パワー・オブ・ザ・シンデレラ~ガラスの靴は拳で勝ち取れ~
男塾の切り抜き見ながら書いた
――薄暗い個室の中。みすぼらしいスカートを履いたシンデレラは、剥き出しになった柱を使い懸垂を行っていた。
聞こえるのは、彼女の荒い呼吸と、「九万九千九百九十八……九万九千九百九十九……」と言う、数を数える声だけ。後は、シンデレラが体を持ち上げる時に感じられる、風の流れのみであった。
そしてシンデレラは、「十万ッッッ!」と一際力を入れ、懸垂を終えた途端、手を放し床へと降り立った。
天井が崩れるのではないかと言うほどの衝撃が家を揺らす。大地から伸びるその体長は、ゆうに2メートルを超えていた。
「ふぅ……今日のトレーニングはこんなものか……」
猛々しい肉体は、吹き出た汗によりてらてらと輝いていた。過酷なトレーニングにより膨張した筋肉は城門を破壊する破城槌よりも太く、さらけ出された大胸筋は岩石よりも硬くゴツゴツとしていた。
シンデレラは足元に置いた水筒から水を飲みこんだ。と、途端、突如として彼女の部屋のドアが開き、そこから似た体格の女子が現れた。
「シンデレラ。今日のトレーニングは終わったのか?」
「――姉者……」
シンデレラの姉である。長女にあたる彼女は美しい茶色の髪をしており、悪魔のような表情でシンデレラを睨みつけた。
「姉者……今まさに、腕立て十万回、スクワット十万回、懸垂十万回を終えたところだ……」
「フン……」
長女はシンデレラの言葉を聞き、彼女を鼻で笑った。
「その程度か、シンデレラよ……」
「なに――?」
「お前はまだぬるい。私は今日、お前のトレーニングを100キロの重りを身に着けやった。両手両足、そして背中、合計5つだ。その程度で我が一族のナンバーワンを目指すと豪語するとは、姉の私からすれば恥もいい所だ。あまりに情けないぞ、シンデレラよ」
「……」
「フン……悔しければ精進することだ。貴様の筋肉は、ぬるま湯に浸かり過ぎてあまりにふやけている。より厳しい訓練を積み、女を磨くことだな……」
長女はそう言うと、個室の扉(重さにして実に200キロ)を閉めた。
シンデレラは薄暗い闇の中、打ちひしがれた。姉の言葉は、彼女の心を大きく抉ったのだ。
「――なるほど。私もまだまだ、甘いということか」
しかしシンデレラは、その衝撃をもってなお笑ってみせた。
「ならば、より一層鍛えるのみだ。フン、姉者が500キロか。ならば私は、1トンの重りを身に着けるまでだ」
そう言ってシンデレラは、部屋の隅から1トンの重りを取り出し、それを両手両足、そして背中へと装着した。
重さにして、合計5トン。これは付近の山に出没するドラゴン、『マッスル・ドレイク』と同じ重量である(あるいは、インド象並と言っても良いであろう)。
そうしてシンデレラは、暗い個室の中、黙々とトレーニングを続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
「――シンデレラの様子はどうで候か、姉者よ」
シンデレラの一族の次女が長女に声をかけた。煌びやかな怒裂超を身に纏った長女は、鼻で小さく笑いながら次女の言葉に受け答えた。
「ふん……相も変わらずトレーニングを積んでいる。どうやら、まるっきり私たちには気付いていないようだ」
「なるほど……即ち、彼奴めは今夜のぶとう大会を知らぬと……」
次女は壁のようになった僧帽筋(首周りの筋肉である)を慣らしながら笑った。すると会話を聞いていた三女が、はちきれんばかりの腕を組み、不気味な笑みを浮かべた。
「ふん、気が付かぬのなら、所詮それまでの女よ。今宵のぶとう大会、この国の当主様にお会いするまたとない好機。それを逃すとあれば、それはあやつの耳が悪いとしか言いようがあるまい」
「違いあるまい」
と。そんな会話に割り込むように、また一人の女が、「何をしている」と声を張り上げた。
「――! 母様……!」
「お前たち、無駄話をしている場合ではないぞよ。もうすぐ王子殿のぶとう大会が開催される。急ぎ行かねば、わずかでも遅れれば失礼というもの」
最も年長な母の体格は、3メートルを超えていた。
それはトップの座に相応しい筋肉であった。あまりの膨張ぶりに、人が三人ほど並んでもなおスペースが余る。レジェンド級の筋肉を持つ母君の言葉に、三人はたまらず頭を下げた。
「「「申し訳ない、母君」」」
「わかれば良い。それでは、すぐにここを発つぞよ。長女よ、王子の城へはどれほどかかる?」
「王子の城はここから約100キロ……走って20分はかかる距離だ」
「なれば、急ぐぞよ。あと30分後にはぶとう大会が始まるが故」
そうして4人は、凄まじい速度で王子の城を目指していった。
◇ ◇ ◇ ◇
25分ほどが経過し。シンデレラは、家屋の柱を使い懸垂を行っていた。
「九万九千九百九十八……九万九千九百九十九……十万ッッッ!!!」
合計5トンの重りを付けたシンデレラは、そう叫ぶと同時、地面へと足を付けた。
「ふん……ペースを上げ行ったが、存外楽勝な物だな。
さて。しかし姉者らめ、まさかこの私を差し置いて武闘大会へ行くとは――!」
シンデレラは、姉たちの会話を理解していた。
なぜ彼女はぶとう大会を知っているのか。理由はシンプルである。すなわち、この場で盗み聞きをしたのだ。
果てしなく鍛え続けた彼女の肉体は、もはや神の領域を凌駕している。故に、感覚器官も筋肉並に発達しており、姉者らの会話を理解していたのだ。
とは言え、トレーニングへの集中は、耳元で弾けた爆弾の音さえも無にしてしまう。その中でもしかし、なぜシンデレラはそれを知ったのか。
それも理由は単純明快。人間には、カクテルパーティー効果という、自らが気になる言葉だけは鮮明に聞こえるようになるという機能がある。
つまり、シンデレラは、姉らが話していた「ぶとう大会」というワードに反応したのだ。
「武闘大会……! この私の力を試すまたとない好機……! ならば、意地でも参加せねば」
その途端、シンデレラの部屋になぜか突然老婆が現れた。
「私は良い魔女! お前にカボチャの馬車と白馬を……」
「要らん」
「は?」
「かぼちゃの馬車だと? 笑止。そんなものを使えば、我が筋肉と姉者らに失礼というもの。壁とは、己の肉体で超えることにこそ意味がある」
そしてシンデレラは、地面に手をつき、クラウチングスタートの構えを取った。
「王子の城までおよそ百キロ。残る時間は五分。ふん、余裕だな……!」
そしてシンデレラは、スタートダッシュで自らの部屋を消し飛ばしながら、王子の部屋へと猛スピードで向かっていった。
◇ ◇ ◇ ◇
――王城前。シンデレラは息一つ乱さず、高くそびえる城門を睨みつけた。
「ここが王城……武闘大会の開催地……! 数々の猛者達と、筋肉と拳を交え己を試す試練の場……!」
ドム、ドムと足音を鳴らし、シンデレラは桟橋を渡っていく。その向こう側にいる騎士たちが、熊のような体格のシンデレラを見て慌ただしくなりだした。
「な、なんだこの筋肉は……!」
「これでもかと言う程に洗練されている……! こうなるまでに、一体幾つの眠れぬ夜を過ごしたというのだ……!」
シンデレラは焦る騎士たちの目前に至る。そしてニヤリと笑いながら、彼女は騎士たちへと話しかけた。
「武闘大会に出場したいのだが」
「舞踏大会……? しかし、それならそのような格好はまずいかと。せめてドレスか何かで上だけでも隠して頂かなければ……」
シンデレラは己のさらけ出された胸板を見て「なるほど……」と呟いた。
「つまり、怒裂超があれば良いのだな?」
するとシンデレラは、全身の筋肉に力を入れ、そして「むぐぐぐぐ……!」とうなりだした。
そして次の瞬間。さながら全身のエネルギーが発散されていくかのように、「ハァーッッッ!!!」と雌叫びをあげた。
すると、シンデレラの身につけていたスカートが弾け飛び、途端、彼女の体には光り輝く怒裂超が纏われていた。
怒裂超。それは、真に女を窮めた者のみが身に纏える戦闘着である。
肉体に溜め込まれた闘気は、その純度が高まると物質として顕現する。その闘気が凄まじければ凄まじいほど、着込む怒裂超は輝きを増す。
シンデレラの纏う怒裂超は、まさに比類する物無きと言えるほどに眩く輝いていた。
「こ、これは……! なんという凄み!」
「まさに太陽……! 光り輝く筋肉が、この地球を熱く照らしているッ!」
騎士たちは驚き、そしてシンデレラの神々しさに頭を下げた。
「失礼しました。どうぞ、お入りください」
「あなたほどの筋肉であれば、王子もさぞ喜ばれるかと思います!」
「ふん……わかればいいのだ」
シンデレラはそして、王城の中へと入っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
「キャー! な、なによアレー!」
「化け物! 化け物だわー!」
場所は舞踏大会会場。王子が高々と掲げられた玉座に足を組んで座る中、その阿鼻叫喚の地獄は広がっていた。
シンデレラの一家が、この会場を荒らしているのである。
「フン……! 武闘大会と聞いて飛んできたが、なんだ、華奢な女児共しかいないではないか……!」
「姉者。拙者は至極落胆で候。どのような猛者が現れるかと思いきや、このような細身の者ばかり。彼奴らめは女として余りに未熟」
「己を磨きあげることを忘れた怠惰な豚共よ。怒裂超も纏えぬ軟弱者共に、この場に立つ資格は無い……!」
長女と次女が言葉を交わす。そうした中、王子の隣にいる側近のセバスチャンが声を出した。
「王子……! どうなさいますか! この武闘大会の面々から、結婚相手を探すと仰られていたのに!」
「……良い……」
「王子?」
「実に良い。俺は今最高にワクワクしているぞ、セバスよ」
途端、王子は立ち上がり、身につけた豪奢なマントを大きくなびかせた。
「お前たち! 実に良い演目だ。どうだ、貴様ら一家で殴り合いをし、勝った者が次の王になる。シンプルで良いだろう?」
王子が声を発すると、シンデレラの一家は互いに顔を見合った。
「だと言うが。どう思う、妹よ?」
「やはり、最終的には我ら一家の殴り合いになるので候な。まあ、予期していたことではあるが」
「クックック。面白い。ならば、愛しき妹と言えど、母と言えど、手加減はせんぞ」
「至極当然。死合に家族の情など不要」
そうして4人は、各々構えを取り、一触即発の空気が辺りを包んだ。
と、途端。武闘会場の出入り口が突如として崩壊し、大きな土煙が上がった。
4人はハッとして崩壊した場所へと目を向ける。
土煙の中からゆっくりと現れたのは、愉快そうに口角を釣りあげた筋肉の塊――シンデレラであった。
「姉者、母よ。この私を差し置いて、自分たちだけで死合うとはいくらなんでも酷いんじゃあないか?」
シンデレラは一家を指差しギラリと眼光を放った。するとそれを受けた長女は「クク、クククク……」と愉快そうに笑い、そしてシンデレラへと睨みを返す。
「来ると思っていたぞ、シンデレラよ。しかし我ら一家のナンバーワンを目指すと息まくだけはあるな、よくぞここまであの短時間でたどり着いた」
「フン……私の筋肉に不可能は無い」
「わかっているじゃあないか。シンデレラよ、貴様の目標は天よりも高く地の獄よりも苦しい。しかしその道へと至らんとするお前を、我ら一家は執拗なまでにいじめぬき、目標に恥じぬ試練を与えてきた。
今がその最終段階と言えよう。我ら4人と拳を交え、そして見事名実ともに一族トップの座を得て見せよ。できなければ、お前は所詮その程度の女であったというまでだ……」
「笑止ッ! いいだろう、姉者よ! このシンデレラ、貴様らの死体を踏み台にし、神をも屠る高みへと上ってみせよう!」
そしてシンデレラは身構え、おびただしいまでの闘気を放った。
怒裂超が世界と呼応し、空気が震える。大地がうなりを上げ、この場に立っているだけで気絶しそうになるほどの威圧感が全てを押し退ける。尋常ではない緊張感が蔓延した瞬間、突如として爆撃かのような衝撃が辺りを駆け巡り、シンデレラたちは一斉に動き出した。
5人の筋肉はぶつかり合い、その衝撃で城壁が一部崩れ落ちた。会場内の面々は皆々吹き飛ばされ、彼女らの戦いに巻き込まれない場所へと転がっていく。
そうしてシンデレラは、満身の力を込めた右拳を目前の三女へと突きつけた。
「ヌンっ!」
腕を曲げる上腕二頭筋と、拳を突き出す上腕三頭筋の拮抗力は果てしないパワーをため込んでいた。そして二頭筋の力が緩まると共に、三頭筋の作用によりため込まれたパワーは一気に解き放たれる。
それはまさしく破核の威力であった。シンデレラの通常攻撃、『ツァーリ・パンチ』である。
三女はそれを顔面で受けてしまった。しかし三女は、にやりと笑うと、シンデレラへと余裕の眼光を光らせた。
「その程度か、シンデレラよ」
「――!」
首の前屈には主として胸鎖乳突筋が働いている。三女の発達した胸鎖乳突筋はおおよそ尋常ではないパワーを誇っており、それは核の爆発でさえも受け止められるほどであった。
「なにがツァーリ・パンチだ。お前の右拳など、せいぜい子供の爆竹よ。こんなもの、我が頚を破壊するには至らぬッッッ!!!」
三女はそして素早く右拳を放った。シンデレラはそれを鼻先で受け、あまりの威力に後ろへと一歩後退してしまう。
「どうした、シンデレラよ。今のは軽いジャブだぞ。この程度で後退するとは、やはり貴様は一族のトップに相応しくない!」
三女が腕を組み笑う。するとシンデレラは、親指で鼻を拭い、にやりと笑って三女を見据えた。
「すまぬな姉者よ。私ともあろうものが、ぬかっていた」
「なに……?」
「準備運動がてらと力を緩めていたのだ。私もまだまだ甘いようだ、我が家族にそのような加減が通じるわけもないということを失念していた――!」
そしてシンデレラは、更なる闘気を身に纏った。
「ここからは全力で行く。言っておくが、どうなろうと私は知らんぞ」
「ふん、面白い。それでこそ我が妹よ!」
三女はそしてシンデレラへ向け一歩、大きく踏み出した。
途端、シンデレラは三女の後ろへと回り込み、にやりと口角を釣りあげた。
「なに――!?」
「遅いぞ、姉者よ」
シンデレラは直後、三女の背中に向け勢いよく蹴りを放った。
見事な大腿四頭筋から繰り出されるそれは、三女の筋肉を突き抜けるには十分な威力であった。三女は内臓にまで突き刺さる一撃を受け、そのまま城壁を壊し彼方へと吹き飛ばされた。
「どうだ姉者よ、私の蹴りは」
と、吹き飛ばされた三女は再び城壁を壊しながら武闘会場へと戻ってきた。
空中にて筋肉を激しく収縮させることにより、その衝撃で空での移動を可能とする一家秘伝の技である。
「クックック、今のは効いた。それでこそ我が妹よ!」
シンデレラは三女の笑みを受けにやりと笑う。しかし、途端、
長女のとてつもない後ろ回し蹴りが、シンデレラの肉体へと突き刺さった。
「貴様の敵は三女だけではない、シンデレラよ。私たちを忘れてもらっては困るな」
「――姉者」
シンデレラは後ろを振り向き、こちらを見据え身構える3人を大きく一瞥した。
「フン、確かに、そうだな。面白い。いいだろう、まとめてかかってこい。全員地に押し付けてやろう」
「土の味を知るのは貴様の方だ、シンデレラよ!」
途端、一家は勢いよくシンデレラに向かい一斉に駆け出した。
長女が前蹴りを放つ、それをシンデレラは腹直筋にて受け止め、しかし怯むことなく長女へ迫りその顔面を殴りつけた。
長女が地面に沈む、しかし瞬間、次女がシンデレラへと迫り、勢いよく回転しながら蹴りを放った。
シンデレラはそれを左腕で受ける。そしてさながら時が止まったかのような余裕を見せ、左の足で彼女の喉元へと蹴りを突き刺した。
次女が吹き飛び、会場の柱が崩れ落ちる。途端に衝撃で天井が崩落し、会場の女たちが悲鳴をあげた。
しかし母君はそれを構うことなく、シンデレラの前に立ち、勢いよく拳を突き出した。
光速を超えた拳はシンデレラの肉体に突き刺さる。シンデレラはそれに圧され「がはっ」と唾を漏らしたが、しかし、母君はそれでは止まらなかった。
右の拳の次は左の拳を。左の拳の次には右の拳を。そうして母君は無数の拳を繰り出し、世界が弾け飛ぶまでのラッシュを幾重にも繰り出した。
シンデレラの肉体に拳が突き刺さる。シンデレラはその度に声を漏らし、血を吐き出し、唾を漏らした。しかし、シンデレラもその程度では止まらなかった。
シンデレラは母のラッシュに呼応するように、自らも光速で拳を突き出した。
拳と拳がぶつかり合う。そのたびに超新星爆発のような衝撃が辺りへ駆け巡り、崩落した天井はその衝撃だけで微粒子レベルにまで崩れていった。
「ハアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
「うおおおおおおおおッッッッッ!!!!」
母君とシンデレラの拳がなおぶつかり続ける。そして刹那、わずかにシンデレラの拳が競り勝った。
シンデレラの強烈な一撃が母君の顔面に突き刺さり、瞬間、母君が極々わずかに動きを止めた。
それは光がこの星を半周するほどの一瞬であった。しかし、シンデレラにはその一瞬で十分だった。
シンデレラはその瞬間、己の肉体にたくわえた闘気を右の拳に集中させ、渾身の一撃を母君へと放った。
「ハアアアアッ!!!!」
その一撃は途方もない衝撃を生み、時空を引き裂き、わずかばかりこの世界の時間を止めるほどだった。それを受けた母君は首をボキリと鳴らしながら吹き飛んでいき、そして玉座に座る王子にへと衝突した。
「フン……どうだ母よ。私の拳の味は……!」
シンデレラが笑う。しかし直後、母君は瓦礫の中から立ち上がり、首を大きく回しながらシンデレラを見据えた。
「――成長したではないか、シンデレラ。まだまだ赤子同然だと思っていたのに……」
「当然だ。皆から受けた筋肉へのいじめの数々は、私を高みへと導いてくれた」
「おやおや、嬉しいこと言ってくれるではないか。私は誠、親孝行な娘たちを持った。
だが、私から見れば貴様ら等まだまだ小童ぞよ。偉大な母の背中を超えてみな、シンデレラ!」
眼光を輝かせた母君はシンデレラへと向かって行く。同時、他の姉妹たちもシンデレラへと駆け出し、全員の筋肉がシンデレラを襲う。
しかしシンデレラは、それでもなお楽しそうに笑ってみせた。
「私はシンデレラ! 地上最強の名を欲さんとする女! この程度の試練、容易く乗り越え、太陽よりも輝かしい女の中の女になってみせよう!」
そして筋肉が衝突し合い、世界は爆発した。
◇ ◇ ◇ ◇
しばしの殴り合いの後。シンデレラの家族は皆、血だらけで地面に転がっていた。
シンデレラももはや満身創痍であった。しかし彼女は見事なまでの威光を放ち、その足で大地に立っていた。
「――どうやら、私の、勝ちのようだな……!」
シンデレラが笑う。と、途端、崩壊し切った城の中央で、王子がぱちぱちと拍手をしだした。
「どうやら、貴様が勝者のようだな」
「――お前がこの国の王子か」
「素晴らしい戦いぶりだったぞ、シンデレラよ。まさしく、王に相応しい筋肉であった。この俺も、図らずもお前の戦いに心が躍った。これほどまでの感情を持ったのは生まれて初めてだ」
「ふん……当然だ。我らは己を磨き上げるためだけに自らを鍛え上げているのだからな」
「流石というところか。どうやら、俺はお前のその生き様に惚れこんでしまったようだ。……シンデレラよ。此度の闘争、見事であった。お前には、王の証として、この『ガラスの靴を模したトロフィー』を進呈しよう」
王子が指を鳴らすと、途端、地面からガラスの靴を模したトロフィーが飛び出し、それがシンデレラの元へゆっくりと降り立っていった。
シンデレラはそれを手に取る。
さながらひとつの銀河系を圧縮したかのような重量感があった。シンデレラはそれを感じ取りにやりと笑った。
「ふむ。この威光、まさしく我が一族に相応しいほどの輝きだ」
「シンデレラよ。それを手にしたということは、お前はこれより王ということだ。俺は貴様の伴侶となり、共にこの国を運営するパートナーとなる。遺憾は無いな?」
「貴様が私に従属したいと言うのであれば、勝手にしろとしか言うまい。だが、これを手にするのであれば、少し時間が欲しい」
「なに……?」
するとシンデレラは、ガラスの靴を手に持ったまま後ろを振り向いた。
そこには、既に立ち上がった家族がいた。皆々全身を血だらけにし、満身創痍と言った様子であった。
「姉者、そして母よ。私はお前たちを倒し、名実ともに世界の頂点へと至った。
だが、この高みへと至ったのは、他ならぬお前たちのおかげだ。……私の筋肉をいじめぬいたこれまでの日々、誠に感謝致す」
姉妹と母君は、シンデレラの言葉を聞き愉快そうに笑った。
「どうだ? これからも私と共に過ごさないだろうか? くくく、頂点如きで満足するようなら、私はいずれお前たちに寝首をかかれるであろう。私が強くあるためには、お前たちが必要なのだ」
「フン、お前がどうしてもというのであれば、仕方あるまい」
「拙者も同意見也」
「私とて異論はない」
「ふん……娘には、いつであっても母親が必要というものであるな」
姉妹と母君は笑い、そしてシンデレラへと近寄った。
そうして5人は、互いの拳を軽く突き合い、永劫の家族愛を誓った。
「シンデレラよ。見事試練を乗り越え、王へと至ったその生き様、見事であった。私たちも切磋琢磨し、いつでもお前を超えられるよう努力を続ける」
「無論だ。私を超えられるものなら、いつであっても超えてみるがいい」
シンデレラは長女の言葉に楽しそうに笑った。
途端、崩落した城の周辺から、新たな王の誕生を祝う喝采の声が上がった。
「シンデレラ!」
「シンデレラ!」
「シンデレラ!」
舞踏大会を踊っていた女たちが、皆々拍手をしている。シンデレラはそれを受け、高々とガラスの靴を掲げた。
こうしてシンデレラは、王子とともにこの世界を担う偉大な王になった。
王子を伴侶にしているから恋愛小説です()
これから書こうかなぁって思っている異世界恋愛小説の前進的な立ち位置です(なお本編との関連は一切ない模様)。