13 無料宿場
受付のお姉さんが呆れる中、僕はギルドを後にした。
さっそく薬草採取をと思ったのだが、外はもう陽が落ちており、薬草を見つけるどころではない。
仕方ない。今夜は無料宿場に泊まろう。
無料宿場は探したところ、すぐに見つかった。
だが……
「ここに泊まるのか……」
さすがは無料だ。
ボロボロの平屋の中に大部屋があり、多くの人が集まっており、もう寝ている者もいれば、酒を飲みながら談笑している者もいる。空きスペースはほとんどない。
そこに集まっている者の身なりは、まぁ汚い…
あと、なんといっても部屋がとてつもなく臭かった。
ここに雑魚寝するのか……
【主よ。ここに泊まるのか?】
「泊まる……よ……」
【正気か?こんなゴミどもと一晩過ごすなど無理じゃ。我の魂も汚れるわ。】
「仕方ないだろ。お金がないし、野宿よりはマシだろ。」
【こやつらを全員を跡形もなく消滅させるのはどうじゃ?部屋を主ひとりで快適に使えて良いだろう。我のチカラがあれば、こやつらなどすぐに消し去れるぞ。名案じゃろ。】
「却下だよ、バカ。無茶苦茶言うな。早く寝て、朝早くに出るぞ。」
【バカと言ったか。我を敬えと言うておろうが。】
サタがうるさくこの後もごちゃごちゃ言ってきたが、無視だ。
さっさと寝よう。
◇
翌日、まだ陽が昇り切る前に僕は宿場を出た。
いやぁ……キツかった……
強烈な臭さ、隣で頻繁に寝返りをうつ汚いおっさんと肌が触れ合う気色悪さ……
なかなか眠りにつけなかった。
「今日はまともな宿屋に泊まろう。」
【だから嫌だといったのじゃ。】
「すまない……でも無闇に人間に危害を加えるのはダメだぞ。僕らが敵対するのは魔物に対してだ。人間同士は極力穏便にいくのがいいんだ。」
【人間同士じゃと?主は人間ではなく魔人じゃ。いつまで人間気分なんじゃ。主はもはや魔物みたいなものじゃ。】
そうだった。
俺はもう人間じゃないんだな。
でもサタに揚げ足をとられるのは腹が立つ。
「うるさい。早く行くぞ。」
◇
教えてもらった薬草の群生地に向かいしばらく僕は歩いていた。
10km歩く必要あるって聞いてたけど、結構遠いよな。
あまり眠れなかったこともあり、僕は疲れていた。
「ちょっと休憩だ。」
【主よ。もう休憩するのか。ちょっと早すぎるぞ。】
「いいんだよ。寝不足だし、それに昨日から何も食べてないから、お腹も空いているんだ。ちょっとらくらい許してくれ。」
本当に腹が減った。
今日は報酬をもらって美味しいご飯を食べたいな……
そういえばこの世界の食事ってどんなものか気になるな。
そんなことを考えているとき、受付のお姉さんから魔物図鑑をもらったことを思い出した。
借りた袋から図鑑を取り出し、中身を眺めてみる。
ゴブリン、コボルト、スライム、オーク……などなど。
漫画でよく見る魔物だな。
魔物の名前とイラスト、強さのランクがそれぞれ載っていた。
随分親切だな。
僕が殺されそうになった相手も載っていた。
ゴブリンは知っていたが、筋骨隆々な化け物はホブゴブリンというらしい。
ゴブリン: 強さランク E
ホブゴブリン: 強さランク D
あの化物でさえDランクなのか。
魔物の中では弱い部類なのか……
サタのおかげで強くなっているとはいえ、油断は出来ないな。
でも今回はコイツらなら倒せる自信がある。
小遣い稼ぎをさせてもらおう。
「そろそろ行こうか。」
サタに伝えるように呟き、立ち上がろうとしたとき、
【主よ。】
「どうした。」
【現れたぞ。】
「何がだよ。」
【前方をよく見るがいい。】
サタの言う通り、前方を見ると、確かにそいつらはいた。
こんな何もない平原にも普通にいるんだな。
確かにギルドのお姉さんも稀に現れると言ってたけれど。
でも現れてくれて僕はラッキーだ。
LUK3というのは、何かの間違いかもしれないな。
「じゃあ小遣い稼ぎでもするか。」




