その9-1
手術は成功したものの集中治療室で意識不明の重体であった。
痛々しく包帯を巻かれ幾つもの管が何とか明日の命をつなげている状態であった。
その命の管を引きはがし明日の命を奪おうと桂光也は病院へと忍び込んでいたのである。
この時、時計の針は7時を指し夜の気配が町を包み始めていた。
1Day探偵
集中治療室では看護婦が詰めており明日の様子を見ていた。
そこへ医師が回診に姿を見せると部屋の外から明日の様子を見ていた家族に会釈をして中へと入りかけた。
研一は不意に
「すまないが、ちょっと」
と声を掛けた。
そこへ春香と芹は駆けつけると医師の顔を見て
「東京グランデュオ大手町ホテルのマネージャーでJDWの人間」
桂ですよね
と春香が告げた。
それに研一以外の誰もが不思議そうに医師を見た。
研一は直ぐに春香と芹を見ると
「まさか…やはり…」
と呟いた。
春香は頷いて携帯で撮った写真を見せ
「明日が知らせた言葉は将棋で言うところの桂馬…つまり『かつら』さん貴方を指しているんです」
と告げた。
「貴方はJDWに上岐田陽一の催事の日程を知らせ同じJDWのメンバーであり三木厚美の親友である上條という女性に男を紹介させてカメラの位置を調べさせた」
自分は知らぬふりをして裏からそうやって三木厚美を操っていたんだ
「それを明日に知られて慌てて口封じに動いたんだ」
自分の身が危なくなるから
桂は舌打ちすると踵を返した。
研一はそれを追いかけて手を掴むとその場に押し倒して手錠をした。
「署でじっくり聞いてやる」
今この場でその格好でいることが明日の命を狙っている殺人未遂に問える
桂は笑いながら
「お前ごとき一介の刑事など」
と告げた。
それに春香はさっぱりと
「残念だけど今頃警察内部で取り調べの手が回っている」
三木厚美を殺した人物にも
「揉み消そうとした人物にも」
貴方は逃げることができないよ
と告げた。
桂は春香を見ると
「まさか、お前のような高校生に」
と告げた。
が、研一が
「俺も刑事生命をかけてお前を法の下に引きずり出してやる」
と告げた。
そこへ駆けつけてきた播磨と霧島が敬礼をして
「遅れました」
と言い、研一から引き渡しを受けて警察へと連れて行った。
その時、明日の様子を見ていた看護婦が明日の様子を見ると戸口へと足を進めて扉を開いた。
「気付かれましたよ」
そう微笑んで言い招き入れた。
明日は姉の美和を見ると
「ごめんな、心配かけて」
と小さな声で告げた。
美和は首を振ると
「私の方こそごめん」
明日が無事でよかった
と手を握りしめて泣いた。
研一もそっと明日と美和の手の上に手を乗せて
「心配かけたな明日」
俺は大丈夫だ
「絶対に引かないことにした」
と微笑み
「身体を治したらまた力になってくれ」
と言い
「但し十分注意してくれないと依頼は出来ないからな」
と告げた。
「お前を押した人間は逮捕した」
2人が力になってくれた
明日は笑むと芹と春香に目を向けて
「分かってくれたんだな」
と言い
「悪かったな」
と告げた。
が、芹は首を振ると
「俺達も調べていたから」
と言い
「明日は先ず身体を治すことからな」
と泣きながら告げた。
春香もまた
「ああ、そうでないと折角芹が探偵事務所を一緒にするつもりになっているのに」
お前がいないとな
と微笑んで告げた。
明日は目を見開くと
「そうなのか?」
と芹を見た。
芹は「あー」と言うと
「まあ…多分」
とアハハと笑った。
明日は笑むと
「暫くは頼む」
俺も身体を治したら合流するから
「手を抜くなよ」
とビシッと告げた。
そして、母親と父親を見ると
「ごめんな、母さんに父さん」
心配かけて
と告げた。
母親は父親に支えられながら明日の頬に指先を伸ばし
「ごめんなさいね」
明日
「無事で良かった」
本当に
と震える声で告げた。
芹と春香はそれを見ながら、そっとその場を後にした。
陽は暮れ夜の闇が町に広がり始めていた。
春香は芹に
「戻って情報を整理しようか」
と告げた。
芹は頷いて
「あ、その前に夕食買って帰っていい?」
と聞いた。
春香は小さく笑って
「確かに、俺もお腹が空いた」
食事した記憶がない
と答えた。
2人は夕食を買ってマンションへ戻ると春香の部屋で食事をしてそのまま情報の整理を始めた。
芹は携帯を立てて
「よし」
と言うと、中田操江から受け取った書類を春香に渡した。
春香は操江から貰った書類を見て
「中田達雄が持っていた土地の登記簿か」
と呟いた。
芹はそれを見て
「京都の土地だね」
と告げた。
「しかも同じ土地の登記簿のコピーが二冊」
一枚は中田達雄が所有者になってるけど
「もう一冊は知らない人物の名前になってる」
春香は頷いて
「恐らく土地を騙し取られたってことなんだろうな」
だが書類は正式なモノだからな
「もし彼女にプレゼントしてそれが転売されたとしたら訴えようがない」
と呟いた。
「殺すほどの理由にはならないと思う」
芹は悩みながら
「だよね」
と言い
「原口真奈美って人…中田達雄がねちねち言ってきても多分そう言う行動に出ない冷静なタイプだと俺感じたし」
と告げた。
春香は腕を組んで
「でも彼女は犯行に及んだ」
と告げた。
「痴情の縺れという理由で」
芹は頷いて
「でも本当の理由はきっとこの土地の登記問題だと思う」
中田達雄って人は全く知らない人の手に渡って
と言い、春香を見ると
「あのさ、明日京都行かない?」
と告げた。
春香は目を見開くと
「は?」
と声を零した。
芹は慌てて
「あ、ごめん」
いや
「中田達雄って人が騙されたって怒って彼女と手を切ろうとした理由がこの登記にあったとしたらここに書かれている人物と彼女がそうまでしてこの土地を手に入れて何に使っているのかが気になったから」
と苦く笑った。
春香は「なるほど」と言い
「確かに全くの第三者の手に渡ったが原口真奈美の周辺の人物であることに違いないし」
芹が言ったように4月の原口っていうのが彼女だったら
「彼女もまたJDWのメンバーになるからJDWがその土地を利用していることになるかもしれない」
と告げた。
芹は頷いて
「俺、大阪だから京都はそこそこ土地勘ある」
と笑顔で告げた。
春香は頷き
「わかった」
明日京都へ
と告げた。
「動画に入れておいてくれ」
芹は携帯を見せると
「もう撮ってる」
と告げた。
それを自室に戻ってUSBに落として春香に渡すと眠りについた。
春香はUSBを受け取り、その後、播磨に電話を入れて桂光也と三木厚美を殺した人物などのことを聞いた。
桂光也は全面自供を始めており、三木厚美を殺した警察官は芹の言っていた通りに発見した警察官の前に巡回した警察官であった。
また警察庁刑事一課の課長が更迭されて現在事情聴取を受けていた。
全員が組織については口を割っていないがJDWという組織で繋がっている疑惑は警察の中で確信として広がっていた。
この事件も播磨と霧島が自分たちを任命した警察庁刑事局長へと直接進言したのである。
拘置所内の事件という事もあって穏便にと言う話も一課長を通じて出ていたが旧知の刑事たちの進言と春香から楠木明日の事件の話も聞き大ナタを振るったのである。
つまり、刑事局長直々に動かしたのである。
警察の内部にJDWの人間がいたのだが深く浸食していてはおらず洗い出しは進んでいた。
春香は播磨から順調に進んでいることを聞き安堵すると京都へ行く準備を整えて眠りについた。
翌朝、春香と芹は早朝に東京を出て京都へと向かった。
中田達雄が持っていた京都の土地に今何が立っているのかを見に行ったのである。
そこに立っていたのは2人が想像していないモノであった。
京都は元々高層の建物が少ない。
と言うのも数十年前には高さ制限があったからである。
春香は多くの歴史的建造物に感嘆の息を吐き出しながら
「京都って趣があるな」
と呟いた。
芹は笑い
「まあ、な」
と答え、登記簿を写した携帯を見ながら
「この角を曲がったところだな」
と言い家の角を曲がって目を見開いた。
「そう言う事なんだ」
春香は首を傾げて
「ん?」
別段おかしくないけど
と呟いた。
芹は頷くと
「周りの建物はね」
と言い、二つ並ぶ4階建てのビルとビルの真ん中まで進み
「京都にしても大阪にしても路地裏があるんだけど」
袋小路みたいなのもあるんだ
と携帯で堂々と撮影しながら間の細い道を進んだ。
ビルを越えるとその先に平屋の建物が立っていた。
周囲は広間のようにコンクリートが敷かれていた。
春香は驚いて周囲を見回すと
「建物が目隠しになって奥にこんなところがあるなんて」
と呟いた。
芹はすたすたと進み建物の前に立った。
春香は慌てて
「芹」
と注意した。
芹は建物の戸口をジロジロ見つめた。
そこへ中から直ぐに一人の男性が姿を見せた。
「ここは私有地だが」
どちら様かな
芹は驚いて携帯を隠して目を見開くと
「あ、ここお店やないんや」
すみません
「路地裏の隠れた店かもと思うて」
と笑った。
「もしかして一見様お断りの店とか?」
男性はふぅと息を吐き出すと
「ここは違います」
と答えた。
芹は春香の方に向くと両手を合わせて
「ごめんなぁ、路地裏言うたら隠れ名店あるか思うて」
と言い、硬直する春香の手を掴んで
「はぁ!しょうがあらへんから先斗町の方案内するわ」
ビックリするとこ見つけたろう思うたけど
「ごめんなぁ」
と歩き出した。
男性は芹達が路地裏から出るまで見つめ、その後建物の中へと入っていった。
春香は呆然と足を進めた。
芹は何も言わずに歩く春香にその区画から離れた路上で
「春香?」
と呼びかけた。
春香はハッとして
「芹、今の携帯で動画撮ってたよな?」
見せてくれ
と手を出した。
芹は慌てて携帯を渡した。
春香はそれを見ると顔を伏せた。
「…こいつだ…お義父さんを殺した奴」
そう言って男の首筋を指差した。
髪で見えにくかったが紅い痣があるのが見えた。
芹は驚いて
「じゃあ、やっぱりあそこは」
JDWの
と呟いた。
春香は頷いて
「芹、良いか」
あんな真似危ないから
と注意した。
それに芹は
「わかった」
と答え
「でも京都や大阪じゃあるあるなんだ」
テレビ局でもカメラもって路地裏探索するから
と告げた。
春香は驚いて
「え?まさか」
そうなのか?
と言い、大きく息を吐き出して己を落ち着かせると
「芹の大阪弁初めて聞いた」
イントネーションも違うんだな
と呟いた。
芹はそれに困ったように笑うと
「ああ、大阪から出ると決めていたから練習していたんだ」
と答えた。
「叔父さんが死んで隆弘が寝たきりになって…家にいるのが辛かったから」
でも辛いのも俺自身のせいだったんだけど
そう呟いて足を進めた。
春香は大阪から帰ってきて変わった芹の背中を見て
「そうか」
と静かに微笑んだ。
芹は少し離れた洒落た喫茶店に入り奥まった席に座ると
「やっぱり…JDWのたてものだったんだな」
と呟いた。
春香は頷いて
「ああ、しかもビルとかを目隠しにしてるところを見ると」
かなり重要な場所の気がする
「忍び込むわけにもいかないから、これ以上探るのは難しいが」
と呟いた。
「ただあの建物を中田達雄は見たんだと思う」
それで激怒して原口真奈美と別れる決意をした
「その時に何かあって原口真奈美は中田達雄を殺した」
芹は店員が持ってきたジュースを飲みながら
「その何かが何かだよな」
と呟いた。
「本人に聞いてみようか」
春香は驚いて
「芹は本気で?」
と聞いた。
芹は頷いて
「今はそれが一番の突破口だと思ってる」
三木厚美の件にしても
中田達雄の件にしても
「JDWについても彼女が関連している可能性がある」
4月の電話の原口じゃなかったらそれはそれで除外できるし
と答え
「でも易々と応えてくれるとは思わないけど」
それでも会う価値はあるかも
と告げた。
春香は息を吐き出して
「時々、芹は怖いところを突いてくるよな」
と言い
「けど、会う価値はあると思う」
と肯定し
「その後に三木厚美の親族か三木厚美の親友の上條って人も探そう」
と告げた。
芹ははっとすると
「そうだよな」
と答えた。
問題の土地の建物やそこに住む人物の動画は撮れた。
今は取り合えずそれを手に原口真奈美の口から情報を聞き出す必要がある。
2人は新幹線に乗ると東京へ戻りながら春香は播磨に原口真奈美の入所先を聞いた。
返答は早く『東京千住刑務所』で現在服役していることが分かった。
2人のマンションからそう遠くはない場所であった。




