『女性の方が痛みに強い』説
こういう説、小説や漫画などでたまに目にしますよね。
『女性の方が痛みや苦しみに強い』『血を見ることに対して耐性がある』等々。
まあ、確かに生物学的にそういうこともあり得そうなのですが、個人差もあるでしょうし、あくまで俗説の範疇なのではないかとも思っていたのです。
ところで先日、自分は結構なおっさんになってから、生まれて初めての入院・手術を経験しました。
とある臓器を摘出するという手術だったのですが──いやぁ、これは想像をはるかに上回る痛みでしたね。
手術当日、麻酔が切れて意識が回復してからは、ちょっと身動きしても悶絶、咳をしてもしゃっくりをしても悶絶……。
痛み止めは点滴で投与され続けているはずなんですが、もう筆舌に尽くしがたいほどの痛みでした。
しかし、翌日にはもう立ち上がる練習をするとの予告を受けています。
医師から事前に『かなり痛いと思いますが、その方が後々の回復にはいいので頑張って下さいね』とも言われてましたが、これ、自分に本当に耐えられるんだろうか……。
しかし、こんなことで醜態をさらすわけにはいきません。
実はほぼ同時期に、嫁も同じ病院に入院しているのです。
嫁に自分の無様な噂が伝わることだけは、断じて避けねば──!!
そう思って手術前日、普段は滅多に使うことのない動画見放題を活用して、自らを奮い立たせるような映画やアニメを見まくりました。
──自分はデジタルに馴染み切れない世代なので、動画見放題の必要性というものがもうひとつ理解できていなかったのですが、入院中は大変に重宝しました。
平日の昼間、地上波のテレビだけで時間を潰すというのは、これがなかなかに苦行でして。
持って行った何冊かの本もすぐに読み切っちゃいましたし。
『なら連載小説の続きを書けよ』って話なのですが、環境が変わったせいか、どうもいまいち筆が進まないのです。
──入ってて良かった、ア〇ゾンプライムw。
新規開拓はやめておきました。
好きな映画を1本観て、そこからは色々な作品の中の自分を鼓舞するようなシーンを飛ばし見です。
特に、ほぼ十年ぶりくらいに見た某SFアニメは実に熱かった──。
そう、明日の歩行練習に立ち向かうためのキーワードは──『努力と根性』!
そして、手術の翌日。
医師や看護師が入ってきて、色々とチェックをした後に爽やかな笑顔でこう言いました。
「さあ、歌池さん(仮名)。立つ練習をしてみましょうか」
──大丈夫。自分はやれる。
イメージトレーニングは完璧です。
脳内では、昨日観たあのアニメで、ガ〇バスターが初出撃する時のBGMが勇壮に流れ続けています。
──痛いっ。痛いっっ! とんでもなく痛いっっっ!!
だが、負けるものか! 『努力と根性』だ!
炎となった自分は──無敵だ!!
立ち上がりました。
足踏みも出来ました。
やった──! 自分は己に勝ったのです! やりましたよ、〇田コーチ!
そんな震えるような感慨にふける自分に、看護師さんたちの賞賛やねぎらいの言葉がかけられ──ることはありませんでした。
かけられたのは、なぜか期待が外れて気が抜けたかのような言葉だったのです。
「──あれ、普通に立てちゃいましたね」
「普通、男の人は大概ここでピィピィ泣くものなんですけどねぇ」
──え、ええええぇっ? そんなものなんですか?
医師や看護師さんたちによると、実はこの時、女性はたいがい立ち上がることが出来るそうなのですが、多くの男性は泣き言を言ってなかなか立てないそうなのです。
──なるほど。
『女性の方が痛みに強い』っていうのは、それなりに根拠のある話だったんですね。
入院中、安否を気遣ってくれた皆様、連載の続きを待っていて下さった皆様に、心から感謝いたします。