その5-2
明日は警備室の前で
「それで事件の時に警備員は何をしていたんだ?」
普通は駐車場から潜入しようとしたら分かるだろ
と告げた。
播磨は頷いて
「警備員は全員眠らされていた」
と告げた。
「勿論犯人とグルかも知れないので今取り調べを受けている」
明日は「なるほど」と答えた。
その時、後ろから一人の女性が姿を見せた。
彼女は手に籠を持って
「すみません」
と芹達を追い抜くと警備室の手前で呼び出しボタンを押した。
中から鍵が開き警備員の一人が
「あ、アクロバットの」
というと籠を受け取って代金を渡した。
女性は「ありがとうございます」というと踵を返して芹達の横を足早に抜けた。
芹は肩越しに振り返り
「宅配かな?」
とすたすたと去っていく女性を見送った。
タイミングが良く播磨は警備員に手帳を見せると話をして中へと入った。
春香は警備員に
「先の女性は?」
と聞いた。
警備員はそれに
「ああ、12階のラウンジ・アクロバットの店員でケータリングに」
食事で抜けるわけには行かないのでホテル内のレストランやラウンジなどから頼んでいるんです
と答えた。
明日は頷いて
「それは店が決まっていたりするとか?」
と聞いた。
警備員は首を振ると
「いや、その日に何を頼むか決めてなので前もっては決まっていないです」
と答えた。
芹はそれを後ろで聞きながら
「24時間詰めるって大変だよな」
と心で呟いていた。
春香と明日は顔を見合わせると頷いた。
明日が警備員に
「それで今日の朝からの館内全ての防犯カメラの映像を」
と告げた。
警備員は頷くと大きな監視用の画面に映像を流した。
そこに映っていたのは極々普通のホテルの状態であった。
レストランには朝食バイキングに行く人の姿や早々にホテルを出て観光に向かう人などが映っている。
春香は小さく
「今日の朝はラ・メールのサンドイッチだったんだ」
と呟いた。
警備員は頷いた。
「警備についていた麻生はそこのサンドイッチが好きで」
朝は大抵そこに
「でも夜は先のアクロバットのカレーが多いですけどね」
後は和食だったり色々と
そして、駐車場からの客の出入りも映っており、事件が起きる15分前に警備員室の前のカメラと二階までの裏手の階段のカメラにスモッグがかかり見えなくなった。
明日はそれを見て
「それで事件か」
かなり周到だな
と呟いた。
「内部に集団の仲間がいるのは間違いないが」
それが誰かだな
春香は頷いて
「これだけ用意周到にするには前もって色々調べているはずだよね」
とチラリと明日を見た。
明日は頷くと
「一週間くらい前からの映像を早送りで」
と告げた。
警備員は頷くと一週間前の映像を流そうとした。
が、明日が
「あ、流すのは警備室前と裏階段の防犯カメラだけで」
と告げた。
つまり、細工のされたカメラだけで良いという事であった。
芹はそれに
「え?何故」
と聞いた。
春香が芹に
「だって細工されたカメラは犯人の仲間が確認をして回っているから必ず写っているってことだからね」
と告げた。
芹は「なるほど」と
「やっぱり探偵だよねー2人とも」
と心で突っ込んで画像を見つめた。
それでも色々な人が通っている。
ラ・メールのケータリングの従業員が階段を上っていく姿や和食の従業員や先のアクロバットの女性従業員が昇っていく姿も映っていた。
もちろん、他の従業員が階段や廊下を行き交っている姿もある。
その中に一人の男性がチェック表を手にカメラを確認していた。
明日はそれを見ると
「彼は?」
と聞いた。
警備員は男性を見ると
「ああ、彼は本部の設備係の男性で清水と言い定期的にカメラだけでなく非常口に余計なものが無いかとかを確認して回ってます」
と言い
「いま警察で事情聴取を受けてます」
と告げた。
春香は腕を組み
「なるほど」
と告げた。
一般客の姿は無く特段怪しい人物はいなかった。
が、芹は苦笑しながら
「でも、ここのホテルの従業員って大変だよね」
と告げた。
それに明日と春香と警備員と播磨は顔を向けた。
明日は「は?何故だ?」と聞いた。
芹は腕を組むと
「いや、あのさ」
ここのホテルって従業員用のエレベーター無いのかな?
と呟いた。
それに警備員が首を振ると
「いや、あるし皆利用している」
ただレストランとか食事処は二階までに全部あるから使っていないだけで
「上層階の従業員はバンバン使っているから」
と困ったように告げた。
芹は冷静に
「アクロバットって12階のラウンジだよね」
でもこの女性の人2階までいつも歩いているみたいだからてっきり
「12階まで登っているんじゃないかと思って」
と告げた。
それは春香と明日はハッとすると春香が警備員に
「10分前からの映像をお願いします」
と告げた。
先のアクロバットの店員が芹達とすれ違った後の動向の確認であった。
が、女性の姿は一階の階段にも二階の階段にもなかった。
明日は頷いて
「警備員に彼女がケータリングに来た日の映像を」
と告げた。
事件前の彼女は二階まで映っており時々少し斜め上を見ていた。
何も思わずに見ていたら気付かない動向である。
だが、カメラを見ていたのである。
明日と春香は播磨を見ると
「「彼女の確保を」」
と告げた。
明日は芹を見ると
「芹って…探偵の才能あるんじゃないか?」
と告げた。
「なんかふっと見過ごしそうな細かいところに気付く」
芹は考えながら
「いや、そう言う訳じゃないけど」
なんか変だなぁと思うだけで
「何が変なのか分からない」
と返した。
春香は苦笑し
「けど俺達は助けられているけどね」
正直
と答えた。
芹は照れると
「そう言われると困る」
と告げた。
アクロバットの女性店員は警察の事情聴取を受け始めはただの偶然だとか言っていたが、周辺を調べると大金が何度かに分けて振り込まれておりそこを追及されて自供を始めた。
「4か月前に知り合った男性と付き合い始めて」
凄く優しい人で色々プレゼントしてくれたり食事なんかも
「その彼が二週間くらい前に少しだけ手伝って欲しいっていって」
その大金が入るから手にはいったら結婚しようと言われて
「つい…カメラの位置を」
男性の名前と彼女が知っていた住所を調べに行ったがそこには男性は居らずそれどころか住所もなかった。
女性はそれを聞きショックを受けたものの
「一つだけ覚えていることが」
と告げた。
「一度だけ会っている時に電話が掛かってきて」
出会って少しした時で4月初めだったと思います
「原口って人の話をしてました」
ジェイ何とかでも古参だとかなんだとか
その取り調べを春香と明日と芹は特別に聞き播磨に
「こういう状態で彼女は正に末端だったようだ」
と告げられた。
春香はそれに
「いや、だけど一つだけわかった」
きっとJDWが関わっていたんだ
と播磨を見た。
明日は春香を見て
「JDW?」
と聞いた。
春香は頷き
「養父を殺した…事件を起こしたのもJDWだった」
絶対に付き止めてやる
「その原口という人物を探し出せば」
と告げた。
芹は春香の表情に息をのみ、いま思いついたことを飲み込んだ。
そう4月に原口という苗字。
芹は視線を伏せながら
「あの気にかかっていた原口真奈美という彼女のことじゃないよね」
まさかだよね
と心で呟いていた。
4月に起きた毒殺事件で痴情の縺れで殺人をしたという事で逮捕され今服役している原口真奈美。
芹はずっと気になっていたのだ。
殺された中田達雄の妻の操江が言っていた言葉。
『騙された』…その言葉の真実は明かされないままだったからである。
しかし、数日後。
芹は父から思わぬ連絡を受け帰宅するかどうかを迫れることになったのである。




