17 オアシス
そう。ギルドから紹介されたのはオアシスという名前の宿屋だった。
店員らしき少しふくよかな女性に出迎えられ、僕は建物の中に足を踏み入れた。
「ギルドから紹介され、本日初めて来ました。」
「ギルドから紹介されたってことは将来有望な冒険者さんだね。ようこそ、オアシスに。1泊食事付で銀貨3枚になるけど、何泊する予定だい?」
仕事で稼いだと言っても、仮身分証の発行代も支払わないといけないし、お金の余裕はそんなにないな。
「とりあえず2泊の予定でお願いします。後から延長とか出来ますか?」
「2泊だね。後から延長もできるよ。」
延長するかについては、仕事で稼いでから考えよう。
そう思いながら僕は2泊分の料金の支払いを済ませた。
「夕飯はもう食べるかい?」
「いただきたいです。」
「分かったわ。では準備をするから先にお部屋を案内するね。準備が出来たらまた知らせるから。」
部屋は2階にあり、食事は1階のロビーにあるテーブルで摂るらしい。
先に部屋を案内されたのだが、部屋は綺麗であり、とても安心した。
ベッドも置かれており、横になりたかったのだが、汗まみれの身体のため風呂に入ってからにしよう。
あれ、そういえば風呂ってあるのかな?
部屋の中には少なくともない。
あるとすれば大浴場だろう。
この街自体が中世のような雰囲気で、日本にいたときの現代社会とは程遠く、風呂があるかはちょっと怪しい。
風呂入りたいな……
後で聞いてみよう。
◇
夕飯の準備ができたと知らせがあったので、1階に降りたところ、食事が並べられていた。
サラダにステーキ、スープが今夜の食事らしい。
ステーキの量だがかなりボリュームがある。
1泊銀貨3枚と安いため、そこまで量は期待してなかったので、予想外だ。もちろん良い意味だ。
ステーキを一口食べてみると、とんでもなく美味い。
サラダもスープもかなり美味い。
確かにこの宿はかなり当たりだな。
お腹が空いていたこともあり、箸が進む。
箸はなくて、フォークだけど。
むさぼり食べていたところ、部屋を案内してくれた女性店員に声を掛けられた。
「食事は気に入ってもらえたかい?」
「最高に美味しいです。ずっとこの宿に泊まりたいですね。」
「そりゃ良かった。そう言ってもらえたら旦那も喜ぶよ。」
「旦那さんですか?」
「あぁ、食事は私の旦那が作ってるんだよ。この宿は私も旦那で経営してるの。バイトは何人か雇ってたりするけどね。」
「そうだったのですね。旦那さんの料理最高です。そうお伝えください。」
「ありがとうね。そう伝えとくよ。」
「あと、ついでに聞きたいことがあるんですけど、お風呂ってありますか?」
「お風呂?お風呂なんか貴族のお屋敷にしかないよ。この宿にもないよ。」
「貴族……ですか。お風呂、ないんですね。」
お風呂ないのか……
残念だ。というか、貴族とかいるのか。
やはり、日本とは全然違う世界だな。
「この街でいえばグティ男爵のお屋敷くらいにしかお風呂はないだろうねぇ。この宿の庭で水浴びはできるよ。それか、お湯とおしぼりは貸しているから、それで身体を拭くことはできるよ。どうする?」
「じゃあ水浴びしたいので、方法を教えて欲しいです。僕、ちょっと常識を知らなくて……」
髪を洗いたいので水浴びの方がいいだろう。
「分かったよ。じゃあ食事が終わったら声を掛けておくれ。食器はそのまましておいてくれればいいよ。」
「ありがとうございます。」
◇
食事を終え、水浴びもしたのだが、洗剤もないので全然洗えた気がしない。
ほんとにこの洗い方しかないないのか……
これは今後の課題だな。
部屋に戻り、今後の課題についてサタと話をすることした。
「サタ、明日からの活動方針について何か意見はあるか?」
【強き者と戦いたい。以上だ。】
「それだけか?でも僕はいきなり強い敵と戦うのは避けたいから、徐々に相手のレベルを上げたい。それでもいいか?」
【良いぞ。ただホブゴブリンはもう飽きたので、それ以上の奴が良いな。】
まぁ確かにホブゴブリンは弱く感じるな……
ホブゴブリンがDランクだから、Cランクの敵を探すことになるか。
「じゃあ、受付のアンジュさんにその辺り相談してみようか。」
【うむ。ただあのアンジュという者は、何かダダならぬ気配を感じるので、気をつけるがよい。】
確かにお金に対する執着はただならぬ感じだったからな……
「分かった。あと僕としては、生活の基盤を整えたい。仕事で稼ぐのもそうなんだが、生活についてもより良くする方法を探っていきたい。あと戦闘に関してもいつまでも素手じゃなくて、武器や防具も買いたいなと思うんだ。」
【いいのではないか。武器は確かに欲しい。主よ、良い刀を用意して欲しいのじゃ。】
「刀か。分かった。探すようにするよ。」
大まかな方針だが、サタと話し合った後、僕はベッドに寝転がった。
昨日、あまり眠れなかったからか、すぐに僕は意識はなくなり、翌朝はすっきりとした朝を迎えた。
朝も美味しい食事が用意されており、非常に満足し、宿を後にした。
入国審査の本部にも立ち寄り、銀貨5枚を支払い、正式な身分証も手に入れた。
やっと僕はこの街の一員になれた気がした。
「じゃあギルドに向かうか。」
【うむ。分かっておるな?】
「あぁ。」
【本当に分かっておるのか?】
サタもしつこいな。
昨日は徐々にということで納得してしたはずなんだが。
「分かってるって。僕だってサタには感謝してるんだ。できるだけサタの希望には応えるように努力するさ。」
【ふむ。分かっているならいいのじゃ。】
僕だって慎重にするとは言ったものの、自分のチカラを試したいと思う部分はある。
日本にいたときはこんな感情になることは絶対なかっただろう。
魔人になったことで、やはり精神に影響があったのだろうか。
「じゃあ、行こうか。」
強い奴を探しに。




