異世界短編集
「お前のような冷酷な悪魔とは婚約破棄をする」
巷で流行っている恋愛小説のようなことを言いながら私の事を指さすのはこの国の王太子であるウィリアム殿下。
金髪碧眼という王族らしい見た目の温室育ちのお坊ちゃま。
そして、その傍らには私にだけ見えるように意地悪な笑みを浮かべている…名前を思い出せないご令嬢。
何度か声をかけられた気もするけど、毎回返答してなかったのではっきり思い出せない。
「殿下のお申し出、謹んでお受けいたします」
聖女として出たくもない婚約者の誕生日パーティーに出てみたらこれだ。
婚約当初から頭が足りないとは思っていたがここまでとは。
そのまま振り返って帰ろうとしたところでふと思い浮かんだことを殿下に問いかける。
「この婚約破棄は王にもすでに了承をえていらっしゃるのでしょうか」
「父上にはこれから話すところだ」
この一言にギャラリーの中にも数人頭を抱えているものがいる。
何人かの貴族の方が走って出ていかれたが、王が来る前にこの話を終えてこの馬鹿の長きに渡るお世話を終えたい私は、早口で捲し立てる。
「では、私が今婚約破棄を受け入れますと王命に背いたことになります。殿下だけでこちらは対処できるということですね」
「なんだその言い方は俺が1人じゃできないと思ってるのか」
思ってますよ。
会議に出ても感情的に喚き散らすだけのこの男が1人で説得なんてことできるわけがない。
何ならその会議で話す案は昔から私に丸投げだった。
なぜ、聖女と呼ばれている私が政の補佐までさせられていたのか今でも謎だ。
「殿下は説得というものが苦手でいらっしゃったので心配になっただけですわ」
「困ったときはシュエリーナの父親のアドミラ宰相も加わるから安心しろ」
あぁ、あの狸オヤジの娘なのか。
ちらっと傍らにいる女性を見るとなぜかどや顔だった。
まぁ、殿下も今どや顔をされてますし2人そろって似た者同士なのでしょうね。
燃えるような赤い髪をツインテールにされて、ルビー色の瞳がこちらを見ていますが、ほっておきましょう。
「問題ないのならいいのです。それでは私は失礼いたします」
そういって踵を返すと出口に向かって歩いていく。
私が縋りつかなかったのが悔しいのかおバカが私の事を呼んでますが気にせずに歩みを進めて扉をくぐる前に振り向く。
「それでは、皆様。聖女の加護がなくなった世界をどうぞお楽しみください」
そういって、聖女の結果をこの王城の周りだけ解除する。
私は聖女。
でも、童話のような聖女のように清らかな心なんて微塵も持ち合わせていない。
歴代上位といわれる私の報復をどうぞその身で一心に受けてくださいね。
おバカな王太子とその傍らにいた女。
そして、この計画に加担したであろうあの場にいた貴族たちの運命なんて私には興味もない。
私は、この国がこの国の国民が守れたらいいのだ。
「さてと、逃げていらっしゃる王様のところに挨拶に行かなきゃ…。あなたの子どもはまた失敗しましたって」
協会が残した馬車に乗り込むとうるさい悲鳴が聞こえないように遮音魔法をかける。
私は、この国の聖女。
そう、そして…魔界からの執行人。
3人いるうちの2人の王子がダメだったわけだけど、最後の1人はこの国を護るのにふさわしいのかしら。
まだ幼い王子の事を思い出す。
先の2人に比べれば勉学にも励み、剣などにも取り組んでいた。
彼ならきっと聖女の私が納得する王になってくれるだろう。
魔神様の気まぐれで聖女なんかにされた私の気持ちになってもらいたいものだ。
ため息をついて、王と幼い王子のいる城へと急ぐ。
その道中で王子と年の近い幼女へと変身するのだった。
ルーニア王国には、とある言い伝えがある。
ルーニア王家は、100年に一度、国の後継者がしっかりと国を導くに適した人材かを聖女との婚約機関に見極めており、聖女の考える後継者としての資質に達しなかった場合は、天罰として魔界に連れ去られてしまうという。
そして、聖女に認められた王は、聖女の認めた令嬢と結婚し、さらに国を発展させいくという。
聖女の名前も容姿もあえて書いていないので皆様の思う姿でイメージしていただけたら嬉しいです。