├閉じられた空1
「■■■■?」
「悪いにゃ! あたしら探し物があるにゃ! 予備のポーション置いていくから、怪我人出たら使うにゃ。それから外にヤバイ奴がいるにゃ、窓の外は見るにゃよ」
「■■■■■」
メンタルを切り替えて少し休んだあと、ノーチェが立ち上がった。
自分たちが必要になるだろう分を除いて2本、ポーションを盾持ちの男に預ける。
頭を下げる盾持ちの男に手を振り、ノーチェたちはその場を去ろうとした。
それを見たスガヌマが慌てた様子で声をかける。
「■■■■!」
「あたしらちょっと急ぐにゃ!」
「■■■■■! ペット! ショップ! マルイ! ミル!」
「にゃ?」
スガヌマはどうやら止めようとした訳ではなく、向こうの端にあるペットショップで何かを見たことを伝えようとしているようだった。
身振り手振りで伝えようとするスガヌマの様子に首をかしげながら、ノーチェはスフィと顔を見合わせる。
「ウーン?」
「あっちにある、ペットのお店に何かあったのかな?」
「■■■■、ミタ! マルイ! ■■ ソウ! ソウ!」
「■■■■■■、モドッタ、オンナノコ……科学、本?」
「■■ー、■■……ア、情報!」
「ンー、とにかく行ってみるにゃ、あんがとにゃ!」
どうやらスガヌマは『先程のやり取りの後で戻ってきた女性のひとりが、ペットショップで何かを見た』ということを伝えたいようだった。
身振り手振りを駆使した会話でそれを汲み取り、ノーチェたちは次の目的地に向かう。
「みんな、次はペットショップにゃ」
「動物さんのお店を探せばいいのかな? あのお兄さん、1階の方を指さしてたけど」
「とりあえず行くにゃ、敵の数も減ってきてるし……シェリフ! 次は1階だから援護頼むにゃ!」
歩きながら方針を決めたあと、ノーチェを先頭にエスカレーターを駆け下りる。
現在1階にいる角の異形はあらかたシェリフが片付けたのか、死体はあれど動くものはいない。
周囲を警戒しながら向かうのは更に西側。
いくら巨大商業施設とはいえ、子供の足でも端から端まで歩くのに30分もかからない。
先へ進むと角の異形があったりもしたが、それでも数分ほどで目的のテナントを見つけることが出来た。
道中にあった動物の写真が看板になっているスペース、ペットショップと言っても生体販売ではなく、ペット用品を中心とした雑貨屋のようだった。
「あ、あった!」
スフィが内部を覗き込んで叫ぶ。
雑貨棚の向こうに虹色の泡が見えた。
泡の中には風鈴を抱える、クジラの骨格を内部に持つスライムのような姿の精霊。
「ワラビちゃん!」
「待つにゃ、すぐに出してやるにゃ」
声をかけながら近づいて、スフィが剣で泡を軽く叩く。
泡がぱちんと割れると、凍ったように制止していたワラビが動き始めた。
チリリンと風鈴を鳴らしながら戸惑ったで周囲を見回す。
「シャー」
――チリン
フカヒレがワラビに近づいていくと、2体は顔を見合わせて首を傾げた。
それからワラビは何かを探す素振りを見せた。
「アリスは猫さんにつれていかれちゃって、どこにいるかわからないの。カンテラも見つけたんだけど消えちゃって、アリスのとこへいってるといいんだけど……」
――……チリリン
ワラビは妙に寂しげな音を響かせると、俯きがちに身体を傾けた。
するとフカヒレが傍にぴったり寄り添い、2体はしばらく空中でゆらゆらと動く。
「まぁ、きっと大丈夫にゃ。あいつは身体は弱いけど、わけもわからないままどうにかされるヤツじゃにゃい。今はあたしらに力を貸して欲しいにゃ、こっちの状況もやばいにゃ」
アリスも心配ではあるが、そればかり気にしていると自分たちが死ぬ。
特に空から現れようとしている巨大な犬の頭部、あれが降りてきたら終わりだ。
出てくるまでに時間がかかるとしても、危険性を考えると気休めにしかならない。
「あの猫はおまえらを閉じ込めた泡を、わざわざ見えるようにしてここに送り込んだにゃ。たぶん、全部見付けて見せろってことだと思うにゃ」
ノーチェは三毛猫が自分たちを試していると考えていた。
「状況を変えられる方法があるとしたら、たぶんそれだけにゃ。どうやったってこの状況はあたしらだけの力じゃどうしようもにゃいし」
「……で、でも、大丈夫なのかな?」
そんなノーチェの考えに疑問を投げかけたのはフィリアだった。
シャオの頭部を抱きしめながら、不安そうに瞳を揺らす。
「殺すつもりはなさそうだったからにゃ」
「で、でも……もしも怒っているなら、怖がらせるの眺めてから……っていうのも」
「…………くぅん」
フィリアのネガティブな言葉を、精霊を多少知っているが故にスフィとシャオは否定出来なかった。
アリスがこの場にいたとしても、悩んだ末に口を閉じるだろう。
精霊が人間を嫌っていることが多いのも事実なら、人間をいたぶることで溜飲を下げる精霊がいるのも事実だ。
現に見た目だけは愛らしいシラタマがその片鱗を度々見せている。
「ウーン……まぁ、考える気持ちはわかるにゃ」
そんなことはノーチェもわかっている。
三毛猫や精霊が好意を向けているのはアリスだけだ。
アリスだけ安全地点に隔離して、自分たちをいたぶっている……それも十分ありうる。
この泡探しゲームもハリボテの希望に縋る自分たちを嘲笑っているのかもしれない。
「実際、全部の精霊たちを取り戻したところで、残念でした~ってやられる可能性もあるんじゃにゃいか?」
「……だったら、でも」
「でも! でもね、今は泡を追いかけるしかないよ……」
「そうじゃな……」
スフィとシャオの言葉はどこか諦めに近い。
どちらも愛子、精霊と心を通わせる事ができる。
心を通わせられるから、余計に不安があるのかもしれない。
「……ま、そういうことにゃ。そろそろ行くにゃ、やつらがまた動きはじめる前に、せめてもうひとつかふたつは見つけるにゃ」
「うん……わかった」
話を切り上げると、ノーチェは警戒しながらテナントの外に出る。
遠距離からシェリフが狙撃で援護してくれているのを確認してから、向かうのは更に西側だ。
まとわりついてくる漠然とした不安を振り切るように、ノーチェは力強く足を踏み出した。




