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円卓組始末記  作者: 芹沢ハト
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円卓組始末記(13)




……ニュクスどのが逃れられたのは、ガラハドどのの奮戦の賜物。そのガラハドどのはその(のち)、勇気ある撤退を選択されました。あの刺客を軽々に見てはいけない。ガラハドどののその判断をわたしも支持します。


時系列順で説明しますと、刺客めはまずニュクスどののフォルテナを踏み、その一瞬の隙を突かれてガラハドどのの接近を許した。結果、ニュクスどのは離脱。次にガラハドどのと斬り結んでいる最中に、()()()()()()()()()を踏んでしまいました。


戦況として良くないと思われましたので、僭越ながらお節介を焼かせて頂きました。刺客めの“ 馬だと ”という発言を憶えていらっしゃいますか?


アレは馬が近づいて来た事、ではなく、新たに喰らったフォルテナの作者が馬だった事に驚いていたと。そういう事情だと思われます。


非常時用に常備していた私めの作品をとっさに踏ませました。しかし、この老いぼれの枯れかけの微弱な魔力では射程も短く範囲も狭く、絞り出しても【普及型(スプレッド)】での四秒ないし五秒が精一杯なのです。幸い、星明かりの許での[見づらい(ブリンカー)]の効果は昼間の倍以上ですので、紙一重の危うさでしたが、なんとかあの場から退散できました。


あの刺客は(あなど)れません。魔女どのが去った後で、有るはずの無いフォルテナを踏んでしまった。しかし、視野を阻害されたはずなのに、その動揺をガラハドどのにまったく読み取らせませんでした。作者が馬で有る事は予想外過ぎて、若干戸惑っていたようですが、露呈していたのはそれだけです。不利を被っていることを相手に悟らせない。対フォルテナ戦の鉄則ですが、それを徹底するには正しく経験を積み、咀嚼吸収するしかありません。それが確実に血肉になっている。あの時、無理に追って来なかった事もその証拠です。戦闘巧者なのは疑いようもありません。もう私が只の馬ではないことが知られてしまいましたので、次からは確実に警戒されます。同じ手は二度と通じないでしょうな。


そこで妙案です。一縷の望みにすがるのなら、それはニュクスどののフォルテナではないかと。その確認をしたい。よろしいか……





老馬の説明はなかなか興味深く、特に彼の有利区間の件なぞ俺には寝耳に水でしかなかった。だが、大筋からすれば瑣末だ。今はそんな事に執着している場合ではない。現状を打開せねば。


確かに、ニュクスの有利区間は戦力として計算できるかもしれない。警戒されているのは当然にしても、射程と範囲は桁違いのはず。実際、彼女の[動きづらい(ウエイト)]が発動していた。これを俺の剣技と巧みに組み合わせれば、セリズアデスに対抗出来るかも……


が、一方であくまでもこれはこちら側の勝手な要望にすぎない、という思いもある。魔女の宿命に否定的な彼女を戦術に組み込むのはいかがなものか……そもそも『魔女』を城に連れて帰りたいという俺の使命そのものが負担になっているのは疑いようがない。露骨な手詰まり感に俺は戸惑うしかなく、老馬と魔女の問答を黙って聞くしかなかった。


『ひとつ教えてほしいのです、ニュクスどの。貴女の護身用のフォルテナ、あれは[動きづらい(ウエイト)]では()()()()()()


「ん? あ、[側にいて(MEGADETH)]の事? うん、そう」と、ニュクスはあっさり認めた。かたわらで、額に変な汗を浮かせるウマ子。『メ……メガデス……』


卒倒しかけているウマ子はさておき、俺は[動きづらい(ウエイト)]ではなかったのが少々意外だったので、「そうなのか?」と老馬へたずねた。


『刺客めが動きに制限を受けたのは、ほんの一瞬でした。いくらなんでも発動時間が短すぎます。そこは魔女どのなのですから、魔力は潤沢かと』


それはそうか。「では一体……」


『護身用ですから箱庭型ではなく、自身の周囲に配置している感じですかな。ガラハドどのはもう射程に入ってますか?』


「うん。入ってるわね」


けろりと答えるニュクス。俺は少々慌ててしまった。


「なに! もう有利区間に踏み込んでいるのか?……それにしてはなんとも無いのだが……」


「そりゃそうよ。条件を満たしてないもの」


「何が必要なのだ?」


「発動条件はあたしを攻撃すること」


「……効果は?」


「母の直伝なのよ、コレ。母は魔女のたしなみって呼んでたけどさ。ま、要するに惚れ薬の効果ね」


二頭の馬と同時に、俺は真顔で半開きの口となった。「は?」『は?』『は?』


「だから」と、ニュクス。


「あたしに物理的な危害を加えようとすると、あたしに好意を抱いてしまうのよ。そういう事」


目を剥いたのは老馬だ。『これはまた……なんとも想像の斜め上を行くフォルテナですな。うーむ……』


するとウマ子が『ガラハドちゃん、試しにちょっと斬りかかってみなさいよ』などと余計な事を言う。


「冗談言うな、誰がこんな乳も満足に膨らんでいない小娘に……」


瞬間、ニュクスの顔が鬼のそれへと化した。


「あんだとゴラァア! まだ成長期だっつーの! これから()()()になるっつーの! 美少女の底力と秘めたる可能性、甘く見んなよオラァァ! このドサ回り騎士がぁぁ!」


そんな飼い主の癇癪(かんしゃく)に感化されたのか、ロバ子はちょっと嬉しそうに長い耳をピョコピョコと動かした。その一方で、俺はウマ子から憐れみを秘めた目線をよこされていた。


『今のはガラハドちゃんが悪いわよ。ほんと、ダメねぇ』


「てめぇウマ子! 主にむかって何だ、その言い草は!」


『ガラハドどの、不毛の言い争いをしている場合では……』


老馬がオロオロしているのはわかってはいたが、彼の意見に耳を貸したのはもうしばらく経ってからであった。




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