合流を目指して
屋上のドアを猫パンチでぶち破り、館内に侵入する。
でたのは穏健派が拠点にしているネカフェと反対側。
ベティちゃんもいるし、今の姿で行くのは混乱を招きそうだ。
言葉が通じない人間のところにいるとは思えないし……今はどうしてるんだろう。
まずは最初に隠れ家にしていた衣料品店を目指すか。
方針をさっと決めて、吹き抜けからフロア内をざっと見回す。
「……内部は思ったより敵が少ないな」
数体の角の生えた異形が徘徊しているのが見える。
遠目だったから自信はないけど、地上に並んでいた異形たちと同じ存在かな。
一旦無視しようとすると、柱の陰から子供が飛び出すのが見えた。
角の生えた異形がそれに気付いて、獣人みたいな身体能力で子供に迫る。
「――」
肉球を重ね合わせてから左腕を真横に振るう。
飛び出した体勢のまま、角の生えた異形が吹き飛ばされてフロアを転がった。
近くにいる他の異形が周囲を警戒するように首を動かす。
行動パターンからみて、知能や能力は一般的な人間に準拠していると見ていいだろう。
もはや異次元との戦争だ。
子供が無事に建物の中に逃げ込むまで、角の生えた異形を足止めする。
倒すまで殴ると時間がかかるけど足止めにはとても有効だ。
見えない攻撃を食らっていると予測したのだろう。
異形の1体が腰を落として両手を交差させ、自分の周囲を青い光で覆った。
武技に似てる……防御系だろうか。
猫パンチを当てて見ると、当たり前のように殴り飛ばされてフロアを転がった。
……回避だけじゃなく防御も無視できるらしい。
あの子も逃げ切れただろうし、ベティちゃんに合図を出して拠点にしていた店に向かう。
ついでに階下の異形たちを一発殴っておいた。
「ポケットさえ回収できれば幻体を解除できるんだけど、こっちに残ってるのかな」
こっちの幻体を使っているせいかシラタマたちの気配を掴めない。
せめてみんなと一緒に居てくれればいいんだけど……。
外の連中はまるで攻め込む準備をしているかのようだった。
内部の様子からしても本格的な侵攻はまだのようだ。
「あちこちで戦闘中みたいだし」
入口から見て右手側、たしか別館がある場所から硬いものがぶつかりあう音が近づいてくる。
それと向かう先からは銃撃戦のような音が響いている。
銃器なんか日本にあるとは思えないんだけど、ロボットの落としたやつを誰か回収でもしたのか?
こっちはこっちで状況がまるでわからない。
「って」
気にしていたら、別館側の音が一気に近づいてきた。
遠目に見える連絡通路の向こうから何かが飛んできて、手すりにぶつかる。
何かは手すりを破壊しながら吹き抜けに飛び出し階下へと落ちていった。
……また変わった異形だ、腰に布を巻いていて、右手に折れた大剣を手にしていた。
心臓のあたりには太い石の杭が突き刺さっている。
左腕は前腕の半ばあたりで折れ曲がっていて、何かと戦っていたのだろう。
警戒している中、破壊された建築物の残骸が生み出す煙の中を突っ切って現れたのは見覚えがあるアライグマのぬいぐるみ。
……メイガスだ。
ローブも身体もあちこちボロボロで、体中にある切り傷からは綿がはみ出している。
メイガスは手すりまで来ると剣を持った異形が動かないのを確認し、まるで勝利を誇るかのように右腕の先端に持った光る杖を高く掲げた。
うん、とりあえずエインヘリヤルはネコの被害は受けなかったみたいだ。
「メイガス! スフィたちは!?」
声を掛けると、メイガスはばっと左手の本を開いて右手の杖をこちらに向けた。
それから数秒ほど待ってから首を傾げる。
……あ、そうか、ぼくの今の見た目は怪物みたいになってるんだ。
精霊たちが何も言わず当たり前のように察してくれるから気を抜いていた。
「ぼくだ、アリスだ。スフィたちはそっちにいるの?」
「…………!」
なんだか少し戸惑った様子を見せながらも杖を下ろし、身振りで何かを伝えようとしてくる。
……まったくわからないけど、杖で別館とは反対方向を指している。
状況から推測すると……。
「一緒にいなかった? ……別館でそいつに襲われてはぐれた?」
後者の方で頷いた。
「スフィたちは別館からこっちに来た」
「……!」
頷いた。
だとすると向かう方向は合っているようだ。
「スフィたちと合流したい、来て」
頷いたメイガスが通路の上を走ってくる。
何気なく視界の中に捉えていた剣をもった異形の右腕がピクりと動くのが見えた。
「ッ!」
「!?」
咄嗟にテレポートしてメイガスの頭上に出る。
落下しながら振り返ると、折れた剣がぼくの居たところに通路をしたから突き破るように飛び出ていた。
「!!?」
「あ、ごめん」
そして咄嗟のことだったので落下してメイガスを潰してしまった。
ただでさえボロボロだったのに、可哀想なことをした。
階下を見下ろせば、右腕だけで剣を投げた様子の異形が上半身を起こそうとしているところだった。
しかし胸に刺さった石の杭が崩れて消えると同時に青い血を吹き出し、再び倒れ込む。
その身体に突然飛んでいった数本の石の槍が突き刺さる。
メイガスがトドメを刺したようだ。
今度こそ沈黙した様子の異形だったけど……。
「タフ過ぎでしょ」
あの怪我は恐らくメイガスが使った魔術によるものだったんだろう。
しかしぼくの目から見ても致命傷だったはずだ。
杭が残って大量出血を免れていたから死ぬ直前に動いて攻撃してきたってか。
冗談じゃない。
「……あんなのが大量に居るとかないよな」
なんか落下する時に似たようなのちらほら見た記憶があるんだけど、勘弁してくれ。
とにかくスフィたちと合流を急がないと。
■
メイガスを伴って通路を左手奥側に向かって突き進む。
途中で下に降りて角の異形を相手にしたけど、問題にもならなかった。
本体はベティちゃんが守り、ぼくが猫パンチでサポート、メイガスがアタッカーという役割分担だ。
どうやら左手に持つ本がアーティファクトになっているようで、右手のタクトで空中に魔術文字で詠唱を書くことで岩の魔術を発動させているらしい。
詠唱できないから苦肉の策なんだろうけど、並の魔術師の詠唱よりは発動が速いし、空中に文字だけ書いておいて発動させずに保留するなんて芸当も出来るようだ。
生前は英傑と称されるレベルの魔術師だったのかもしれない。
問題はそんなメイガスが苦戦するような奴も混じってるってことだ。
破壊音が近づいてくる。
瓦礫に身を隠しながら、シェリフが壁に空いた大穴に向かってライフルみたいな形状の輪ゴム鉄砲を撃っている。
何発か撃ったあとシェリフがまた別の瓦礫に身を隠すと、先ほどまでの射撃ポイントに青い槍が飛んできて爆発し、青い炎を撒き散らした。
……ライフル弾とロケット弾の戦いみたいなことになってる。
「シェリフ! ぼくだ、アリス!」
「…………!」
メイガスの時の失敗を繰り返さないように先に名乗ると、シェリフは一瞬こちらを見たあと驚いたような仕草をした。
それからすぐに『こっちに来るな』とジェスチャーをする。
「メイガス、サポートに入れる?」
「…………」
一応聞いてみると、頷いたメイガスが穴の前に分厚い岩の壁を作り出す。
これなら防げるかと思ったけど……そう甘くはなかった。
槍が数発着弾すると壁が砕け、更に数発で完全に粉砕されてしまった。
先ほどより槍の量が増えているのは壁を壊すためなのか、それともシェリフが空中で撃墜していたから少なかったのか。
「出来れば撃退しておきたいけど……」
穴の向こうにいる狙撃手を倒す手段がないかと悩んでいると、シェリフたちが先に行けとジェスチャーをしてくる。
確かに、ここであまり役に立たないぼくが残って手をこまねくより、どこにいるかわからないスフィたちと合流する方が優先か。
「…………わかった、ありがとう。ここは任せる」
「…………」
頷くシェリフたちにお礼を言って、ベティちゃんの腕を掴む。
視線は穴の空いた通路の先フードコートらしき案内板がある場所の1階だ。
テレポートすると、背後でまた槍が着弾する音がした。
……ふたりとも遠距離型だし余計な心配か。
さて、すすんできたけどシェリフたちの状況からみてスフィたは隠れていないようだ。
ネコに分断されたあと、何か目的があって行動してるに違いない。
シェリフの反応からみてもこの先にいったことは間違いないとして……。
「……爪のある異形か、凍ってる」
フードコートにある爪の異形は上半身が凍りついていて、さらに首から上が砕けていた。
「シラタマ……」
誰がやったかなんて、考えるまでもない。
性格的に喧嘩を売られたから潰しただけの可能性もあるけど……。
もしかしてみんなを守ってくれたのかな。
そうだとしたら、凄く嬉しい。
たぶん、近いな。
「ベティちゃん、そこに隠れていて」
『ベティチャン!』
ベティちゃんに隠れていてもらい、ひとりで2階へ向かう。。
エスカレーターを登って最初に見えたのはゲームコーナー。
そして奥にある血溜まりと人間の下半身。
見た瞬間はかなりヒヤッとしたけど、大人の男のものだ。
「…………うへぇ」
近づいて様子を伺うと、どうも腰のあたりからざっくりと食いちぎられたようだ。
傷跡からして巨大な生物の牙にやられたように見える。
体温は抜けている、血は乾いてない、匂いも腐敗臭は混じっていない。
まだ時間は経ってない、スフィたちがやったとは考えにくいけど……関連はありそうだ。
そして、クレーンゲームの筐体の影で何かが動く気配がした。
隠れていたようで気付けなかった。
……我ながら結構動揺してるな。
陰から飛び出してきた人間が、鉄パイプで殴りかかってくる。
それを回避しながら、両手の平を合わせる。
やたら荒々しい雰囲気の赤髪の若い男だった。
『あ、猫? 犬か?』
『敵じゃない、武器を納めろ』
『喋りよった! モンスターが!』
男は狂気を顔に浮かべて鉄パイプを振りかぶる。
地球人にしては随分と速いけど、それ以上に速いやつを見すぎた。
カウンター気味に掌底を空振りして猫パンチを叩き込む。
『敵じゃない』
『ぐっ!?』
一撃を受けてふっとばされた男は、しかし通路を転がりながら両手をついてすぐに体勢を立て直す。
そして獣じみた動きで身体を遮蔽物に隠した。
なんでこいつ、こんなに戦い慣れてんのよ。
『なぁオイ、喋れんなら答えぇや! そいつやったんお前やろ!?』
『無駄な質問がすぎる、その問いで知りたい答えが返ってくると思うのか?』
『なんやバケモンのくせにインテリぶりよって! お前ってことでええなぁ!』
『いいわけない』
手のひらをあわせておいて、遮蔽物から飛び出してきたところで猫パンチを放つ。
横に飛んで回避しようとした男が通路を滑っていった。
『がっ……くっそ、痛くねぇが踏ん張れねぇ! なんじゃあその技ァ!』
『なるほど、痛覚的にはそれほどじゃないのか。やっぱり攻撃手段としてはいまいち頼れないな』
言語が通じる人間に打ったことで痛覚の程度はそれほどじゃないことがわかった。
便利だけどこれで敵を倒すためには一工夫ってそんなこと言ってる場合じゃない。
『おまえ、ここらへんで耳としっぽが生えた女の子を見なかったか?』
『そいつぁクズやが一応仲間じゃあ! 仇は取ったらんとなぁ!!』
『その娘たちは仲間なんだ、探してる』
『てめぇもぶち殺したらぁ!』
鉄パイプを投げながら、男は全力で走ってくる。
パイプを避けないわけにもいかず、仕方ないのでテレポートで一旦避難する。
すれ違うように手すりの上に立って振り返ると、ぼくを見失った男が必死に左右を見回していた。
『消えたぁ!?』
『もし女の子を見つけたら手を出さないでほしい、可能な限り人を殺したくない』
声をかけると、ハッとした様子でこちらを見る。
しかし手元に武器はないので慎重になったようだ。
『だらぁ! わしゃあ女もガキも殴らん主義じゃあ!』
『ぼくも分類的には女で子供』
『じゃあ殴れんじゃろうが!!』
『そもそもそこの死体はぼくが来た時にはこうなってた』
『なんじゃあ!? じゃあ誤解じゃねえか! ぶち殺すぞ!!』
『誤解が解けたなら教えて欲しい、耳としっぽの生えた女の子見なかった?』
『見とらん! わしゃあバケモン狩りで忙しい!!』
『そう、ありがとう』
無事に誤解が解けたところで、とりあえず彼が待ち伏せしているタイミングではスフィたちがここに居なかったことがわかった。
『あっちにある映画館っておまえたちの拠点?』
『そうじゃ、トップ含めてカスどもしかおらん、ダチ見つけたらさっさと去りぃ!』
『なんでそんなグループに入ってんの?』
『他んとこはバケモノから逃げるばかりで話にならん! わしゃとにかくバケモンを殺したい!! つええやつを殺したい!!』
『そう……』
なんか2020年代の日本社会で生きづらそうな人だな。
今回の事件で変な風にはっちゃけちゃったんだろうか。
『じゃ、ぼくは行く』
『おお!』
『あ、ピンク色の毛が生えたこう、四角っぽいフォルムの怪物はぼくのトモダチだから手を出すなよ!』
『強かったら殺す!』
『そんなに強くはない』
『んじゃええわ、そんじゃあなあ!』
会話を終えると、男は鉄パイプを拾い上げて別の方向へ行ってしまった。
流石にシェリフたちの戦いに乱入するつもりはないようだ。
……ベティちゃんに隠れていてもらって正解だったか。
2020年代の日本社会でやたら生きづらそうな男との邂逅を経て、この先にある映画館を目指す。
恐らく過激派の根城であろうその場所を。
お察しの方も居ると思いますが実は結構無理をして更新してきました。
流石に誤字脱字なんかも含めてクオリティが看過出来ない状態になってきてる気がします。
状況に余裕ができるまで文量をあげて週1~週2程度に更新ペース落とさせていただきます。
楽しみにしてくださっている方には申し訳ありませんが、作品の更新継続のためにご理解をお願いします。




