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1Day探偵  作者: 如月いさみ


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13/21

その7-1

新大阪を降りると東京より遥かに暑いことが分かった。


芹は額に浮かぶ汗を拭い

「やっぱり大阪は暑いな」

と呟きメトロ御堂筋の乗り場へと向かった。


弟の隆弘が入院している病院は大阪市内にある総合病院でメトロ御堂筋線に乗っていくのだ。


芹は足を一歩踏み出すごとに胸の奥で大きくなっていく重しを感じながら

「今は逃げちゃダメな時なんだ」

と足を強く進めた。


空には夏の太陽が輝き強い日差しが町のアスファルトを強く照らしていた。


1Day探偵


メトロ御堂筋線の中津駅を降りて15分程歩いた場所にその病院はあった。

淀川沿いにあり大阪の北区なのに広々とした敷地を有した総合病院であった。


芹は病院の外来受付の前を抜けると数か月前まで何度か訪れた病室を目指した。

外来専門の受付と診察室がある建物の奥に入院棟の中でも小児科があるB棟と呼ばれる建物があり、その3階に隆弘の病室はある。


エレベーターに乗り降り立つと以前と変わりのない様子でナースセンターがあった。

芹はそこへ行くと

「あの」

と声を掛けた。


看護婦の一人が

「あら、隆弘君のお兄さんね」

と告げた。


何度か来ているので覚えていてくれたようである。


芹は小さく頷き

「はい、父から連絡があって」

と答えた。


彼女は笑顔で

「そう、良かったわね」

隆弘君、お兄さんをずっと待っているのよ

とナースセンターから出ると芹を誘うように病室へと足を進めた。


3015室の個室。

そこが隆弘の部屋であった。


芹が戸惑う暇もなく彼女はノックをして部屋に入り

「隆弘君、お兄さんが来てくれたわよ」

と明るい声で告げた。


芹はおずおずと部屋に入り入口で弟の隆弘の姿を見ると足が進まなくなった。


部屋には母親の百合子がおり芹を見ると立ち上がって芹の前に立った。

「よく来てくれたわね」

あの人が連絡したと言っていたけど


…来るかどうかわからなかったから…

そう言外に言われ芹は心の何処かで彼女にとって自分が他人なのだと感じずにはいられなかった。


ただ、ベッドの上で嬉しそうに自分を見て手を伸ばす隆弘に目を向けると足が勝手に進んだ。


怖いと思っていた一歩は小さかったが足早になるほどに歩幅は普通に戻っていた。

「隆弘…」


伸ばされた手を掴み

「ごめん」

ごめんな

「ごめん」

と告げた。


来る前まで頭の中で考えていた言葉やシチュエーションなど何の役にも立たなかった。

ただただ言いたい言葉が口を突いて出た。


隆弘は芹の手を掴み

「芹、ごめんね」

僕が悪かったんだ

「ごめんね」

と言い、昔と変わりのない笑顔を見せた。


5年前…隆弘は9歳だった。

今は14歳だが時間は止まっていたのだろう。


芹は首を振ると

「そんなことない」

と笑顔を返した。


母親の百合子はその姿を一瞥し部屋を出た。


隆弘は酷く痩せていた。

ずっと点滴で暮らしていたのだ。


そうなのだろう。

それが芹にはそれが酷く痛々しかった。


笑顔は昔と変わりないのに体格は酷くほっそりとしていたからである。


隆弘は芹を見つめ

「あの後ね、叔父さんに僕怒られたんだ」

と告げた。

「きっと僕の気持ちが分かっていたんだと思う」

ずっとずっと叔父さんが来るときは芹が羨ましかったんだ

「だからあの日無理やり…わがままを言ったんだ」

ごめんね


芹は首を振ると

「もう良いよ」

俺も一緒だから

「ずっと隆弘が羨ましかった」

だからおあいこだよな

と笑みを浮かべた。


隆弘は笑顔で

「それでずっと芹に言わないといけないことがあって」

叔父さんはあの催し物のところで芹に合わせたい子がいたんだって

「叔父さんの大切な知り合いの子で芹と同じ年の子だったんだ」

でも会う前に僕も叔父さんも気を失って分からなくなって…会えなかったんだけど

と言い

「叔父さんはね、今度は芹と僕と三人でちゃんと遊びに行こうって言ってくれてた」

叔父さんも怪我酷いからお見舞いにこれないけど治ったら来てくれるって

「だから治ったら叔父さんと芹と僕と三人で遊びに行こうね」

と告げた。


芹は潤みそうになる視界を懸命に堪えて笑みを浮かべると

「ああ、今度は三人で遊びに行こう」

約束な

「隆弘、ずっと言いたい言葉があったんだ」

俺、隆弘のこと凄く好きだからな

「あの時は酷いこと言ったけど…本当に大好きだから」

凄く大好きだから

と指を出した。


隆弘は頷いて指を掛けると

「僕もだよ、芹こと大好きだから」

と笑顔で言い、不意に真っ直ぐ芹を見つめると

「だから、僕はずっと思ってたんだ」

芹はもう芹の事だけ考えて歩いて

「芹はいつも僕やお母さんやお父さんの顔ばかり見て自分のしたいことやりたいことを飲み込んでた」

だからこれからは芹がどうしたいのかだけを考えて口に出して

と言うと

「約束」

と指を動かした。


隆弘は小さく笑むと

「僕、眠くなった」

元気になったら遊びに行こうね

「芹…お父さんとお母さんにね」

ありがとうって

と言うと目を閉じた。


芹は「隆弘?」と呼びそっと頬に手を当てて、背筋に冷たいものを走らせると慌てて部屋の戸を開けた。


「隆弘が!!」


声に母親の百合子と話していた看護婦は慌てて部屋の中へと駆けこんだ。

その日の夜にまるで父を待っていたように父親が到着すると隆弘はそのまま目覚めることなく息を引き取った。


ただ一度。

そうただ一度。


心のしこりを取るチャンスをくれたのだ。


芹は電話で春香に連絡を入れて全てを伝えると

「ごめん、暫く帰れない」

と告げた。


春香は芹が最後においていったUSBを手に

「こっちのことは気にしなくていいよ」

大丈夫だから

と告げ、消えてしまう記憶を留めるように自分の声で今日あった事を入れた。


そう、忘れてはいけないこと。

本当は直ぐにでも帰ってきた欲しかったが…今はそれを言うことができなかった。


春香は芹との通話を切ると強く両手を握りしめ

「たった3か月なのに」

芹、君がいないだけでこんなに不安になるなんて

「情けない」

と苦く笑みを浮かべた。


芹は通話を切り小さく息を吐き出し

「春香、大丈夫かな」

と呟いた。


その時、喪服を着た父親が姿を見せた。

「芹、少し話がある」

来なさい


そう言って父親の書斎へと誘われた。

芹は部屋に入り

「お父さん…」

と小さく呟いた。


父親は振り返り静かに笑むと棚から一冊の分厚い本を出した。

「これは弘志の日記だ」

弘志が死ぬ5年前の日付けから書かれている

「お前が持ちなさい」


芹は受け取りながら

「いいの?」

と聞いた。


父親の隆男は頷き

「それから明日葬儀が終わったら東京へ戻りなさい」

お前が進みたい道を家の事は考えずに進みなさい

と告げた。

「それが弘志と隆弘の望みだから」

私は出来る限りバックアップするから

「授業料のことも生活費のことも気にしなくていい」


芹は目を見開いた。


隆男は窓の方を見て

「百合子とは離婚することになった」

彼女がお前に対してどういう態度をとってきたか知っている

「知っていて見て見ぬふりをしてきた」

許して欲しい

と言い

「だが彼女を責めないでやって欲しい」

百合子はお前の本当の母親ではないんだ

「彼女を飛鳥家に留めていたのは隆弘だけだった」

もう自由にしてあげなければな

と苦い笑みを見せた。


芹は驚いて息を飲み込んだ。


隆男は手を伸ばして芹の頭を撫でると

「寂しい思いをさせて来たな」

すまなかった

と告げた。


芹は涙を落とすと父親に抱きつき

「ごめんなさい」

お父さん、逃げてごめん

と言うと顔をあげて

「俺、自分の進みたい道を自分の意志で見つけて歩いていく」

隆弘も言ってくれたから

「隆弘はきっと俺にもお父さんにもチャンスをくれたんだと思う」

家族が揃うチャンスを

と笑みを見せた。

「ここは俺の家だよね?」

また帰って来るから


隆男は芹を抱き締めると

「芹…そうだ」

ここはお前の家だ

「何時でも待っている」

と答えた。


翌日、芹は隆弘の葬儀を終えるとその足で東京へと戻った。


『芹がどうしたいのかだけを考えて口に出して』

芹は隆弘の言葉を胸にマンションへと戻ると春香の部屋のインターフォンを押して

「あ、今日は平日だ」

と呟いた。


瞬間に戸が開き驚いた表情の春香が立っていた。

「芹…」


芹は笑顔で

「ただいま」

と言うと

「大切な話があるんだ」

と告げた。


春香はどこかすっきりとした芹の表情に驚きながらも頷いた。


芹は春香の部屋に入ると

「お父さんが学費と生活費は心配しなくていいって言ってくれた」

と告げた。


春香は「まさか」と小さく震えた。

芹がこのアルバイトをしているのは生活費の為なのだ。


だから、その必要性がなくなったら…想像は容易に出来た。


芹は真っ直ぐ春香を見つめると

「それで俺は俺の意志でこのアルバイトを続けたいと思ってる」

まだ道は決めてないけど

「だからこそ一生懸命やって俺が進みたい道かどうか決めて行きたい」

もし違うと思ったら

「その時はごめん」

と告げた。


春香は暫く芹を見つめ

「え?」

それってアルバイト続けるってことなのか?

と聞いた。


芹は頷いた。

「そうそう」

最低でも高校三年間は続けるつもり

「他にやりたいことが見つかったらそれも一緒にしていこうと思う」

今まで自分がしたい事や進みたい道を考えたことが無いから

「これからは出来るだけやりたいと思ったことにはチャレンジしたいと思う」


春香は大きく息を吐き出し

「…良かった」

と言って笑みを浮かべた。

「出来ればずっと一緒に進んで欲しいけど」

芹は芹の人生だから

「どんな道を選んでも俺は応援することにするよ」


芹は笑顔で

「ありがとう」

と答え

「春香、俺の背中を押してくれてありがとう」

隆弘に会いに行って良かった

「感謝している」

と頭を下げた。


春香が押してくれなかったら自分はやはり後悔していただろう。

きっと記憶のこともあって不安だったに違いない。

それでも自分の為に背中を押してくれたのだ。


かけがえのない友だと芹は理解していたのである。


春香は芹に昨日の『三木厚美』のことを話すかどうか迷っていた。

帰ってきたばかりで芹も疲れているだろうし、まして、弟を亡くしたばかりなのだ。


口を開きかけて閉じた春香に芹は

「春香?」

何かあった?

と聞き、ハッとすると

「あ!もしかして宝石強盗!!」

俺、宝石強盗にバスジャックされて

「取り敢えず急いでたから事情聴取を受けてそのまま」

と告げた。


春香は昨日のことなので辛うじて記憶があり

「それは三人とも自供して捕まった」

と答えた。


芹は安堵の息を吐き出した。

「じゃあ、何を言おうとしたの?」


春香は少し考えて

「…実は三木厚美が拘置所内で殺されていた」

でもそれは警察内部で箝口令が敷かれていて公にはなっていない

と告げた。


芹は考えながら

「6月に起きた上岐田って人の催事を襲撃した団体にカメラの位置やホテルに入れた女性の人だね」

と呟き

「12階のアクロバットっていうラウンジの店員」

彼女が殺されたってことは彼女が言っていた『ジェイ』何とかっていう組織の人かも知れない

と告げて春香を見ると

「その時、春香はJDWって言ってた」

それと彼女がそのジェイって組織に原口って人物がいるってことも


春香は芹の話を聞き

「JDW…5年前に養父を殺した組織」

と言い拳を握りしめると

「俺がずっと探している組織…そしてその中にいる痣の男」

と呟いた。


それを覚えているのに手掛かりを忘れていくのが春香には悔しかったのだ。


芹は春香の手を掴むと

「俺が覚えている」

だから

「春香のことを教えて欲しい」

と告げた。


春香は目を見開いて芹を見つめると

「…芹」

と名を呟いた。


芹は笑顔で

「春香が忘れても何度でも伝えるから安心して」

と告げた。


春香は笑みを浮かべると

「ありがとう、芹」

と言うと唇を開いた。


5年前の催事で養父を殺されその同じ弾丸で頭を怪我して今の状態になったことを告げたのである。


「その時、撃った男を見たんだ」

頸の左側に痣のある男


芹は頷いて

「そうだったんだ」

と言い

「俺の叔父と弟も5年前の催事で叔父は亡くなって弟は寝たきりになってたんだ」

と告げた。

「弟が亡くなる前に叔父はその催事に俺を連れていって大切な知り合いの人の子供と合わせるつもりだったんだって」


5年前って俺達にとって運命の年だったんだな


春香は目を見開くと

「待って」

芹…その催事のこと…詳しく分かる?

と聞いた。


芹は首を振ると

「いや、俺は行かなかったし…喧嘩の最中だったから詳しく聞いてなかった」

と言って「あ」と言うと

「そう言えば、お父さんから叔父さんの日記を貰って」

それに書いているかも

と鞄の中から分厚い日記を出した。


「叔父が亡くなる前まで書いていた日記だって言ってた」

そう言って後ろからページを捲った。


そして、最期のページを開き

「えっと」

あった

「東京ハイリージェンシーホテルでSGの催事で肇さんとって書いてる」

SGって何だろ

と呟いた。


春香はそれに

「それセレクションガバナンスだよ」

俺と養父が出席した催事だ

と言い芹の手を掴むと

「養父の名前は神守肇…お義父さんが俺に合わせようとしていたのは」

きっと芹だったんだ

と顔を伏せ乍ら告げた。


芹は目を見開いて春香を見つめた。


同時にそれは春香が追いかけている相手こそ芹にとっても運命の敵だったのだ。

叔父と弟を襲った組織だったのだ。


芹は意を決すると

「春香、俺」

明日の朝に重要な話をする

「聞いて欲しい」

と告げた。


春香は芹の決意を読み取ると

「わかった」

明日の朝に聞く

と告げた。


芹は立ち上がると

「じゃあ、またご飯食べたらUSBに動画入れて持ってくる」

と告げた。


春香は頷いて

「ああ、ありがとう」

と答え、芹を送り出した。


芹は部屋に戻ると駅で買った弁当を出して食べると動画を作って春香へと渡してベッドに横になった。


そして、机の上に改めて飾った写真を見た。

叔父と隆弘と両親と自分と。


「叔父さん、隆弘…家族だよ」

お父さんも…血は繋がっていなかったけどお母さんも

「本当は家族だったんだ」


俺が背を向けていただけなんだ


芹はそう言い

「俺は叔父さんと隆弘をあんな目に合わせた組織を春香と共に追うことにする」

と告げた。

「今は心からそうしたいと思っているんだ」


そう言って目を閉じて眠りついた。

翌日、芹は朝食を早くに済ませて春香の部屋を訪ねた。


土曜日なので時間は十分あった。


芹は春香を前に息を吸い込み

「昨夜話したJDWの原口って人物の話だけど」

と告げた。


春香は頷いて

「ああ、三木厚美が言っていたというJDWの一員の話だな」

と告げた。


芹は春香を見つめ

「4月に入って直ぐに春香と俺と明日で中田達雄と言う男性が痴情の縺れで毒殺された事件を解決したんだ」

と言い

「その犯人が原口真奈美という女性だった」

いま彼女は殺人罪で刑務所に入っている

「ただ中田達雄の妻の操江が達雄と言う人物は彼女に『騙された』と言っていたそうなんだ」

俺はそこに何かあると思うんだ

「俺は三木厚美が言ったJDWの原口と言う人物は原口真奈美だと思うんだ」

彼女が電話で聞いた日付…4月1日は原口真奈美が捕まった日なんだ

「どうしてもそれが頭に引っ掛かって」

と告げた。


春香は腕を組み

「…そうなんだ」

と言い

「だったら、中田操江に聞きに行こう」

今その事件で一番よく聞けるのは彼女だけだからね

と告げた。

「今日は土曜日だし…早速動ける」


芹は頷いた。

「ありがとう、春香」


そう言った瞬間に春香の携帯が着信を知らせた。

依頼であった。


春香は少し迷ったものの芹が頷くと応答ボタンを押した。


電話の主は何時もの通りに播磨正であった。

彼は春香に

「悪いね、春香くん」

と言うと

「今朝、男性の変死体が見つかったんだが戸も窓もどこも閉められていてね」

犯人の逃走経路が割り出せない状態なんだ

と告げた。


春香はそれに

「つまり、密室殺人ってことだね」

と答えた。


播磨は車の助手席に乗りながら

「そう言う事なんだが」

今向かっているので頼みたい

と告げた。


春香は芹を見て

「芹」

と名前を呼んだ。


芹は頷くと

「依頼だよね」

分かった

と答え

「部屋から荷物だけ持ってくる」

と告げた。


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