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その1-2

春香は播磨を見ると

「事件があったの?」

と聞いた。


それに播磨と霧島が頷いた。


春香は芹を見ると

「じゃあ、よろしく付き添いくん」

と告げた。


芹は強く頷くと

「わかった」

よろしく、オーナー

と答えた。


芹は春香と共に播磨と霧島が乗ってきた車に乗り込み、ある小さなバーの前で降ろされた。


『ポロン』というシックなバーである。

入口には黄色のテープが張られ警察官が立っていた。


播磨は警察官に敬礼をすると二人を連れて入った。


床には白いテープが人型に張られ赤黒く染まっている部分があった。

間違いなく事件現場である。

ボトルが何本か割れて液体が床に広がっていた。


アルコールの匂いが充満し、液体の中にはガラス片も散乱して歩くのも危ないという感じである。


そのバーの奥に一人の青年が立っており春香を見た瞬間に

「おま!また来たのか!!」

俺をバカにしくさって

「お前とは組まないって言っただろ!」

と怒鳴った。


春香は驚いたように青年を見て

「誰?」

と冷静に聞き返した。


青年は「はぁ!?」と声を上げると

「高校生探偵と名高い楠木明日だ!!」

この前会ったところだろうが!

「忘れたのか!」

と指をさして怒った。


春香は腕を組むと

「ごめん、忘れた」

とあっさり答えた。


楠木明日は顔を歪めると

「ふざけてんのか!?」

と春香の前に立った。


播磨はふぅと息を吐き出すと春香に

「前の事件だから四日前に一課の的場刑事が有名な学生探偵だって連れてきた探偵君です」

今回は下足痕と指紋は取れているし後姿は第一発見者が見ているんですが

「常連客の中にヒットする人間がいなくて現場を見てもらおうと的場刑事からの話で」

と囁きかけた。


芹は青年と春香を交互に見ながら

「本当の事件だ」

すっげ高校生探偵ってマジいたんだな

「漫画やドラマの世界だけの話だと思ってた」

と心で突っ込んだ。


春香は播磨の話をふむふむと聞きながら明日を見ると

「それで楠木さん、今回の件は分かったけど」

貴方が怒っているのは四日前の事件の時に何か不備でも?

「覚えてないけど」

とさっぱりと聞いた。


青年はムッとすると

「おま…覚えてないって…」

人のことを三流探偵みたいに言いやがった癖に

「壁の押しピンの穴に気付かないなんて目が悪いんですねっなんてな」

俺は大体わかっていたんだ

「押しピンの穴をお前が偶々早く見つけただけだろうが」

と顔を背け乍ら吐き捨てるように告げた。


春香は不思議そうに

「それが何か…」

と言いかけた。

が、その横で芹は「あー」と言うと

「なるほど」

言い方ってあるよな

と頷いた。


それに青年は芹に顔を向けると

「おい、お前」

なんか話の分かるやつみたいだな

「それそれ、言い方なんだよなぁ」

と告げた。


芹はニコッと笑うと

「もう少しで分かるところでそういう言い方されるとむっとくるよな」

と答えた。


青年は指をさして

「まじ、それ!」

と言い、手を差し出すと

「俺は楠木明日だ。名前なんだ?」

と聞いた。


芹は手を握り返しながら

「俺は神守春香さんの現場付添人のアルバイト使用期間中の飛鳥芹です」

と答えた。


楠木明日は思わず

「その、前振り長いなお前」

と告げた。


芹は「まったく」と答えた。


春香は少し不機嫌そうに

「…俺より向こうの方と気が合ってる感じだな」

と小さくぼやいた。


播磨は苦笑を零しつつ

「それで春香くん」

どうだろうか?

と告げた。


春香は店内を歩きながら見て回り

「かなりモノが散乱しているね」

ただ揉み合っただけじゃないわけだ

と告げた。


明日は腕を組みながら

「ああ、間違いなく被害者を襲った後で物色したんだろうな」

なりふり構わずって感じでな

と告げた。


芹は見回しながら

「すっげ…俺なんか事件だってだけで混乱してそんなこと考えられないな」

と心で呟いた。


春香はボーと立っている芹を見ると

「アルバイト君も何か分ったら言ってくれる?」

と告げた。


芹ははっとすると

「わかった」

と答え、ガラスを踏まないように気を付けながらカウンターの中に入って棚を見た。


棚は5段ほどありその殆どが落とされ棚は数本のワインやブランデー、コーヒーミルやグラスが残っているだけであった。


明日は倒された椅子やテーブルも見て回り

「物色した跡はあるが…」

と呟いた。


春香はそれに

「探し物は見つかってないね」

と呟いた。


明日は春香を見ると

「確かにな」

と答えた。


それにカウンターの中で冷蔵庫を開けていた芹はピョコンと頭を出すと

「え?え?何故?」

と聞いた。


春香は奥のドアを指すと

「足跡がドアの外まで残っているし…第一発見者が奥の出口に逃げていく人影を見たって言ってたからね」

と告げた。


明日は頷いて

「もし見つかっていたら何時までも現場にいないだろうし、足跡を残して慌てて逃げる必要もないだろ?」

と答えた。


芹は「なるほど」と答えた。


明日は笑って

「まあ、現場に足を運んだり調べたりしたことが無かったら想像できないのは仕方ないだろ」

と告げた。


春香はそれに少し考えると

「…アルバイト君は事件を解決できなくて良いから」

何か違和感があったり

「普通は違うと思うことがあったら言ってくれたらいい」

と告げた。


明日は驚いたように春香を見ると

「…こいつ、この前は偉そうな野郎だと思ったけど」

素人には優しいのか?

と心で突っ込んだ。


芹は冷蔵庫を見ながら

「んー」

と言うと

「変だなぁで良いなら」

コーヒーかなぁ

と告げた。


それに明日と春香は同時に芹に目を向けた。

播磨と霧島は顔を見合わせて首を傾げた。


芹は冷蔵庫を見ながら

「恐らくここのオーナーは業務用の液体コーヒーや紅茶を使っているんだと思う」

冷蔵庫にあるし

「けど棚にコーヒーミルがあるだろ?」

必要なくないか?

と指をさした。


春香は「なるほど」と呟いた。


明日はふっと笑うと

「飛鳥、いいところに目を付けたじゃないか」

と言うとカウンターの中に入り、5段目に残っているコーヒーミルを手にして軽く振った。


中からカラカラと音が響き明日はコーヒーミルの粉が溜まる引き出しを外して

「恐らく探しものはこのUSBだな」

と播磨にUSBを渡した。


春香は播磨と霧島に

「犯人がそのUSBを探していたとすれば、中のファイルに関係しているものがある」

足跡は残っているし

「指紋もあるから後は任せても大丈夫だよね」

と告げた。


それに二人は頷いた。


明日は芹を見ると

「探偵って場数だから」

頑張れよ

と笑みを見せた。


芹はそれに「いや、俺」と言うと

「ただの神守春香さんの現場付添人の…」

と言いかけた。


それに明日は

「あ、その長い行はいらないから」

と途中で止めて

「探偵になるつもりはないのか?」

と聞いた。


芹は頷いた。

「普通の安定した企業の会社員で良いかと思ってる」


春香はそれとなくそれを聞きながら

「…なるほど、そうなんだ」

と心で呟いた。


明日はふっと笑うと

「そうか」

じゃあ、まあ

「あいつのアルバイトの間はまた会うだろうからよろしく」

と告げた。


芹は笑顔で

「俺の方こそよろしく」

と答え、去っていく明日を見送った。


そして、春香の元へ行くと

「それで俺はこの後どうしたらいいんだ?」

と聞いた。


春香はそれに

「…アルバイト続けるつもりあるの?」

と聞いた。


芹は頷くと

「ああ、月10万あれば生活費かなり助かるからな」

と答えた。

「家には頼れないから」


春香はそれに目を一瞬細めたものの

「わかった、じゃあ着いて来てくれる?」

と言い

「今日は取り敢えずお昼も一緒にしてもらう」

それから契約書を交わそう

と告げた。

「俺は今日のことは明後日には忘れてるから契約書を交わしておかないとだめだからな」


芹は頷いて

「わかった」

と答えた。


春香は播磨に

「矢沢弁護士のところへ行こうと思ってるんだけど」

と告げた。


それに霧島が

「じゃあ、私が」

と二人を乗せて東京都心にある高層オフィスビルの一角へと案内した。


そこに矢沢翔弁護士事務所があり、40代くらいの男性…矢沢翔は二人を応接室に通すと話を聞き

「飛鳥芹さんと労働契約をすると」

と告げた。


春香は頷き

「手続きをお願いします」

と告げた。


矢沢翔は頷くと

「わかりました」

と立ち上がり、緊張して座っている芹に

「書類を作って来るので少しお待ちください」

と笑みを見せて立ち去り、契約書を作って取り交わした。


そして、二人を送り出すと部下を部屋に呼び寄せて契約書を渡した。

「これから契約をしてもらう飛鳥芹という青年の身元を調べてもらいたい」

裏が無いか

「あの組織の人間でないか…徹底的にな」

我々は5年前に大事な二人の仲間を死なせてしまった

「これ以上の犠牲は出せない」

ましてあの人の子供を死なせるわけにはいかない


部下は頷くと

「かしこまりました」

と答え立ち去った。


芹は霧島が運転している車の中で緊張しつつも

「よし、これで生活費の基礎は出来た」

と心でガッツポーズを作り、その後に昼食を済ませて漸くマンションへと戻った。


芹はマンションの春香の部屋の前に来ると

「じゃあ、また明日な」

と手を振って部屋に戻り

「…なんか、行き成りな展開になったけど…頑張らないとな」

と鞄を見ると中から一枚の写真を取り出した。


「持ってくるつもりはなかったんだけど…でも」

持ってきたのだ。

叔父も弟もまだ元気だったころに家族でハイキングへ行ったときの写真だ。


全員が笑顔で写っている。

もう二度と還ることのない写真だ。


芹は息を吐き出し机の中に仕舞うと

「忘れるんだ」

全て忘れて新しい生活を始めるんだ

と窓の外を見た。


同じ時。

隣りの部屋の春香は録音機に今日あった事を吹き込み

「これで彼のことは大丈夫だな」

と言い

「忘れたくないのに…忘れている事すら忘れるなんてな」

と呟いた。


5年前に爆破襲撃事件に巻き込まれた。

その時に養父を失い、銃弾の衝撃が脳に損傷を与えた。

一命は取り留めたがそれ以降の記憶が保てなくなった。


毎日。

毎日。

カレンダーの日付けだけが進んでいて…気付くと翌日の向こうには養父が殺された日しか残っていないのだ。


「唯一の救いは養父を撃ったあの男の痣を忘れない事だけだな」


何時か。

何時か必ず。

「お前を捕まえてやる」


過去を忘れて生きようとする飛鳥芹と。

少しでも過去を積み重ねて生きようとする神守春香と。


対照的な2人が生きる東京の上空では青い空の下に暗雲が密かに広がり始めていた。


翌日。

USBにグリーンライズ株式会社の役員と総会屋が密会をしている写真が保存されていることが分かり、その双方を調べると役員の指紋と合致したのである。

オーナーは写真をネタに役員を強請っており、その元のデータを消すために襲ったということであった。


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