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1-2:異世界の景色

「シノ、もうすぐ丘の上に出るよ」


命からがら森を抜けた二人は、あたりを見渡せそうな小高い丘の頂上を目指して車を走らせていた。


「ねえチヨ大丈夫?登りきったら崖になってたりしない?」

そこそこ急な勾配を登っているため、

視界には青空しか映っていない状況に不安を覚える紫之葉が思わずたずねる。


「その時はその時さ」


……夜千代のその言葉に、紫乃葉は無言で窓の上のグリップをつかみなおすのだった。


上向きに傾いていた車体が、丘の頂上にゆっくりと乗り出し、徐々に水平に近づいてゆく。

「──っ!」

おもわず目をつむる紫之葉に夜千代がやさしく声をかける。

「大丈夫だよシノ。目をあけてごらん。」


「──わぁ、すごい綺麗な景色!!」

目をあけた紫之葉の目に飛び込んできたのは、


真夏のように深く、

それでいて冬の空のように澄みわたる青空。


そんな幻想的な青をバックに新緑の草原が広がり、その先には質の良い赤レンガを思わせるような、やや赤茶けた大地がどこまでも続いている。


「これは……なんというか、美しい以外の言葉がでてこないな。まるで絵画の中にいるようだ」

「うん……こんな景色が見られるなら、死にそうな思いをしたかいはあったかも。

正直、あとでチヨのことぶん殴ってやろうと思ってたけど、これでチャラにしてあげる」


「ははは、それはどうも。」


二人は車を降りてしばらくその景色に見惚れていたが、やがて紫乃葉が、うーんと伸びをしてからきりだした。

「──よーし、綺麗な景色も見れたし、そろそろ帰らない?私お腹空いてきちゃった。」


「あー、その、シノ……それなんだが……」

無邪気に笑う紫乃葉に、バツが悪そうな顔をして、なにやらもごもご言っている夜千代。


「え?なに?まさか帰れないとか言わないよね?」

「……。」

神妙な面持ちのまま答えない夜千代。

「え!?うそうそうそ、マジなの!?」


何かを察して焦る紫乃葉に、いつになく早口で要領を得ない説明をする夜千代。

「いや、転移装置は作動するんだよ?ただ、ガレージに付けていた、転移ゲートを保持する装置がないからね?つまるところ、帰りは開いた転移ゲートに飛び込むだけの加速度が必要だからね?ようするにだね──」


そんな夜千代の言い訳を遮って紫乃葉がジットリとした視線をおくりながらゆっくりと言う。


「夜千代さん?はっきり言ってもらえる?」


「……すまない。実はさっきの大ミミズから逃げるときに使った予備燃料、帰るときに必要なやつだった。」


「……やっぱり後でぶん殴るからね。」


「……本当にごめん。」

「まあ、私もなんでもいいからやってみたいなこと言った覚えあるし、あの時はああするしかなかったと思うから、もういいよ。それよりどうやったら帰れるの?チヨのことだし、その辺は考えた上での事だったんでしょ?」


「ああ。それはもちろん。ただ、簡単じゃなくてね。転移装置を限界まで加圧しても転移ゲートが維持できるのはせいぜい800ミリ秒程度だ。全長34mのこの車が通過するには時速200キロ程度は必要な計算になる。この車の主動力は水素エンジンとバッテリーのハイブリッドだが、それとは別に加速用の高燃焼性液体燃料内燃機関を搭載する事で時速200キロを実現していたんだけど、その燃料を使い切ってしまったわけだ。」


「よくわかんないけど、ようするに、めちゃくちゃ速く走らないといけないけど燃料がないってこと?」


「そういうこと。代替物になるような可燃性の液体を見つけるか、何かしら加速する手段を見つける必要がある。」


「それこそチヨの発明でなんか積んでないの?」

「……実は車に特殊な力場を発生させて空気抵抗をほぼゼロにする装置が積んである。」

「えっ、すごいじゃん。走ってるときにそれ使えば簡単に200キロくらい出るんじゃないの?」

「私もそう思って開発したんだが、いざ車に取り付けてみると、配線や動力源その他いろんな要因で、エンジンを動かしながらだと動作できない事がわかったんだ。」

「えぇー……」


「まあ、いざとなったら“奥の手”を使うよ」

「奥の手?」

「これはできればやりたくないから、後回しだ。」

「教えてくれないの?」

「……内容を聞いたらシノが後で私を殴る回数が一回増えると思うから言わない。」


「へぇ。」


もうその返答だけで拳の追加を決めた紫乃葉だった。


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