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ミシハセ  作者: 金子よしふみ
第二章
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業務中の出来事

 調査をしている時のことだった。

 小学生がこちらをじいっと見ていた。その目にはいかめしささえあるように見えた。調査を一旦止めるところだったが、腕時計を見た。三時半を過ぎていた。下校の途中なのだろう。作業着だから工事と思っているのだろうか、親しみのある土地を改良するとでも思って恨めしくなってでもいるのだろうか。トラックもダンプも重機もないだろと、ワゴン車だけれども。ああそうか、これは現地調査である。地元に愛着のある小学生にとっては、それはこれから工事をするための事前準備と受け止められたのかもしれない。いや、あの目はそういうものだろうか。破壊者への憎しみだろうか。

「どうしたんだい?」

 作屋守が声をかけると、小学生は駆けて行った。何かをつぶやいたようにも聞こえた。作屋はできるだけ優しくしたつもりである。怒鳴ったわけでもないし、邪険にしたわけでもない。けれども大人から言われて、小学生はたじろいでしまったのかもしれない。

 妙な間ができてしまったと感じて、作屋守は休憩をとることにした。後部座席から保冷バッグを出して、新聞紙を敷いて地面に座った。エナジードリンクのプルタブを開けてゴクリと喉を鳴らした。土の匂いがする。敷地の真ん中にいる気がする。ミルフィーユよりも厚みのある圧倒的に力強く感じられる地層を真ん前にしているというのに。蒸されている気がする。夏はまだ早い。確かに日差しはあるが熱中症になる危険性もないし、じっとしていても汗が滝のように流れるというわけでもない。それにそんな快晴ならば蒸されているなんて感じはしない。地から湧いて来る熱、いや熱が発生している感じではない。それなのに蒸されている気がする。エナジードリンクはあっという間に飲み干してしまった。スポーツドリンクを出した。ペットボトルの蓋を開け、一口コクリと飲んだ。ミストサウナから出て冷水に入った後のようだった。蒸されている感じは止んだ。真ん前の地層を見ていると、落ち着いてきた。風景画を見ているような気分になってきた。下校途中に工事現場と間違えるような、そんな作業着姿の大人を自分は少年の頃、どんな目で見ていただろうか。そんなことを作屋守は思いついてしまった。思い出してみた。道草はあまりしなかったはずだ。公園を横切る時にはもう遊びたい気分になっていた。工事、そう道路工事をしているのを見たことはあった。それだけじゃない。組んだ足場で、壁をどうにかしていた、それを見た記憶がある、あれは幼馴染のお姉さんを好きだと言っていた友人の隣の家だったか。他にも思い出せないが、あるはずだ。けれど、記憶が判然としなくとも、はっきり言えるのは少年のような目では見ていなかった、と言うことだ。一緒に帰っていた友人も同じだ。だから、あの少年の目は違和感だ。むしろ、逆にあの目をしたことはないだろうか、作屋守は思い出そうとしたが、スポーツドリンクを飲み干してしまったので、仕事を再開することにした。


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