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その4-2

芹は三人に

「あの、住んでるマンションで松二君のお友達とか仲のいい人とかは居ませんでした?」

と聞いた。


それに父親が

「いや、あのマンションに移ったのも半年前くらいだったので」

と答えた。


春香と明日は芹を見て首を傾げたモノの沈黙を守った。


明日は播磨を見て

「播磨さん、一応…アリバイを」

と聞いた。


播磨は頷き

「すみませんが関係者全員に聞いている事なので」

と告げた。

「昨夜、皆さんがどうしていたかを」


母親は戸惑いながら

「私は撮影から帰った後は家に」

あの子が出掛けた後も夕食を作っていて

「夫も休みだったので」

と告げた。


父親は頷くと

「ええ、二人が帰ってきて松二が出掛けて…7時頃に竹一が帰ってきて」

その直前に松二から電話がありました

「切って直ぐに竹一が帰ってきたので」

暫くしてから警察から連絡が

と告げた。


竹一は父親を見て直ぐに播磨を見なおした。


播磨は竹一を見ると

「電話の前に帰ったってことだから…まあ一応」

と告げた。


竹一は戸惑いながら

「あ、俺は学校へ行って」

塾に行って…それで…その…家に

としどろもどろと俯きながら答えた。


播磨は「なるほど」と言い芹達を見て

「通報も丁度7時で」

恐らく松二君は電話した後に襲われて

「その直後に誰かが通報したという事だな」

と告げた。

「松二君の持っていた携帯記録でも確かに7時に家への発信があったからな」


明日は頷き

「じゃあ、プロダクションとかの方を調べに行くか」

と告げた。


春香は頷いて

「そうだね」

と答えた。


播磨も「そうだな」と答え三人に礼を言って歩き出した。


プロダクションの方の人間の聞き込みを行ったが彼が恨まれているという話もなく、関係者にはアリバイがあった。


正午を迎え三人は代官山近くにあるレストランで食事をとり状況を照らし合わせた。

明日は紙に図を描くと

「家族同士のアリバイ証言は通常アリバイ立証にはならないけど」

この本人からの7時の家への通話があるからある程度信じて良いと思う

「それにマンションの防犯カメラにも7時少し前にエントランスを抜ける竹一の姿が映っているし出て行く家族姿もない」

と告げた。


それに春香と芹は頷いた。


明日は更に

「プロダクションの人間のアリバイもマネージャーは明日のスケジュール調整の打ち合わせ」

他の人間もな

「それはそれぞれが証言しているしプロダクション内の防犯カメラにも映っている」

と告げた。


春香は頷いて

「だね」

と言い

「通報時間がこれで」

松二の通話記録がこれ

と二枚を並べて

「変だよね」

と告げた。


明日も腕を組んで

「変だとは思っている」

と告げた。

「だが、犯人が仮に松二の電話で家に掛けたとしても家族が気付くだろ」

かといって家族が7時以降に家を出ていないことは間違いない


芹はそれを見て

「通報時間と松二君の通話時間がほぼ一緒ってことだよね」

と告げた。


春香は「ああ」と答えた。

「犯人は襲うか襲わないかの間に通報していることになるよね」

でも松二君の携帯は彼のポケットの中にあった

「指紋も彼のもの以外なかった」


芹は「あのさ」と告げた。

それに二人は顔を向けた。


ずっと。

ずっと。

覚えている。


『芹、お肉焼けたよ!』


ハイキングへ行ったときに隆弘が手を振って呼びかけてくれた。

何時も弟はそうだった。


明るくて無邪気で。

自分に懐いてくれていた。


ただ、母親は何時も隆弘ばかりに笑顔を向けて自分を見てはくれなかった。

いい成績をとっても。

賞状を貰っても。


『…そう』

その一言だった。


だから、隆弘が好きなのに嫌いだった。

両親から愛されて。

両親から笑顔を向けられて。


自分とは違う弟が…半分は憎らしかった。


だから唯一自分の方を可愛がってくれていた弘志叔父さんに

『僕も行く!僕も行きたい!』

と言って自分の行くはずだった催しに割り込んだ弟にかッとして言ったのだ。


『たーくんも叔父さんも大っ嫌い!!』


取り返しのつかない言葉。

もう何年も後悔し続けた言葉。


芹は思い出しながら代官山総合病院へ向かって走る車の中で両手を組み合わせて握りしめた。


車が到着すると芹は駆け出して集中治療室へと向かった。

明日と春香も足を進めた。


芹の推理は推理としては体を成さないモノだった。

けれど説明のつかないモノでもなかった。


あの食事の席で

「あのさ」

もし松二君を襲った相手が松二君の好きな人だったら?

「頭を殴られて気を失ったけど直ぐに気付いてアリバイを作ってあげたんじゃないのかな?」

どんな内容でそう言う状況になったのかは分からないけど

「松二君も何処かでその人が怒るのが仕方ないと思う部分があって」

ただ襲った相手もきっとすごく後悔して警察に彼を助けるように電話を入れたんだと思う

と告げた。

「それが偶々こういう通報と松二君の電話が重なる形になったんじゃないかな?」

俺さ

「今朝、彼が家族を紹介している番組を見て」

松二君がお兄さんのこと大切に思ってるの感じた

「俺の大切な弟に似てた」


明日は芹の後に付いて行きながら

「探偵の推理のロジックとしては正攻法じゃない」

と呟いた。


それに春香は苦笑しながら

「けど何処か納得なんだよね」

と告げた。


明日は頷いて

「ああ、通報の時に他にもマンションが取り囲んでいたのに」

ヒルズ・トゥール代官山の近くって態々言っていたのも気にかかっていたしな

「引っ越しして半年や慣れていない土地なら一番よく知っているものを無意識にランドマークにするのは十分あり得るからな」

と答えた。


春香も「だよね」と告げた。


芹が集中治療室の前についたときそこには誰もおらず中に両親の姿だけがあった。

芹は慌てて看護婦に

「あ、あの」

お兄さんの竹一君は?

と聞いた。


看護婦はキョロキョロしながら

「私も探しているんですけど」

早く松二君の状態を知らせないとと思って

と告げた。


芹は泣きながら松二のベッドの横に立つ両親を見て唇を噛みしめると踵を返した。


春香は芹に

「そうそう遠くへ行くわけがない」

と告げた。


明日は上を見て

「一応、屋上を確認しておくか」

と言い、端って追いついてきた播磨に

「あ、防犯カメラで竹一の足取り確認!」

と指示を出した。


三人はエレベータで屋上の手前の階まで行き、屋上へと登った。


そこに竹一の姿があった。

芹は慌てて

「竹一くん!」

と呼びかけ駆け寄りかけた。


竹一は慌てて柵を越え

「くるな!」

と叫んだ。


明日と春香は顔を見合わせてそれぞれゆっくりと足を進めた。


芹は息を吸い込み吐き出すと

「やっぱり、君が弟さんを殴ったんだね」

と言い

「どうして?」

と聞いた。


竹一は俯きながら

「松二が…子役アイドルになってから…家は松二中心になった」

母さんも父さんも松二、松二で

「俺が将来どうしたいと言っても関心も持ってくれなくて」

好きにしたらいいって

と言い

「松二は明るいし優しいし」

それに生活を支えているのも松二だし

「仕方ないって思っていたけど辛くて」

だからあの日、俺は家を出て遠くの大学を受けるって言ったんだ

「勿論アルバイトしながら頑張るって」

そうしたら絶対に反対するって…お金だって家にいれないって言いだして

「家が困っても知らないって」

それでつい…かッとして

と顔を伏せた。


芹は優しく見つめ

「わかるよ」

俺も凄く明るくて優しい弟がいたから

「可愛いんだけど…やきもちや嫉妬があってただただ可愛いだけじゃ済まないんだ」

と告げた。

「俺が弟に言った最後の言葉は大っ嫌いだったんだ」

本当はそうじゃないのに

「その時は色々あってつい…ね」

だけど後悔してる

「取り返しがつかないって後悔し続けてる」


…でも竹一君はまだちゃんと気持ちを伝えられるから…

「ちゃんと話をして仲直りしよう」

そうでないと俺みたいに一生後悔する


「弟さん、いま目を覚ましたよ」


竹一は目を見開くとその場に崩れ落ちかけた。

屋上から落ちそうになった竹一を明日と春香は走って止めた。


明日は笑顔で

「行こうぜ」

ちゃんと伝えれば良いんだ

「弟のこと嫌いじゃないんだろ?」

と告げた。


春香も笑顔で

「君のアリバイを怪我した状態で作ってくれた弟さんだから」

彼もきっと君への態度を後悔していると思うけどね

と告げた。


その後、竹一は目を覚ました松二に謝罪し、松二もまた自分が悪かったと謝ったのである。


彼の両親も竹一のことを考えていなかったわけではなくしっかりしているので安心して手を離していただけだったのである。


その事も彼らは後悔しちゃんと話をすることになったのである。


ニュースは松二が未成年である事と家族間の出来事であり、プロダクションからの圧力もあってそれ以降流れることはなかった。


帰宅の車の中で明日が不意に

「あ、そうだ」

芹に春香

「モノは相談なんだけどさ」

将来探偵事務所を一緒に作らないか?

「まあ、芹は探偵思考じゃないから手伝いって感じだけど」

思い付きは良いから時々借り出すみたいなな

と告げた。


…。

…。


春香はちらりと芹を一瞥し明日を向くと

「昨日、俺が先に声を掛けたんだけど」

明日が仲間に入りたいならいいよ

「芹の返事待ちだけど」

と答えた。


明日は笑って

「そうか」

あー、俺は良いぜ

と告げた。


芹は困ったように

「少し、考えさせてもらいたいけど」

良いかな?

と告げた。


春香も明日も同時に

「いいよ」

「いいぜ」

と答えた。


一歩ずつ。

芹も芹の周りも変わり始めていたのである。


しかし、街に遠雷が響き、何処か重々しい梅雨の空気が広がっていた。


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