パニック・クリスマス
何度見てもそれはパンツだった。
「えー……、これはどうするべきなんだろ?」
対応に窮していると、チョコちゃんからスマホにメッセージが届いた。
(明良くんがくれた帽子かわいい! ありがとうね!)
メッセージは、チョコちゃんがプレゼントのニット帽を被った自撮り画像付きだった。
(めちゃくちゃ似合ってる!)
(明良くんも自撮り送ってよー。プレゼントしたやつ被って!)
(いや、それはさすがに厳しいっていうか……)
(なんでー?)
僕はチョコちゃんからのプレゼントの画像をスマホで撮って送った。
(なんでそれを明良くんが持ってるの!)
(あなたから頂いたものですが)
(あーーーー! やらかしちゃった!! ほんとごめん!!)
(よかった。やっぱり何か手違いがあったみたいだね)
(そうなの。春香ちゃんちのパーティーでプレゼント交換会やってたんだけど、そこで間違えてたみたい)
(うん、びっくりしたけどそんな気はしてた)
(一度あげちゃったものにこう言うのも申し訳ないんだけど、返してくれるとうれしい)
(そうだね。僕が持っててもどうしようもないし)
(ありがとう! ほんとにごめんね)
(明日持っていけばいい?)
(そうだね)
(じゃあ、そうします)
やはりというか、間違いでよかったというか。これを貰ったことでどう対応するのが正解なのか分からないし、そんなことは誰にも聞けない。
「眠そうね」
「うん、まあ」
翌朝、チョコちゃんに会うなりそう言われた。無理もなかった。思春期の僕にとって、理由はどうあれ好きな女の子から貰った下着が手元にあるという状況は、あまりにも毒が大きすぎた。眠れる訳がない。
チョコちゃんの言葉には『悪い事しちゃったな』という感情が何となく感じられた。そう思わせてしまうことが情けなくなってしまう。些細なことに動じない男になりたい。
「はい、これ」
僕は昨日貰ったものをチョコちゃんに返す。
「ありがとう。それでね、これが本来あげたかったもの」
「あっ」
チョコちゃんは、おもむろに上着のポケットから取り出したものを僕の頭に被せた。毛糸の……ニットの、帽子?
「明良くんにもらった帽子の色違い」
「えっ」
「お兄ちゃんとお出かけしてる時にね、春香ちゃんと一緒にいる明良くんを見かけたんだよ」
「あ、あの時に?」
「それで、これを買ってたのを目撃してて」
チョコちゃんは頭に手を当てて”これ”が昨日僕がプレゼントしたニット帽であることを示す。
「お兄ちゃんいわく『あれは千夜子にプレゼントするものに違いない』って」
「そ、そこまでバレバレ?」
「幼なじみの女の子と一緒に買い物に来て、女の子用のものを買っていくのは『女の子に渡すプレゼントに何を買っていいか分からないから、その女の子に相談してた』というのがお兄ちゃんの予想だったの」
「そ、その通りです」
僕は恥ずかしくなって両手で顔を覆う。
「それでね、お兄ちゃんが『お返しには、同じデザインの色違いにしたら?』ってアドバイスしてくれたの」
「お兄さんに僕の事言ってたんだ……?」
「まあ、毎朝早起きしては出かけて行ってるからね。家族にはちゃんと言ってるよ」
僕は言ってなかった。
「昨日のパーティーのプレゼント交換ではね、その帽子は春香ちゃんのところに行ってたんだ」
「じゃあ、昨日あれから取りに戻ったの?」
「うん、ちゃんと訳を話してね」
「そっか。わざわざありがとう」
「ううん、わたしのミスだしね。なんというか、変なノリで下着の交換することになっちゃってて」
「なんで??」
「わかんない! まあ、それで明良くんとメッセージしてたあと春香ちゃんから苦情が来てたの」
「そっか」
身に刺さるような寒さの中、僕の頬は寝不足と恥ずかしさと幸せで火照ってしまう。それを見てチョコちゃんがクスクスと笑っていた。
冬休みが始まっていた。もうすぐ年が明ける。
モチベーション向上につながりますので、いいね、感想、ブックマーク等で支援お願いします!