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円卓組始末記  作者: 芹沢ハト
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円卓組始末記(1)






互いの主張で(しのぎ)を削る。


会議とは平和的に言い争う場として設定されており、双方遠慮なく舌鋒鋭く相まみえるべし……という建前の上に成されている。噛み砕いて言えば、是が非でもその場の空気を穏やかに保つ必要は有りはしない、という事である。せっかく顔を突き合わせているのだから、やはり熱は欲しいかと。


ただし悲しいかな、我が()()に於いてそれは著しく形骸化、もはや絵に描いた餅と堕している。


宮廷魔導士筆頭、マーリン翁が発言権はおろか、その決定の可否すらすべてを牛耳っているからである。


先の会議もその例に漏れず、翁の唐突な提言から始まり、それに終わった。



「円卓()()()()を提案させて頂く」



昨年から急激に顕著となった『魔導士失踪の案件』についての真相究明と対策が議題のはずだったのだが、それを一切合切無視、マーリン翁が高らかに宣言したのは、いくら何でも空気を読まな過ぎるものであった。


「法度……ですか?」


俺が問い返してみれば、稀代の大魔導士はたっぷりと蓄えた顎ひげをさすりながら「うむ」と大仰にうなづいた。


「では魔導士の件は先送りにされると?」


「いや、それは違うのだ、ガラハド卿。法度こそが(くだん)の対策の主柱である。まずは説明を聞かれるがよろし」と、何やら自信たっぷりに翁は答え、俺は軽くあしらわれた。柔かいもの言いではあるが、要約すると、


“黙っていろ、小僧”


……である。間違いない。


「……御意」


マーリン翁が『おほん』と空咳をする。「よろしいですかな」


翁はおもむろに卓の上に丸めていた羊紙を広げ、記されていた文言を開示した。以下のとおりである。


一、騎士道に(そむ)きまじきこと。


一、円卓を脱するを許さず。


一、勝手に金策いたすべからず。


一、勝手に訴訟を取り扱うべからず。


一、その他、追って色々追加。


以上。



「この五項目じゃ。破れば血の粛清である」


と、マーリン翁は言い切った感全開で『くわっ』と濁った白目を見開いた。


すると、円卓の対面に腰掛けていたセリズアデス卿が、小首をかしげるのが見えた。


「円卓の規律を見直そうという翁の言われることはごもっともですが、しかし、まずは聖杯の探索と、魔導士の失踪、この二つの案件を優先すべきなのでは?」


問われてマーリン翁は口元をわずかに歪め、小声で「やれやれ」とつぶやいた。


「あのさ、聖杯聖杯って、もう、ちょっとよくね? いいんじゃね? 他の暇そうな連中に探さしときゃいいんじゃね? つーか、ねぇよ、聖杯とか。ないない。ガチでねぇから。つーかさ、もう飽きたっぽくね? セーハイさがし。よくね? 無くても。後世の歴史家に好き勝手に書かれて炎上するかもしれんけどさ、もうええわ。ええて。はいはい、低評価低評価。それでええやんけ。なぁ、アーサー?」


視線を主君へと向ける翁。受けて「そうだな……」と、陛下は腕組みをされた。眉間にはくっきりと苦悩を謳う皺が寄せられ、遅れて両のまぶたを伏せられた。


マーリン翁が慌てて「ノンノン!」と、右手の人差指を左右に振る。


「やめや、やめやめ! そんな辛気くっさいの、やめよーや、アーやん。たかだかセーハーイを探すのに円卓も疲労感半端ねーやん。ここはぱーっと忘れてしばらく楽しくやろうや。なぁ?」


マーリン翁は今にも小躍りを始めそうな躍動的な語り掛けを続けるのだが、またもやセリズアデス卿が質問を挟んだ。


「では、聖杯探索からも円卓は一旦距離を置くと? 」


「うむ」と応えるマーリン。


「つまりは、そのための御法度じゃよ。おもしろおかしく楽しくやればハメを外す奴も出てくる。それを抑制するための新制度であると。そのように謳うのじゃ」


……いや、だったら聖杯探しもそこそこ片手間で続ければいいのでは。グダグダにやられて国民の反発を喰うのが嫌なのなら、外面の見た目だけでも良くやってたらいいのでは……と、思わなくもなかったが、あえて発言はしなかった。翁は聞き入れないからである。もともとが石頭で頑固なヒトであったが、加齢とともにますます他人の意見に耳を貸さなくなり、今や金剛石(ダイヤモンド)アタマである。言い出したらきかないのである。陛下も口をつぐんでおられる。やむなし……との御判断が手に取るようにわかった。


それはマーリン翁にも通じているらしく、その視線を陛下から俺へと転じた。


「ついてはガラハド卿。折り入っての頼みがある」


よろしくない予感しかしないが、仕方がない。陛下が翁へ何も申されないのであれば、これは上からの指示である。受ける以外の選択肢はない。


「有り難くうけたまわりますれば。わたくしに(にな)えることならば何なりと」


「東の半島の枯れ沼地に魔女が住んでいるという件、卿も聞き及んでいると思う。すまぬが、彼女を円卓まで連れて来てほしい」


「……枯れ沼地の魔女と言えば……」


なるほど、そういうことか。マーリンの考えている事がすんなりと飲み込め、俺はひとり合点した。


被せるように翁が言う。


「そう、稀代の読心術使いの血筋じゃ。他者の心を読めてしまう彼女に対し、ウソは無効じゃからな。彼女を特別顧問として招聘する。これならば円卓の風紀も乱れますまい。民も納得であろうて」




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