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ep4 異世界(ファンタジー)

「そ、そうなんですか......」


「はい。気をつけてはいるんですが、初対面はどうしても難しくて」


 イカツイ火野の正体は、一般企業に勤めるごく普通のサラリーマンだった。

 ヤカラどころか、その実態は今時珍しいぐらいの真面目な社会人だった。

 イカツイ見た目は火野の悩みらしい。


「火野さんは本当に優しくて良い人だぞ。お酒飲んでもちゃんとしてるし。まあ確かに、火野さんがいてくれると迷惑客防止にはなるけど」


 ヨーコがグラスを拭きながら愉快に微笑み、火野は照れくさそうに頭を()いた。


「それならいいんですけど、自分のせいで純粋にお客さんを減らしてしまっていないか心配です」


「そんなことあるわけないさ。ここに来る人達はみんな火野さんが良い人なのは知ってる」


「あ、あの、火野さん」


 ここで博音が口を挟む。

 一応確認しておきたいことがあった。


「なんですか?」


「さっき、店内が寒いかどうか訊いてきましたよね?それって...」


「ああ、それは火野さんが寒がりだからだよ」


 食い気味にヨーコが答えた。


「火野さんと言ったら寒がりっていうのはウチの店の常識みたいなものだからな」


「そ、そうだったんですね。少し、意外でした」


 博音の感想に、先生が児童を注意するようにヨーコが人差し指を立てる。


「人を見た目で判断したらダメだぞ〜ヒロくん」


「す、すいません」


「そもそも、火野さんが寒がりなのには明確な理由があるからな」


「理由、ですか」


「火野さん。イフリートなんだよ」


「そうなんですか。......んん??」


 顔面から疑問符が飛び出してきたようなアホ面になる博音。

 え、今、なんて言った?

 いふりーと?

 いふりーとって、イフリート?

 

「あの、ヨーコさん」


「どうした?」


「今、イフリート......そう言いました?」


「言ったぞ。火野さんは異世界からやって来た異世界人なんだ」


「い、い、いいいい異世界ぃ!?」


 博音は昭和の漫画みたいにぶったまげる。


「か、からかってるんですよね?」


「からかってないぞ。ここ、BAR『異世界(ファンタジー)』のコンセプトを教えてやろうか」


「は、はい?」


 ヨーコは妖しい笑みを浮かべた。


「異世界人の憩いの場、だっ!!」


「......はっ!」


 博音は気づく。


「ひょっとして、店名のファンタジーって......」


「そうだ。異世界ファンタジーだ!」


「なんか、微妙に違う気が......」


「まあ細かいことは気にするな」


 ヨーコはからからと笑った。






 バイト初日の夜中。

 ベッドの上、博音はボ〜っと天井を見つめていた。


「短時間だったけど、なんかめっちゃ疲れた......」


 だけど眠れない。

 刺激的だった。

 とびっきりの美人店長もそうだが、何より......


「異世界人が訪れるファンタジーなロックバーってなに!?」


 ばんと跳ね起きた。


「てゆーか異世界人てなんだよ?イフリートのサラリーマンってなに?」


 飛び込んできた情報があまりに斬新すぎて受け止めきれない。

 

「仲井のやつ、なんで返信来ないんだよ」


 帰りがけに友人へ連絡を入れたが、返事がなかった。

 仕方なくネットで調べてもみたが、案の定ラノベや漫画やアニメの情報しか出てこなかった。


「次回、どうしよう......」


 美人店長からは明日から来てくれと言われている。

 どうすべきなのか。

 博音は悩んだ。

 正直、嫌な思いをしたわけではない。

 伏見ヨーコは強引な人ではあるけど、仕事はちゃんとしていたし、悪い人だとも思わなかった。

 強面のイフリートの火野さんに至っては、ハッキリ言ってめちゃくちゃ真面目で良い人だった。

 他のお客さんのことはわからない。

 早めに上がってしまったから。

 でも、今日の雰囲気なら......。


「とりあえず、一ヶ月やってみようかな」


 小さい目標を立てた。

 すると(にわ)かに微睡(まどろ)んできて、博音は眠りに落ちていった。

当作品をお読みいただきまして誠にありがとうございます。

面白かったら感想やいいねなどいただけますと大変励みになります。

気に入っていただけましたら今後とも引き続きお付き合いくだされば幸いです。

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