10 イニシオ
「ヘルト王国、イニシオへようこそ。私は衛兵のダイだ。」
「イニシオ……?」
「イニシオは街の名前だよ。君は知らずにここまで来たのかい?」
「すみません。街の名前だったのですね。知らず来ました……」
「知らない?どこから来たんだい?」
まずい……
異世界から来ましたなんて言えないよな……
できるだけ嘘はなしで誤魔化すか……
「実は気付いたときには近くの森になぜかいたんです。自分が誰なのか、場所がどこにいるのかも分からず彷徨っていたところ、街が見えたため来ました。過去のことを一切思いだせないのです。」
「なんと。それは気の毒に……身分証も持ってないよね?」
「身分証もありません。街に入ることはできないでしょうか?」
「うーん……通常、入国には身分証が必要で、なければ発行すればいいのだがお金は……ないよね?」
「すみません。お金も一切持っておりません。」
「困ったね……一度、本部で検討するので近くで待機してくれ。君の事情も考慮するよう伝えるよ。」
「ありがとうございます。」
良かった。なんとかなるかもしれない。
街に入れればいいのだが……不安である。
【あの者からは強いチカラは感じられぬ。主であれば問題なく勝てるだろう。殺してしまえば、邪魔されることなく街に入れるのではないだろうか。】
「物騒なこと言うなよ。もし街に入れたとしても、そんなことしたら指名手配みたいになり、ずっと追われるんじゃないか?無闇に人を傷付けるのはなしだ。」
【ふむ。主がそう言うなら従おう。】
サタはやはり危ない奴だ。さすが悪魔だ。
でも僕の言うことに理解はしてくれるので、根っからの悪ではないのかもしれない。
しばらく待機していると衛兵が近づいてきた。
「君の事情を考慮して仮身分証を発行することになったよ。」
「ありがとうございます!」
「ただし、身分証の発行代として銀貨5枚を支払ってもらうことになる。もちろん君は今お金がないので、2週間以内に、後払いしてもらうことになるけど、いいか?」
銀貨5枚……どれほどの価値なのか……
でも今は生活基盤を整えなければいけない。
「分かりました。発行をお願いします。」
「分かったよ。じゃあ、入国審査の本部に行くから、僕についてきて。」
衛兵に連れられ、無事に仮身分証を発行してもらうことができた。
「ヒロキ様、こちらが仮身分証になります。2週間以内にこちらの本部まで銀貨5枚をお支払いいただけましたら、正式な身分証をお渡しいたします。ただしお支払いが滞った際には街から追放となりますのでご注意ください。」
本部の受付からは説明があった。
追放……何としても支払う必要があるな……
「すみません。働き口はどこかあるでしょうか。あと宿もお金がなくて……」
「仕事はギルドで探してください。無料でギルド登録できますので、自分にあった仕事を選べますよ。宿は無料宿場がありますので、そちらをご利用ください。ただし環境はよくないので、早めにきちんとした宿屋をお探しすることをおすすめします。」
「教えていただきありがとうございます。」
ギルドか。本当に漫画みたいだな。
宿は一応あるみたいなので助かった。
他にも本部の方に教わったのだが、
この世界の通貨は銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨が使用されているみたいだ。
色々聞く限り、それぞれの価値は大体予想できた。
銅貨 百円
銀貨 千円
金貨 一万円
大金貨 十万円
白金貨 百万円
なので仮身分証は5千円くらいだろう。
2週間あればなんとかなるだろう。
仕事さえあれば…だが……
「それではイニシオをお楽しみ下さい。」
そして見送られながら、入国審査の本部から出た。
「サタ、まずは生活基盤を整えよう。とりあえずギルドで仕事を探そう。」
【どんな仕事があるか楽しみじゃな。早く強き者と戦いたい。】
はぁ……安全な仕事があればいいんだが……
「とりあえず行こうか。」
僕は不安を抱えながらもイニシオでの一歩を踏み出した。




