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おおかみひめものがたり【WEB版】  作者: とりまる ひよこ。
納骨堂に産声ひとつ

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街への帰還

 思えば遠くにきたものだ。

 地球にある異常存在(アンノウン)蒐集機関『パンドラ』の収容施設で過ごしていたぼくは、気づけば異世界で幼い獣人の女の子になっていた。

 何があったのかはわからないけど、多分騒動の中で死んだのだろう。

 地球では何だかんだと危険と隣り合わせの日々だった。

 体質的に異常存在に襲われることはなかったけれど、そのぶん人間には命を含めて狙われていたから。


 そんなこんなで異世界転生ってやつを果たしたぼくは、今生での双子の姉と故郷を目指す旅をはじめることになった。

 養い親の病死をきっかけに村を出て、最初にたどり着いたのは外壁のある町。

 そこで薄毛獣人(レス・ライカン)で黒猫人のノーチェ、チェリーブロンドの髪の白兎人のフィリアと出会い、一緒に危機を乗り越えて友達になった。

 ぼくにとっては初めての人間の友達だ。

 それから子どもだけのパーティを組んで、色んな人の助けを借りながら大陸をわたった。

 巨大なゼルギア大陸の中央南部にある小国『ラウド王国』から、大陸北東部にある『アルヴェリア聖王国』への旅路。


 その道中では、前世の収容施設で一緒だったシマエナガみたいな見た目の雪の精霊、『シラタマ』と再会した。

 以前からシラタマはぼくと友達になろうとしていたのに、パンドラ機関にいた頃のぼくはちゃんと向き合うことが出来なかった。

 人間の世界に憧れてずっとそちらばかり見ていたから、眼の前の大事なものに気付けなかったのだ。

 友達ができてはじめて向き合えるようになったのは、皮肉というかなんというか。

 シラタマはそんなぼくを許してくれて、今度こそちゃんと友達になることが出来た。


 最初は心配だったけれど、こっちでは精霊の存在が当たり前だからノーチェたちもすんなりシラタマを受け入れてくれた。

 シラタマの方も少しずつ打ち解けていって、一緒に歩めることがわかった。

 この辺りから、前世で取りこぼしたものをもう一度拾いたいと思うようになった。


 旅の途中、大陸南部西側の玄関港であるパナディアで薄毛獣人で金狐のシャオと出会い、船で大陸東側に渡って、それから飛空船でアルヴェリアにたどり着いた。

 到着した首都の『聖都アヴァロン』でもまぁ色々あって、その騒動の末に両親との再会を果たしたのがつい先日。


 母親が当代聖王の妹で、未来視の魔王の襲撃で滅びた獣王国(ビーストキングダム)の銀狼王の孫娘『セレステラ』。

 父親がアルヴェリアの国教である星竜教会の主神にして星を司る神獣、神星竜『オウルノヴァ』。

 そんなふたりの子供の失踪には相当な事情があったようで、ぼくたちの自力での帰還を両親は随分と喜んでくれた。


 紆余曲折はあったし、まだまだぎこちないけれど、今は親子になるために頑張っている最中だ。

 そうして最初の旅の目的が終わり、物語ならハッピーエンドなんだろうけど……人生はまだ続く。

 続くんだけどなぁ。



「…………」

「アリス、最近ずっとぼーっとしてるけど、大丈夫?」

「うん」


 実家の城で過ごしているうちに2月が目前に迫っていた。

 部屋の窓から外を眺めては、ぼくは静かに息を吐く。


 "命に替えてもお姉ちゃん(スフィ)を安心して暮らせる場所に送り届けたい"

 幼いアリスの願いであり、前世の記憶(ぼく)が呼び起こされた最大の理由だ。

 今まではそれが強い原動力になっていたものの、達成してしまえば燃え尽きた気分になるのも仕方ない。


 せっかく異世界転生なんて珍しい事象を経験したのだから、ファンタジーな異世界でやりたいこともあるにはある。

 だけど……旅が一段落した今、なんとも張り合いがなくなってしまった。


「アリスは街に行く準備、もうできてるの?」

「ピックした荷物をブラウたちがまとめてくれてる」


 部屋の片隅に積み上がったトランクを指差すと、スフィが納得したようにうなづいた。


 学院の再開は2月15日予定のため、ぼくたちは早めに外周7区にある家へ戻ることを決めた。

 これには母さまはもちろんのこと、侍女さんたちも残念そうにしていた。

 とはいえ街での生活も大事なので仕方ない。


「これでお城暮らしもおしまいかぁ、さみしくなるにゃ」

「ラオフェンを思い出していたのじゃが……ちょっと名残惜しいのじゃ」


 現在はみんなと部屋で合流して帰還の下準備中。

 呑気なことを言い始めたのはノーチェとシャオに、侍女たちが微笑ましい視線を向けている。

 こっちは帰宅を巡って侍女と軽く火花を散らしているというのに……。


「……スフィはね、メイドさんが何人か来てくれてもいいとおもうんだけど」

「そもそも物理的に家に滞在できるスペースないし。ここで侍女をやってる時点で大半が良家の子女だし」


 フォローしようと迂闊なことを口にするスフィに即反論する。

 ぼくたちが主に接している侍女さんたちは星竜の巫女にして星竜妃の側仕えである。

 言うまでもなく、ほぼ全員が家柄から能力まですべてエリート。

 身分として貴族ではなくとも、星降の谷(スターフォール)に住む部族の長の家系とかそんなんばっかりだ。


「伯爵家の庶子に侯爵家のご令嬢とかがメイドとして仕えるのはおかしいでしょ」


 誤魔化せる限度ってものがある。

 ヴィータが護衛として仕えている時点で若干裏を疑われている節があるというのに。


「アリスって、貴族さんにきょうみないのにそういうのは詳しいよね」

「…………」


 そんなツッコミを入れていたらスフィがちょっと引いた様子で言ってきた。

 男の子にとって貴族や軍の階級知識は興味を惹かれるものなんだよ。


「ていうかなんで侯爵家が出てきたにゃ?」

「側仕えを同行させるべき派の筆頭が侯爵家の人なの」


 母さまの側仕えのひとりである侯爵家の三女って御人である。

 現在3人いる副侍女長のひとり、つまり侍女の人事権を持つ上級女官だ。

 名前は『エルネシア』、母さまと年齢が近い普人の女性で、赤ん坊の頃のぼくたちの世話を担当していた人らしい。

 そのせいか下手すると母さまよりも過保護である。


「隙を見せると近所の家をまるごと寮にして侍女部隊を送り込んできかねない」

「それはちょっと困りそうにゃ……。でもなんで今回はそんな話になってるにゃ? 前は普通にふたりで戻ってきたのに」

「人員の都合がございましたもので……」


 ノーチェの疑問に答えたのは苦笑しながら聞いていた侍女のひとりだ。

 前回の一時帰宅は全体的に急だったため、国側も人員の都合がつかず同行者をつけるのは諦めたらしい。

 下手な人間をつけるわけにはいかないからね。


 しかし今回は下調べをして準備する時間があった。

 武力的な護衛は父さまがつけてくれた幻霧竜(ミストドラゴン)のミストさんがいるからか、必要以上はいらないだろうと思われている。

 そのぶん世話役をつけるべきという論調が強まっていた。


「未だ側仕えの選定も出来ておりませんし、実際に巫女を街に送ることは難しいと思われますので……実行されることはないかと」

「ならいいんだけど」


 自然と会話に参加してきた侍女はメリファ、薄毛の星羊族(アリエス)という星降の谷(スターフォール)に住む希少種の女性だ。

 ようやく侍女の顔と名前が一致してきた。

 基本的に全員が母さまの侍女だから交代が多くて覚えるのが大変なのだ。


「エルネシア様もただ姫様を心配しているだけでございます、どうか御寛恕を」

「べつに怒ってないよ」


 恐る恐る言ってくるメリファに答える。

 怒っている訳じゃないし、流石にあっちもそこはわかっていると思う。

 それでもぼくの機嫌ひとつが彼女らの罪になりかねないのだろう。


 ……この力の不均衡があるから『天星宮の居心地がいい』って言い切れないんだよね。

 脱力してソファに沈み込む横で、フィリアが飲んでいたお茶のカップをテーブルに置くのが見えた。


「スフィ様たちの側仕えの方って、まだお決まりになっていないのですか?」

「いい加減な選抜をする訳にも参りません。事情を知る者で口の固い人間となるとすぐには難しいです」

「そんなに時間をかけて大丈夫なんですか……?」

「姫様はお立場を伏しておりますから、城で身の回りのお世話をさせて頂くだけでしたら我々だけでも問題はありません。ただ、お立場を明らかにされてしまうと貴族への応対が増えますので、専任の側仕えが必要になってしまいますが」

「しばらく発表は伏せたいっていう意見は母さまたちとも一致してるし、のんびりでいいよ……」


 フィリアと侍女の会話に割って入り、話題を終了させる。

 母さまたちは過去の経験から裏切りを警戒していて、半端な人間を近づけたがらない。


 そして半端な人をつけられると煩わしいのはぼくもスフィにとっても同じだ。

 最終的に受け入れるにせよ、側仕えや専属侍女は慎重に選んで貰いたいと思う。


「スフィもゆっくりでいいかな、みんなとケンカとかになったらヤだもん」

「というか、下手に年の近い子に来られるとさ、逆にやりづらいんだよね」

「ねー」


 隣りに座るスフィと一緒に意見を口にする。

 ここもややこしい部分で、ぼくたちと年齢が近い子に使用人をさせるまずいことになりかねない。

 何しろ既に"同年代の親密な友人"がいるのだ。

 側仕えに選ばれる側もノーチェたちもやりづらいだろう。

 それに、どっちに気を使っても反対側に角が立つ。

 街のパーティハウスの中でまで政治バランスを考えたくない。


「まぁ実質的な"お世話"についてはなんとか目処はつきそうだから、心配しないで」


 なんとも言えない表情の侍女たちをなだめるように言って、ぼくは視線を自分の荷物の方へと向けた。

 荷物の背後にはお仕着せを着たぬいぐるみがずらりと並んでいるのが見える。

 彼らは寝室に用意されていたぬいぐるみたちであった。


「まさか冬の間に動けるようになるとは思わなかったけど」

「なんかもう不思議な感じもしなくなってきたにゃ」

「うんうん」

「精霊がこんなに身近で人の手伝いをするなんて、本来であればあり得ないことなのですが……」


 城に滞在している間にブラウニーによる教導が終わったようで、寝室のぬいぐるみたちが自律して動くようになっていた。

 とはいえまだまだ動きはぎこちなくて精度の低いロボット程度。

 そのうちスムーズに動けるようになるだろうけど、成長が早くて怖い。


「ふむん、スフィの方のぬいぐるみは動かないのじゃ?」

「それがぜんぜんなの、残念」


 スフィが羨ましそうに動くぬいぐるみたちを見ている。

 このぬいぐるみの亜精霊化現象は、場所がどうこうよりも『ぼくの所有物になった』というのが大きく影響しているようだった。


「なんか、ぼくの所有物になったことでブラウニーの影響下に入ったみたい」

「それですぐに亜精霊化したのじゃな」


 ぼくの補足を受けてシャオが満足そうに呟く。


 精霊は特定事象に対する認識の具象化であり概念的な存在だ。

 一方で亜精霊というのは主に生物や無機物なんかの物体に"精霊の力"が宿ることで生まれる物理的な存在。

 簡単に言ってしまえば精霊の力を持った物品や生物のことを指す。

 今回のぬいぐるみたちが自律行動するようになったのも、玩具の精霊であるブラウニーの影響だろう。


「スフィのぬいぐるみさんたちも、そのうち動くのかな?」

「むずかしいんじゃないかな」


 並んでいる子たちを見てスフィが羨ましそうに言うものの、可能性は低いと思う。


「亜精霊化するときは他の玩具と同じで玩具の街に行くことになると思う」

「そっかー」


 この国では玩具の精霊のおとぎ話が定着している。

 大切にされた玩具は主の手元を離れたあと、玩具の精霊神ミカロルの元へ行ってこっそりと子どもたちを見守るという話だ。

 ぼくのものと同じ数だけスフィのぬいぐるみも用意されていた。

 スフィのぬいぐるみが亜精霊化するときは玩具の街にいく時だろう。


「そんなことより、また家に精霊が増えるんだにゃ」


 ノーチェの言葉にぼくはそっと目を逸らした。

 たしかに住んでいる人間よりも精霊の数のほうが多い。


 街での生活が長引けば来客も増えてくるだろうし、今後を考えると家の拡張が必要かもしれないなぁ。

 そんなこんなと準備をしているうちに、あっさりと帰還予定日がやってきた。



 帰還の日、ぼくたちは以前と同じように城のバルコニーに集まった。

 この時期の朝方は雪がちらついている、高さもあって本来はめちゃくちゃ寒いらしい。

 だけど父さまが何かしているようでぼくたちは寒さを感じない。


「スフィ、まだ寒いですからね、体には気をつけるのですよ」

「はーい」

「アリスはもっとです。冬の間は暖かくして、食べ物にも……」

「わかってる……」


 いつにも増して心配そうな母さまにため息を噛み殺しながら答える。

 大きなトランク3つ分も用意された荷物の中には毛糸のパンツや靴下が沢山入っているようだ。

 今回は十分な準備期間があったためか荷物の追加に容赦がない。


「これってあたしらが持つにゃ?」

「あ、当たり前だよ、スフィちゃんとアリスちゃんに持たせる訳にいかないでしょ!」

「おぬしらも大変じゃなぁ」

「ひとつはシャオの担当にゃ」

「のじゃ!?」


 荷物を前にノーチェたちが小さな声で話しているのが聞こえた。

 あとで不思議ポケットに収納するにしても、侍女たちの前では出来ない。

 信用していない訳じゃないけど、あまり手札は明かしたくないのだ。

 一旦はノーチェたちに運んでもらうしかないので、次のデザートは多めにしておこう。


 因みにぬいぐるみたちは別の竜に分乗しているが、まだ動きがぎこちないので荷物を持っての移動は任せられない。


「スフィ、アリス」


 不意に父さまが口を開くと、一気に周囲が静まった。

 黙っていると気配が静かだから気にならないけど、喋るだけで一気に場を支配するような存在感が溢れ出す。


「いつでも気兼ねなく帰るといい、ここはお前たちの家だ。身体には気をつけよ」

「うん、おとーさん、おかーさん、いってきます!」

「……父さま、母さま、いってきます」

「うむ」

「ふたりとも、好きな時に帰ってきて良いのですからね」

「近い内にまた顔出す、から」


 名残惜しそうな母さまを宥めながら、荷物を積んだ銀竜に乗り込んで城を飛び立つ。

 さて……冬のアヴァロンはどうなっているやら。



 空を駆け、水晶に囲まれた小屋から玩具の精霊領域に入った。

 星竜の支配する領域に重なるようにして、玩具の精霊領域が広がっている。


 出入り口になっている小屋を出ると、あいも変わらず広大な荒野が目に入る。

 外は真冬だって言うのにここは真夏のような暑さだ。


 小屋の近くには、車を格納する納屋がある。

 ぼくたちはそこに置かれた車に分乗し、のんびりと荒野を走りだした。

 ブラウニーの運転するぼくたちの車とぬいぐるみたちが運転する車の2台だ。

 ……動きがぎこちないせいもあってか、ぬいぐるみの車はかなり遅い。


「…………」

「ブラウ、いいの?」


 このままだと道中で野宿だなと思っていたら、ブラウニーが先行を提案してきた。

 ここで一旦分かれてぼくたちだけ先に帰宅しようってことだ。

 牽引してもいいけど結局速度は落ちるし、牽引するための装備を調べながらぼくが作らないといけない。


 ……確かに手間だなぁ。

 道は一直線ではぐれる心配もないし、ぬいぐるみたちも同意してくれてるみたいだし、大丈夫か。


「じゃあ、先に家に戻って新しい祭壇作って待ってるから」

「…………」


 ぎこちなく頷くぬいぐるみたちと分かれ、ぼくたちは先へ進むことになった。

 

 荒野は玩具の街の外周にあって、普通に足漕ぎ車を飛ばしても数時間かかる。

 その間は日差しと気温との戦いだ。

 オープンカーの屋根を出して日除けにしているけど、それでも暑い。

 荒野に入ったあたりでみんな薄着に着替えはしたけど、ついに上着まで脱ぎだした。


「相変わらずここはあっっっついにゃ」

「ねぇねぇ、あっちの山の向こうに煙が見えるよー」

「砂煙じゃにゃいの?」

「ぬおお、だめじゃ、コートが脱げないのじゃ! しぬぅ!」

「シャオちゃん! 前紐固く結び過ぎだってば!」


 なお、外が寒かったからとコートの前部分をキッチリしめていたシャオだけが未だに服を脱げていない。

 荒野の暑さに苦しむシャオを助けようとフィリアが悪戦苦闘している。

 みんなこの状況を想定してすぐ脱げるようにしていたのに……。


「やっぱりキツネはダメだぽん、たぬきの方がかわいいぽん」

「おぬしはおおかみじゃろうが!」

「シャオちゃんほどけないから暴れないで!」


 仕方ないから錬成で紐を一旦外して付け直すという荒業で暑さから解放してあげた。

 感謝してほしい。


 それから何度か休憩を挟み、お昼すぎにはおもちゃの街にたどり着いた。

 外壁にある地下通路を抜けて街に入ると、少し見ない間にテーマパークっぽさが強くなっていた。

 子どもに好かれそうなデザインに近づく街を横目に、アヴァロン市街地へ繋がる場所を目指す。


「あれ、ラフィさんに会わなくていいの?」

「今回は通り過ぎるだけだから、手紙は預けたし」

「そっか」


 あっちも忙しいはずだ。

 通行許可は前に得ているし、直接挨拶に行くのは片付けが終わってからでもいいだろう。

 街を歩く玩具に挨拶の手紙を預けたし大丈夫だろう。


 何事もなく礼拝所からアヴァロン外周7区(アウターセブン)へと出た。

 トランクをポケットから取り出してフィリアたちに持ってもらい、人のまばらな道を抜けて家に向かう。


 なんだか警邏の制服を着た普人(ヒューマン)が目立つ。

 一組、二組ならまだしも数回となるとちょっと多いな。


「警邏の巡回が多くにゃいか?」

「うん」

「何かあったのかなぁ」

「家の周りが心配」

「大丈夫じゃにゃいか、その……強い人いっぱいだしにゃ」


 ぼくの感想をノーチェがフォローしたことで、意図がちゃんと伝わっていないことがわかった。


「家の周りが要塞化してないかが心配」

「おおう……」

「それより重いのじゃ……」


 通りをいくつか抜けて、北部にある住宅地に入る。

 途端に遠くから伺うような気配がぼくたちに集中してきた。

 事前にトランクを出しておいてよかったな。


「……?」

「フィリア、どうしたのじゃ?」

「あ、ううん。なんか一瞬ぞわっとして……寒いからかな」


 どうやらぼく以外ではフィリアだけ察知したようだ。

 伝えようかどうしようか悩んでいるうちに伺う気配が消える。


「前とそんなに変わってなさそうだにゃ」

「…………」


 この住宅区画は買い物レベルでは困らないけど、外周7区で暮らすとなると主要な商業地にはちょっと距離がある。

 なので周囲にはそこそこ空き家が多かった。

 そう、空き家が目立っていたはずだ。


「要塞化してなくてよかったにゃ」

「アリスはちょっと大げさなのじゃ」

「ソウダネ」


 空き家だったはずの家は、今は庭先が整えられて家屋も補修されている。

 窓が開けられて換気されていたり、積もっていた木の葉が片付けられていたり。

 明らかに人が住んでいる気配がしている。

 このあたりの家、急に人気にでもなったのかなぁ。


 そんな現実逃避をしているうちに、見慣れた我が家に辿り着いた。

 雪の精霊たちが塀にずらりと並んで出迎えてくれていた。


「みんなただいま」

「ただいまぁー!」

「ただいまにゃ、やっぱうちが落ち着くにゃ……」


 玄関を開けたノーチェに続いて家に入る。

 帰ってきたばかりだけど、やることが沢山ある。

 家の中のチェック、配達物の確認、404アパートの扉の設置、それから……。


「うぅー、寒いのじゃ!」

「暖炉に火を入れないと、薪あるかな」

「荷物はリビングに置いといて。薪は残ってると思う、問題は湿気っていないかどうか」

「か、確認してくるね……」

「おねがい」


 備蓄の確認はフィリアにまかせ、手伝ってもらい荷物をポケットから取り出す。

 それが終わると、ぼくは重要な作業をするため階段下の納戸へ向かう。


「ブラウー、ちょっと手伝って」


 しっぽ同盟ハウスの玄関から入ってすぐの右手側、階段下はブラウニーの待機室にもなっている。

 ブラウニーに手伝ってもらいながら納戸の中に小さな祭壇を作り、マイクを模したクマの像を置く。

 城にいる時に作っておいたものだ。


「これでいい?」

「…………」


 すぐ隣にいるブラウニーに問いかけると、ぼくを見ながらゆっくりと頷いた。

 祭壇の場所をここにすることはブラウニーと相談して決めてあった。

 本当にささやかな祭壇だけど、思いが込められているならそれでいいらしい。


 ブラウニーが祭壇脇に置いてある箱をずらすと、床下に恐ろしげな黒い穴が出来あがっていた。

 思っていたより随分あっさりと入口が出来た。

 あっちで分かれたぬいぐるみたちとも明日には合流できるだろう。


「…………」

「あとは扉だね」


 入口を確認したブラウニーが箱の位置を戻し、ぼくのお腹につけたポケットを示す。

 ポケットの中に手を入れて扉を引っ張りだすと、受け取ったブラウニーが壁際に設置してくれた。

 ここでやることは一旦終わりかな。


「…………」

「じゃあぼくは他のところ見てくる、あとはお願い」


 掃除道具を手にしたブラウニーに後を任せてリビングに戻る。

 フィリアは確認を終えていたのか、既に暖炉に火を入れてくれていた。

 みんなも部屋に自分の荷物を戻し終わったようで、既に集まって暖炉を囲んでいる。


「ただいま」

「終わったにゃ?」

「うん」

「じゃあスフィたちの荷物もかたづけないとね」


 暖炉に手のひらを向けているスフィの隣に座る。

 シラタマは暖炉の火を嫌がって台所の方へ飛んでいった。


「なんかね、さむくて狭いけど、落ち着くね」

「こういう感じで育ったからね」

「別に狭くないにゃ、おまえらの実家が広すぎただけにゃ」


 ノーチェの真っ当なツッコミを受けながら、床に座り込んで暖炉で身体を暖める。


「アリスは何していたのじゃ?」

「階段下にマイクの祭壇作ってた、これでいつでもおもちゃの街にいける」

「祭壇ってそんな簡単に作れるにゃ?」

「ぼくも意外だったけど、たぶんラフィ・ロールが事前に開通準備をしてくれていたんだと思う。あとは場所と作る人間も重要みたい」


 出入り口が揃ってこその"道"だ。

 こんな簡単に繋がるのなら、事前にラフィ・ロールが何かしてくれていたって考える方がしっくりくる。

 それから階段下はブラウニーの支配する領域みたいなものだし、他に必要な条件が既に整っていたのかもしれない。


「なにはともあれ、これで気軽にあっちに戻れるようになった」

「あの"車"を使って何時間もかかるけどにゃ……」

「そこは仕方ない……ふぁぁ」

「眠くなってきちゃった?」

「気持ちはわかるのじゃ」


 部屋の片隅に陣取ったワラビがいい感じに空気の流れを作ってくれている。

 外を歩いて冷えた身体が温まって心地良い。


 朝に城を出てからもそこそこ長い帰路だったし、疲労のせいか眠くなってきた。

 留守にしてる間に溜まった郵便物の確認はあとでいいか。


「確認はあとにして、ちょっと寝たい」

「そだねー、スフィもお昼寝したい」


 城での暮らしは快適で至れり尽くせりだったけど、どうにも超高級ホテルに泊まったかのような感覚がある。

 旅行疲れってやつかもしれない。


 こぼれ出たぼくの本音に、同じく疲れた様子のスフィが同意した。

 ……スフィが疲れているのはぼくのせいだろう。

 前世の記憶のせいで母さまとの距離がうまく掴めないぼくが、スフィを板挟みにしてしまっていた。

 おかげでだいぶマシな関係にはなってきたけど、スフィの精神的な負担が大きかったことは考えるまでもない。


「城のゲストルームもいいけど、あたしはやっぱ"自分の家"が一番落ち着くにゃ」

「うん……」


 それからカーペットの上で肩を寄せ合い微睡んでいると、不意に玄関をノックする音が聞こえた。

 顔を上げて周囲を見ると、起きたのはぼくとノーチェ、フィリアだけのようだ。

 立ち上がろうとするふたりを制してぼくが玄関に向かう。


 扉を開けると、そこにいたのは軽い雰囲気の夜梟騎士団所属の騎士『カイン』。

 市街地で暮らす時の護衛役のひとりである。


「お戻りになったと聞いたんで連絡に来ました。タイミング悪かったですかね?」

「少しね」


 ぼくが出たことに一瞬頬を引きつらせつつ、寝起きの雰囲気を見て色々と察したようだ。


「御留守の間に雪の精霊様から預かれと渡された荷物がかなりあったんで、早めのほうがいいかと思ったんですが」

「……あー、じゃあ後で持ってきて」

「じゃあ時間をあけてまた来ます、大丈夫だと思いますが戸締まりだけはしっかりしてくださいよ」

「うん」


 必要事項を手短に伝えてカインは戻っていった。

 少し首を傾げながら玄関の扉を閉じる。


 ……お留守番の雪の精霊たちは荷物を騎士に預からせることにしたらしい。

 良い判断だ。

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― 新着の感想 ―
久しぶりだな、カ(↑)イン(↓)♪
側仕えも大変だね、怒らせたら仕える主によってはチェンジ!の一言で悲しい事に、 特に世界で一番偉い親子の一人でも怒らせたら一族郎党の命が危ない! 本来ならカインの軽そうな会話も関係者の誰かに聞かれたら…
家の大家さんが変わってそう。というか国有地になってる可能性が一番高い?
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