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22 日本人

「やっぱり!」




「何がだよ。」




「あんた、日本人でしょ!」



 

「ん?そうだが?それがどうし……」



 

日本人……あれ……




「え⁉日本人を知ってるのか⁉」




完全に気が抜けていた。




「やっぱりそうなのね。元の世界とか言ってるし、顔も日本人っぽいし、そうだと思ったのよ。日本人を知ってるかって?知ってるわよ。私もそうだから。」




「あんたも日本人なのか⁉」




「そうよ。初めて同郷の人に会ったわ。こっちの世界に来てるのは私だけじゃなかったのね……」




あまりに予想外の出来事であったため、酔いが醒めた。




「僕の名前はヒロキ。僕はつい最近この世界に来たんだ。」




「最近……そうなのね。私はこの世界に来て、もう2年は経つわ。私のことはアズサって呼んで。この世界は貴族しか苗字を持っていないから。」




なるほど。違う時期にこの世界に飛ばされた人もいるんだな。

他にも元の世界からこの世界に来ている人はいると考えた方がいいかもしれないな。

というか苗字は貴族しか持っていないのか……初めて知った……

この機会に色々情報交換をした方がいいかもしれないな。




僕は現在の自身の状況を伝えた上で、アズサさんから色々話を聞いてみた。




アズサさんは日本で普通のOLをしていたみたいである。

ある日、街を歩いていると急に周りの景色が変わり、気付いた時にはこの世界に来ていたらしい。

日本に帰りたいので方法を探しているが、今まで何の手がかりも見つけることができていない。

生活のためギルドに登録はしているが、魔物と戦う力も度胸もないので、いつも低ランクの臨時パーティの荷物持ちをするか、街の中の掃除など戦闘にかかわらない仕事ばかりしている。

報酬の少ない仕事ばかりなのでお金も貯まらず、ストレスばかりたまる。

この世界に嫌気がさしたので、今日はなけなしの貯金をはたいて飲みにきた。

アズサさんの状況はこんな感じらしい。

 


この世界での愚痴を今は延々と聞かされている。



うん。あまりこの人と関わっても僕にとってメリットはなさそうだな。

僕だって生活は安定していないし、この人に構ってられない。

気の毒だが、早めに退散しよう。




「大変でしたね……僕も元の世界に帰る方法を探しておきますね。今日はもう遅いですし、宿に戻ろうと思います。またお会いする機会がありましたら、その時はよろしくお願いします。では!」




完璧だ。

これで帰れると思ったとき……




ガシッ!!



 

「え⁉」




「なにしれっと帰ろうとしてんのよ!!こんなに困ってるのに私を放っておく気?」




急に腕を掴まれた……

クソッめんどくさいな……




「いやぁ……僕も明日仕事で朝早いので、そろそろ帰らないとまずいんですよ。生活がかかってますので……」




と伝えて再度帰ろうとするも、さらに強くつかまれる。

僕を逃がす気がないようだ。



  


「あなたは聞く限り魔物を倒せるようだし、いいわよ!私は戦えないの!こんな知らない世界に、1人で放り込まれて……私、女の子なのよ!」




「え……アズサさんはOLだったって言ってたから、女の子っていう年齢では……」




「あぁ⁉」




「すみません……」





女性に年齢のことは言ってはいけないな……




「同郷の女の子が困ってたら、男としては助けるべきじゃないの?」




「いや、元の世界に帰る方法が分かれば、お会いできたときに、もちろんお伝えするつもりですよ。」




「連絡先も知らないのに、どうやって教えてもらえるのよ!絶対あんた逃げようとしたじゃない!」



 

 確かに……この人の言っていることは間違ってないな。




「じゃあ、アズサさんは僕に何を求めているんですか?」




「私とパーティを組んでよ!」




「アズサさん、戦えないって言ってたじゃないですか……僕は魔物と戦う依頼をメインでこなしますので、パーティを組んでも僕にメリットがないんですよ……無茶言わないでくださいよ。」




「私、頑張って戦えるようになるから!」




 「じゃあ、戦えるようになったら、また声を掛けてください。その時に検討します。僕はオアシスっていう宿屋にしばらくいますので、そこに来てもらえたら会えると思います。」




「オアシス⁉あそこは有望な冒険者しか泊まれない宿屋じゃない!私のこと見捨てないでよ!私が今夜どこに泊まるか分かる?お金がないの。無料宿場って知ってる?あんなひどいところに泊まりたくないよー……」


 


「酒場なんか来てるから悪いんじゃないんですか?」




 

「私に酒も飲むなっていうの⁉なんでよー……」




僕は正論を言ったはずだが……

アズサさんは納得できないらしい……

なんでだよ。




ついには泣きながら、僕の足にしがみついている。




「見捨てないで……お願いしますー……」




店の中でもかなり目立っている。



「兄ちゃん、女を泣かすのは良くないんじゃないか?」

「あんな美人を泣かすなんて、とんでもない男だな。みんなでシメるか?」

「絶対男が浮気したんだよ。あの男は悪い男だよ。あの男には気を付けるよう街の女には言いふらさないと。」




そんな声が店内から聞こえてくる。色々誤解が生まれている。

全て僕が悪者になっているようだ。




ふざけるなよ!僕は悪くない!

でもこのままでは、僕の生活に悪影響があるな……




「アズサさん……とりあえずお店を出ましょうか?」




「嫌よ!私を仲間にしてくれるって言うまでお店を出ないんだから!」




めんどくさい……




「分かりましたよ……パーティを組むかは置いておいて、とりあえずオアシスに一緒に行きましょう。アズサさんも泊まれるかどうか、宿屋に確認してみますから……僕がお金を出します。」




 

「ほんとに⁉いいの⁉」




「はい。宿屋がOK出すかは知りませんよ?とりあえず行きましょう。」




「有難う!ヒロキさん!一生ついて行きます!」




いつの間にアズサさんは泣き止んでおり、笑顔に戻っている。




あぁ、めんどくさい……

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