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誰かがそこに居る

 フレディの異常の原因を探るため、マミは彼と同型のパレッタたちと交流をはかることに。彼らの日常に何かヒントはあるのか……。

 その一方でフレディに寄り添い続けるマコ。そんな中、フレディには更なる異変の兆候が現れ始めていた。

「やっぱりそうなるわよねぇ……」とマミは困った様子で続けた。

「部屋の入口から覗いた時点で、不安定な境界だなとは思ったのよ。さっきも言ったけど……怯えた様子で、私のことを何かと重ねている感じだった」

「それがフレディ本人なのかは……?」

 恐る恐る尋ねるマコに対し、マミは首を横に振った。

「さぁ……確実なのは、彼の身体に()()()()()ってことだけよ。融合しているのか、憑かれているのかはまだ曖昧だけど」

「ねぇ」と今度はマミがマコへ尋ねた。

「フレディくんと同じ機体とかはいないの?」

「え? あぁ、いるよ。今は別室の方にだけど……フォルテとメアリー、それとパレッタの三人。その三人は特にこれといった問題は起きてないけど」

「成程ね……ならその子たちに話を聞いてみましょうか。何か分かるかもしれないし」

 マコが頷こうとしたその時、彼の背中側に広がる廊下から声がした。

「――あら、マミじゃない!」

「ルナ……」

 彼女は何かを抱えていた。それに気づいたマミが「それ……」と指をさす。

「あぁこれ? 絵本よ。私のお古なんだけど……」

「……絵本を読むような歳の子がいるってこと?」

「えぇ。一人だけだけどね、それでも……何か気になっちゃって。表面上は異常がなくても、もしかしたらフレディみたいに何かあるかもしれないし……」

 ルナは絵本を抱きしめ、笑って言った。

「少しでも気が休まってくれたらいいなと思って、渡しに行こうとしてたの」

「そう……ねぇルナ、私も一緒に行ってもいい?」

「もちろん! 早速行きましょ!」

 マミは頷いてから、マコの方を見た。

「あんたはフレディくんの傍に居てあげな。さっきの様子だと、まだ不安定だろうし……あんたが居た方が、あの子も落ち着くだろうから」

「……分かった。それじゃあ、三人のことは任せるよ」

「えぇ」

 マミはマコが部屋へと戻ったのを確認し、ルナの隣に並んで廊下を歩き始めた。

「フォルテたちが居るのは、この先の角を曲がってすぐにある部屋よ。基本的には自由に過ごしてもらってるわ」

「……至って普通の獣人の子供に対する対応と変わらないのね」

「機械的な部分を除けば獣人と大差ないからね」

 マミが相槌を打つと同時に、角の向こうから薄紫の髪色にやんわりとした目元の青年が顔を覗かせた。

 青年はマミたちに気づいたのか、目を丸くさせ、口を開いた。

「あっ、ルナさんと……マコ、さん?」

 マミは苦笑混じりに「惜しい」と言った。

「フォルテ、このヒトはマコのお姉さんよ。マミっていうの」

「あっ、そうなんですね、すみません……‼」

 頭部にある無機質な長耳がしょんぼりと垂れ下がり、駆動音が廊下に響いた。

 マミは軽く手を振りつつ振った。

「結構間違われること多いから気にしないで。えっと……」

「あ、フォルテです……よろしくお願いします」

 フォルテがマミに会釈をしたその時だった。彼の背後から更に二人、姿を顕にする。

「あーっ、ルナだぁ!」

 ぱたぱたと忙しなく駆け寄って来たのは、シマエナガの羽毛のようにフワフワとした黒髪のアニマヒューマノイドだった。そんな彼女の後ろからは、赤毛のキツネ耳を持った少年もやって来る。

「あら可愛い」

「シマエナガ型の子がメアリーで、キツネ型の子がパレッタよ」

 ルナは簡潔に紹介を終えると、メアリーの前でしゃがんだ。

「メアリー、今日は貴方に渡したいものがあるの」

「なになに〜?」

 興味津々な様子で尋ねるメアリーを見て、同じ機械人形でありながら、フレディよりも感情が読み取りやすいなとマミは観察していた。

「これね、幼い頃の私がよく読んでいたものなの。メアリー、本を読むのが好きって話してくれたでしょう? よかったら読んでくれないかしら」

「いいの? ありがとうルナ!」

 絵本を受け取ったメアリーはその場でピョンピョン跳ねた。

「よかったなぁ、メアリー」

 パレッタが彼女の頭を撫でる。振る舞いなどを見ても、確かに獣人と何ら変わりないように思えた。モデルとなっている獣人の種族こそ違えど、仲は大変良いようである。

 微笑ましい空間を見て、マミは微笑を浮かべていた。

 マミに気づいたのか、メアリーが目を輝かせて言った。

「カッコいい……! お姉さんだぁれ?」

 マミは片膝をついてメアリーに挨拶をした。

「初めまして、メアリーちゃん。私はマミ、マコのお姉ちゃんなの」

「へぇ!」とメアリーの隣に居たパレッタが声を上げた。

「マコさん、お姉さんがいたんだな」

「フレディの件で手伝いに来てもらったそうよ」

 ルナの補足にパレッタは「へぇ~」と返していた。するとメアリーが先程貰った絵本をマミの前で見せる。

「お姉ちゃん、この絵本読んで!」

 マミは一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐに笑って頷いた。

「いいよ。あっちの机がある方に行こうか」

「うんっ!」

 メアリーは小さな手でマミの大きな手を引っ張るように部屋へと案内し始めた。その光景を微笑ましく見つめながら、フォルテとパレッタもついて行く。

「マミ……あんた読み聞かせなんてできるの?」とルナが彼女に囁いた。

「失礼ね……こう見えても(マコ)(マサ)が小さい頃はよくやってたわよ」

 部屋に入ると、マミは小さめの椅子の前へと案内された。彼女は慎重にそこへ腰を下ろし、メアリーから受け取った絵本を丁寧に開く。

「それじゃあ、読んでいくね」

 その声に、自然とメアリーたちの身体が前のめりになる。

「むかしむかし、あるところに――……」

 ……マミが読み進めていくうちに、メアリーはページの挿絵を見つめながらうんうんと頷いたり、小さな声で感想を溢す。それに加え、パレッタが時折「あの動物、フォルテに似てるな!」などと呟いて場を和ませていた。

 そんな中、マミは三人の様子を見守りながら、フレディの様子との違いを実感していた。

 それから暫くして読み聞かせが終わると、メアリーが「ありがとう、マミお姉ちゃん!」とお礼を述べた。

「どういたしまして」

 マミは絵本を返すと、三人に気取られることのないよう、少しだけ目を細めた。

「……」

「なによ、マコたちの昔でも思い出してるの?」

「いや……」とマミは否定し、ルナにそっと囁く。

「あの三人はフレディくんと違って、境界線が揺らがないなって」

「……? どういうこと、それ」

 マミはそれに答えず、一人で黙々と思考を巡らせ始めた。

 会話の一貫性。反応の素直さ。メアリーたちの自然さが、フレディの抱える異常性を浮き彫りにしていく。

「……分からないことだらけね……」

「ちょっと、マコみたいに一人で思考しないで私にも教えてちょうだいよ〜!」


 部屋の中では、フレディが枕元から外の光をぼんやりと見つめていた。マコはその傍らで椅子に腰掛け、疲労を隠せない顔で彼を見ている。

「……フレディ、大丈夫か?」

「……あぁ」

 それが何に対する返答なのか、フレディ自身も分かっていないのだろう。マコはそう感じて、目を細める。

 手探りのまま続けるしかないとは分かっているが……マコの焦りは募るばかりであった。

「マコの方こそ……大丈夫なのか?」

「……えっ?」

 意表を突かれ、マコは一瞬反応が遅れた。

「その……私のせいで疲れているんじゃないかと思って」

「あ〜……まぁ、疲れてないって言ったら……嘘にはなるかな」

「まさか気づかれるとは」と笑って呟くマコだが、彼の目元にはうっすらと疲労の影が落ちていた。

 フレディはそんなマコの手を取って言った。

「マコ、少し休んでくれ。私は疲れというものを知らないが……キミには少しでいいから休んでほしいと思っている」

 言葉は機械的であるが……どこかに()()の温度が宿っている。そう感じたマコは、フレディの手を握り返し、もう片方の手で彼の手を上から包み込んだ。

「ありがとな。お言葉に甘えて……十分だけ仮眠をさせてほしい。良かったら起こしてくれるかい?」

「任せてくれ」

「よろしく」と頼んでマコは目を閉じた。

 マコが眠りに就くと、部屋は静寂に包まれた。彼の眠る姿を見て、フレディがボソリと呟く。

「寝るのが早いな。まるで……パレッタみたいだ」

 その次の瞬間だった。ザザッと視界にノイズが走り、フレディは頭を押さえた。

「ッ……?」

 耳鳴りとも違う、バッテリー切れを起こす前にも感じた感覚。脳裏にまたあの()()()()が流れ始める。

 ――青年だ。どこにも記録(ログ)が無い、知らない存在。彼は真っ直ぐフレディを見つめている。

「キミは……誰だ……?」

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