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ミシハセ  作者: 金子よしふみ
第五章

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言われたことは

 化かされるのは人である。化かすのはキツネか、タヌキか。昔話のメジャーと言えば、動物なのに妖怪じみた力を持っている動物である。

「そりゃ、ムジナに化かされたんだわ」

 上機嫌にそんな返答をされたのは、リサのことや居酒屋のことなんかを思い切って話したせいである。もう頭頂部に髪のないご老人はご機嫌だった。彼は宿に出入りする業者だった。もうすぐ出発する作屋守が宿の主人に話しているのを聞いたらしい。作屋守としてはこういった話が広まるのは恥ずかしい。が、ここに定住しているわけではない。解答、でないとしても参照やヒントや、そうでなければ情報が得られるのはありがたいことでもあった。

「ここにゃあキツネはおらんから、人を化かすのはムジナなんだわ」

 聞けば当地の昔話にいくつかエピソードがあるらしい。業務がてらに旅行者へナイスなアドバイスで万事解決とばかりにそそくさと老人は去って行った。宿の主人はぎこちない笑顔で、

「他にご用向きは?」

 と言うもんだから、作屋守はやんわりと謝辞を述べるしかなかった。

 ムジナ。聞いたことがあるような単語だった。キツネもたぬきも知っている。姿かたちが思い浮かぶし、昔話も知っている。ところが、ムジナという単語に聞き覚えがあるにしても、それがどういう姿なのか知れないし、昔話なんぞ聞いたこともない。キツネが三角っぽい顔かたち、タヌキが丸っぽい顔かたちならば、ムジナとやらは何角形なのだろう。化かす、妖術みたいなのはやはり葉っぱを頭に乗せるのか、いやいやマゴチの件もある、想像だにできないような姿かもしれない。作屋守は検索する指が鈍くなっていった。情報は画面中にあるというのに。襲われるわけでもないというのに画像でさえも見るのが怖い気もした。とはいえ。受験生の頃、alternativeという英単語の意味を覚えられずに何度も辞書を見直したように、知っているのに分からないということの方がむず痒い。それこそ歯間に挟まった食材である。

「ああ、こういう」

 虎や熊のような姿は画面にはなかった。

(これに俺はたばかられたのか)

 この四つ足の獣が妖術で居酒屋を運営し、リサにまでなって……

(ばかばかしい)

 言って、いや思ってみてしらけてしまったのは、妖怪話がこのご時世にという非科学的だからというわけではない。

 キツネにつままれた道井。彼のところにムジナをよこしたのは自分かもしれないなんて冗談が浮かんできて、作屋守は肩をすくませた。

 島内にキツネはいないらしい。長い昔話なので割愛すると、ムジナと勢力争いをして負けて島にいられなくなったらしい。民俗学的解釈についてはこれまた割愛するが、必然には道理めかした話を作りたくなるのが人間らしい。だとするならば、ミシハセの場合は如何に。


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