その8-2
2人が到着する頃には明日の家族も到着しており、誰もが祈るように手術の赤いランプを見つめていた。
芹は顔を歪め
「明日」
と呟いた。
春香も震える手で芹の手を握りしめた。
2人とも失うという恐怖を良く良く知っているのだ。
大切な人を失っているのだ。
だから。
だから。
芹は春香の手を握り返し
「明日…絶対に生きろ」
と呟いた。
明日の姉の美和は
「私のせいだわ」
明日に…あんなことを頼んだから
「きっと、きっとそのせいだわ」
と的場研一に抱き留められながら告げた。
的場研一は「違う」というと
「事故だと言っていた」
お前のせいじゃない
と告げた。
そして、芹と春香を見ると
「君たちは」
と呟いた。
春香は蒼ざめながら
「明日が事故でと聞いて」
と告げた。
研一は厳しい表情で
「そうか」
ありがとう
と言い、明日の母親の日和子を見ると
「お義母さん」
と言い、美和を預けると
「神守君に飛鳥君」
こちらへ
と歩き出した。
芹と春香は手術ランプを一瞥し研一の後に付いて足を進めた。
階段を降りて非常階段の人のいない踊り場に二人を連れて行くと研一は
「明日は事故ではない」
と告げた。
芹と春香は目を見開いた。
研一は辛そうに息を吐き出すと
「明日が車に跳ねられていた時に持っていたはずの荷物が何処にも見つからなかった」
恐らく何者かに持ちさられたんだと思う
と告げた。
そして、携帯をポケットから出すと
「恐らくこれは君たちへのメッセージだ」
と渡し
「俺は三木厚美の死を調べていたが一課長から不興を買って身動きが取れなくなった」
それで美和が明日に調べるように頼んだそうだ
「その矢先で」
と涙を滲ませた。
春香は大きく息を吸い込み吐き出すと
「明日の事故は何処で?」
と聞いた。
研一は頷いて
「東京駅前の交差点だ」
と告げた。
春香は目を細めて
「三木厚美について調べていたとしたら…恐らく東京グランデュオ大手町ホテルに行ったと思う」
と告げた。
そして、受け取った携帯を見て電源を入れた。
画面に打ちかけの文字が浮かび上がった。
『ふんどし つる』
春香は「明日のメッセージか」と呟いた。
芹は強い視線を向けると
「絶対に解き明かしてみせる」
と告げた。
春香は研一に向いて
「的場さんは明日のご家族のところで守っていてください」
俺達が明日の続きを調べます
と告げた。
「明日をこんな目に合わせた犯人も見つけます」
芹も頷いて
「はい、絶対に俺達が見つけます」
だから明日をお願いします
と頭を下げた。
研一は迷いながら
「しかし、命に関わる危険がある」
と告げた。
芹がそれに
「わかりました」
十分気を付けます
「明日に報告して一緒に解決したいので」
と笑みを見せた。
「俺達、三人で探偵社を作る予定なので」
春香は驚いて芹を見た。
研一は頭を深く下げて
「頼む」
宜しく頼む
と告げた。
春香は頷いて
「絶対に」
と答えた。
2人は手術室の方に向いた。
無事で。
どうか無事で。
そう心で呟き春香は研一に
「手術が終わったらご連絡ください」
俺達は解決に動きます
と告げた。
研一は頷いて敬礼すると手術室へと戻った。
それを見送り芹と春香は顔を見合わせると頷いて病院を出た。
春香は芹を見ると
「今から東京グランデュオ大手町ホテルへ行こうと思っているんだけど」
と告げた。
芹は頷いて
「ああ、いいよ」
行こう
と答えた。
品川駅から電車に乗って東京へと向かった。
5分程で到着する。
芹は明日が残した携帯の言葉を考えていた。
「ふんどしとつる」
あの褌と鶴って何か関係があったっけ
春香は芹を一瞥し
「何が言いたいのか俺にはわからないけど」
と頭を捻った。
東京グランデュオ大手町ホテルに到着すると春香は
「先ず間違いなく行ったのはアクロバットだね」
と告げた。
芹は「ああ、そうだよな」と言い二人で12階へと登り中に入った。
女性がカウンターに立っており二人を見ると
「いらっしゃいませ」
と告げた。
春香は彼女に
「あの昼頃に俺達と同じ年くらいの男子学生が訪ねてきませんでしたか?」
多分三木厚美さんのことを聞きに来たと思います
と聞いた。
女性は困ったように
「んー、昼間は名倉さんだったから分からないわ」
と言い
「急に交代になったのよ」
けど交代の時に変なこと言ってたわ
と告げた。
「三木さんのことを訪ねてくる人がいたら」
3月頃に上條という友人から男性を紹介されたと話した
「注意しろ」
そう伝えてくれと
春香と芹は顔を見合わせた。
春香は彼女に
「ありがとうございます」
と答えた。
女性は首を傾げながら
「いえいえー」
と答えた。
春香は店を出ると
「やはり、明日はここでその事を聞いたんだ」
と言い
「3月頃に上條と言う友人から紹介された彼氏こそ彼女を甘言で操ったJDWの男だ」
と告げた。
芹は「なるほど」と告げた。
春香は目を細めて
「だとすれば…次に明日はどうしたか」
と呟いた。
芹は腕を組むと
「だよね、三木厚美が3月に友人からあの男を紹介されたから…?」
だから?
と呟いた。
春香は口元に指先を当てて
「その男はJDWの男で…恐らく目的は上岐田陽一の催事の襲撃」
上岐田はJDWが敵視している人物なんだろう
と言い
「まさか」
と呟くと
「フロントへ行こう」
と足を踏み出した。
芹は慌てて
「は?」
どういうこと?
と聞いた。
春香は芹を見ると
「もし上條という友人もJDWの人間なら上岐田陽一の催事襲撃の為に業とJDWの男を三木厚美に紹介したかもしれない」
ならば上岐田陽一の催事がいつ申し込まれたかで分かるだろ?
と告げた。
芹は「なるほど!」と告げた。
春香は一階で降りると
「それを聞くとすればフロントだ」
と告げ、フロントに立っている女性に近付くと
「あの襲撃された上岐田陽一の催事の申し込みが何時だったか分かりますか?」
と聞いた。
女性は戸惑ったように周囲を見回し
「ごめんなさい、それは個人情報で教えられないの」
と告げた。
「今日の昼も同じことがあって桂マネージャーに怒られてしまったし」
聞いてきた子は東京駅で事故にあったっていうし
「ごめんね」
春香は「やっぱり、明日は確かめに来たんだ」と呟いた。
芹は女性に
「あの、怒った人って桂マネージャーさんって名前の人?」
木へんにつちつちの圭の
と聞いた。
女性は「ええ、そうよ」と告げた。
芹は周囲を見回しながら
「その人いまここにいる?」
と聞いた。
女性は周囲を見回して
「いえ、今日は早退したわ」
と告げた。
芹は女性に笑顔で
「だったら、大丈夫だと思う」
と言い
「イエスかノーかで応えてくれたらいいから」
と告げた。
女性も春香も疑問符を飛ばして芹を見た。
春香は時々芹の突拍子もない話が大きく事件を解く鍵になっていることを理解しているので黙って聞いていた。
芹は女性に
「上岐田陽一の催事の申し込みは3月以前?以降?」
と聞いた。
女性は「以前よ」とこっそりと告げた。
「もうここまでね」
春香は笑むと
「ありがとうございます」
と頭を下げた。
女性は息を吐き出すと
「くれぐれも気を付けて」
と言い頭を下げた。
芹はハッとすると
「あ、その桂さんの顔だけ知りたいんだ」
凄く重要な事なんだ
と告げた。
女性は困ったように裏に回ると写真を一枚持ってきて
「この男性よ」
と第14回社員旅行と札を持っている男性を指差した。
芹はそれをカメラで撮り
「ありがとうございます」
と言うと春香の腕を掴んでホテルの外へと連れて行った。
そして春香を見ると
「明日を事故にあわせたのは『桂』さんだ」
と告げた。
春香は驚いて
「何故!?」
と聞いた。
芹は頷くと
「恐らく明日は『ふんどし』と『つるし』って書こうとしたんだと思う」
と言い
「ふんどしの桂とかつるし桂は将棋の言葉なんだ」
つまり桂馬
「『桂』はかつらとも呼べる」
と告げた。
「そして、この人がJDWの人間だと思う」
春香は「え?」と芹を見た。
芹は春香を見て
「だって、上岐田陽一が催事を申し込んだとしてもJDWの人間がいなかったらそもそも催事があること自体分からないだろ?」
誰かがそれをJDWに知らせ
「上條って女性に三木厚美に男を合わせるように仕組んだんだ」
と告げた。
「上條って女性と三木厚美が何時知り合いになったのかも気にはなるけど」
春香は驚きながら芹を見て
「いや、確かにそうだ」
と言い
「恐らくJDWの人間は色々な場所にいるんだと思う」
と呟いた。
「警察内部にも」
芹はそれにはあっさりと
「いると思うけど」
三木厚美を殺した人物は絞れるよ
と告げた。
「拘置所内なら死体発見をした人物か」
その前に巡回した人物しか考えられないよね
「密閉空間でトリックは使えないから」
…ただ警察官が口封じをしたと公になったら不祥事だし…
「警察内部に一人だけとは限らないから」
春香は笑むと
「ああ、その通りだ」
と告げた。
「だったら、こちらも奥の手を使う」
そう言って播磨に携帯を入れた。
そして指示を出すと携帯を切り
「急いで明日の元へ戻ろう」
恐らく桂と言う人物は明日の口を絶対に封じようとする
と告げた。
その時、春香の携帯に研一から連絡が入ったのである。
手術が無事に済んだという事であった。
芹は携帯を切った春香を見て
「よし、急ぎで戻ろう」
と答え、大急ぎで病院へと取って返した。
病院には桂光也が姿を見せていたのである。
事故の時に荷物を拾ったと救急に連絡をして運ばれた病院を聞き出して駆けつけていたのである。
明日に止めを刺すために。
空はゆっくりと茜に染まり棚引く雲が都会の空を流れていた。




