「では能力鑑定に行きましょうか。それでスキルが何もなければ諦めてください。それでいいですか?」
「え……なければ諦める……それは良くない……けど、とりあえずチャンスをください!」
「では行きましょう。ギルドに立ち寄るのは非常に面倒なのですが、仕方ないです。」
◇
こんな感じで能力鑑定のためアズサさんとギルドに立ち寄った。
「ヒロキ様。朝早くにどうされました?もしかしてもう依頼が完了されたのですか?」
僕らがギルドに入ると、アンジュさんがすぐさま駆け寄ってくる。
「いえ、違いますよ。ちょっと色々ありまして、この人の能力鑑定をお願いしたくて立ち寄りました。」
「あ、そうなのですね。能力鑑定ですね。承知しました。そちらの方……パーティを組まれるんでしょうか?」
「いえ、能力鑑定次第で検討するといった感じです。」
「そういうことですね。それではこちらへどうぞ。」
アンジュさんに案内され、能力鑑定をいよいよ行う。
「それでは、こちらの台にギルドカードを置き、水晶玉に手をかざしてください。」
そう案内されているのにもかかわらず、アズサさんはなかなか動こうとしない。
「アズサさん……早くしてください。鑑定しないんでしたら僕はもう帰りますよ?」
「あー分かったわ!やればいいんでしょ?やってやるわよ!」
やっとやる気になったようだ。
私は優秀だ、やればできるなどとブツブツ隣でつぶやいている。
そしてアズサさんは水晶玉に手をかざしたところ、水晶玉が発光し、光は消えていった。
アズサさんは自分のギルドカードを確認している。
「どうでした?スキルありましたか?」
「……」
「おーい!」
「……」
「はぁ。ダメだったんですね。こればっかりは仕方ないです。今回は諦めてください。またスキルが出たら声を掛けてくだ……」
「ふっふっふっふっふ」
⁉
急に笑い出すアズサさん。
「何ですか?」
「ヒロキ!残念だったわね!」
「え、まさか⁉」
「私、スキル持ってるみたい。仲間にしてもらうわよ。」




