また明日
翌日の昼過ぎ、ぼくたちはピクニックをすることになった。
目的地は城外に出て少し進んだ場所にある丘陵だ。
今の時期は寒いからそうでもないけど、春になると花の咲く綺麗な丘になるようだ。
因みに天星宮は島の端の方にある。
そんなこんなで集合時間を迎えたぼくたちは城門前に集まっていた。
「なんだこれ」
「近くにピクニックにいくんだよにゃ……?」
「その予定だったはずなのに」
普段着姿のノーチェといっしょに立ち並ぶ全身鎧の騎士たちを眺める。
今回は星堂騎士20人と相棒の銀竜20頭、武官侍女6人、侍従12人という少人数でピクニックに行くらしい。
ぼくの中にある"少数で動く"という言葉の定義が乱れつつある。
「武器持ってる侍女さんもいるにゃ」
「武官侍従っていって、一定以上の戦闘力や護衛能力がある侍従らしいよ……」
他の国では珍しいけど、アルヴェリアでは護衛役もこなす侍女というのがひとつの職業として成り立っている。
戦うメイドとか戦う執事という役割が普通に存在しているのだ。
礼儀作法に加えて高い戦闘技術も求められるため、絶対数が少ないのもあって非常に高給取りだそうな。
上級貴族や王族のお嬢様の側仕えとして需要があるらしい。
「哨戒は我々が行いますので、ご安心ください」
「姫様とご友人の方々はこちらへどうぞ」
そういって侍女が案内したのは竜が引くために作られた竜車である。
引き手は馬車引きを任されたフリーの銀竜4頭だ。
因みにこの竜たちも護衛として父さまに言い含められているようだ。
星堂騎士団の人員は上級騎士である銀竜騎士と、下級騎士である飛竜騎士、それから一般の随伴歩兵で構成されている。
騎士は貴族用の階級なので、平民枠だと騎士の部分が騎手になる。
厳しい訓練を経て資格を得て竜の試練に挑み、認められて竜騎士になる。
アルヴェリア男子の憧れであり、単騎で1個小隊に匹敵すると言われる精鋭である。
それが20騎と少し。
小さめの都市国家くらいなら余裕で落とせそうな戦力を引き連れて、ぼくたちは城を出発した。
改めて言うが、目的地は城から出て徒歩30分程度の距離にあるなだらかな丘である。
■
「街にいる騎士さんたちって竜を連れてないよにゃ?」
「職務でもない限りは別行動でしょ」
銀竜は亜竜の中でもトップクラスに高い知性や社交性を持っているらしい。
人間相手に絶対に気を許すことはなく、彼等にとっての神であるオウルノヴァの命令だけは聞く。
星堂騎士団に協力しているのはオウルノヴァの命令による部分が大きいそうだ。
それでも相棒として認めてもらうためには竜の試練を乗り越えなければならないなど、プライドの高さを伺わせる。
「竜騎士って言うから誤解してる人もいるけど、主従関係じゃなくてパートナーシップ。騎獣と主じゃなくて"同じ神に仕える同僚"なんだよ。飛竜の方は魔獣を連れた騎士のイメージに近いみたいだけど」
「ほへー」
一方で飛竜の方はより動物に近い思考で生きている。
気難しくて認めた相手以外には好意を見せないけど、頑張れば主従関係を結ぶことは出来る。
教会側には銀竜がいて、聖王国所属の騎士団にはいない理由がこのあたりだろう。
銀竜よりも飛竜の方が国や組織としては扱いやすいのだ。
「竜騎士がこの数揃うと壮観にゃ、さすがは竜の姫って感じにゃ」
「ぼくは銀竜とは相性が悪いけどね」
少しからかうようなノーチェに言うと、竜車の横に随伴していた銀竜が窓越しにこっちを見た。
なにその「えっ」みたいな反応。
「なんでにゃ?」
「呼んでも来ないし」
「アリス、声ちっちゃいんだよ。ドラゴンさんには聞き取りづらいんじゃない?」
スフィのツッコミに窓の外の銀竜が首を縦に振り始める。なんだてめぇ。
そんな銀竜を無言で睨みつけるというパワハラをしているうちに竜車が止まった。
「到着!」
「到着にございます」
「はやっ!」
ノーチェのリアクションのとおり到着まで30分少々。
侍女の助けを借りながら竜車から降りて振り返ると、目と鼻の先にいくつかの邸宅が見える。
住宅街から出てすぐの場所らしい。
「護衛、必要にゃ……?」
「万が一があってはなりませんので」
きょとんとするノーチェを軽く睨みながら武器を持つ侍女が答えた。
それはそうなんだけど、厳重過ぎるという気持ちが勝ってしまう。
到着してすぐに侍女たちが敷布やテーブルを用意してピクニックの準備をはじめて、ぼくたちはやることがなくなった。
「することないにゃ」
「走ろっか?」
「その格好でにゃ?」
スフィとぼくは温かいエプロンドレスとケープ。
動きやすい普段着のノーチェたちとは違い、動き回るのには適してない。
因みに走り回ることについては「元気でよし!」といった感じの反応だ。
お姫様とはいえ獣人、普人とは基準が違う。
「これでも走れるもん」
「じゃあ競争にゃ!」
「今朝のうちに安全確保はしてあるそうですが、離れすぎないようにしてくださいませ」
「はーい!」
侍女からの忠告を受けて走り出したふたりの姿があっという間に小さくなる。
こんな見晴らしの良い浮島の上で危険も何もなさそうだ。
「元気じゃなぁ」
「シャオたちは走らないの?」
「あのふたりについていけるわけないのじゃ」
「私もお洋服汚したくないし……」
フィリアがおしゃれめなワンピースの裾を掴んで言った。
ぼくたち用に用意されていた子供服の中からサイズが合うものを貰ったらしい。
最近ますます発育のいいフィリア並に大きくなるのは数年後だろうし、その頃にはカスタムメイドで作ることになるだろう。
追いかけっこをするふたりを眺めている間に準備は着々と進み、外でのお茶会がはじまった。
「全部やってもらうのはなんか落ち着かないな」
「あはは……」
前世でも常に世話はされていたがどっちかというと珍獣扱いだった。
最低限のことは自分でやる必要があったし、歯磨きから爪切りまで人にやってもらう環境は落ち着かない。
たまになら美容施術的なものと割り切れていいんだけどさ。
「そろそろ研究がしたくなってきた」
「錬金術師らしいこと言ってるのじゃ」
「いつも研究やってたから欲求そんなにないのかなと思ってたけど、やっていないとやりたくなるんだよね。自分にもそういう欲があるんだなって新鮮な気持ち」
街では魔道具の小型化案とか武器の草案とか、空いた時間に色々考えては書き留めたりしていた。
こっちだと人目が気になってなかなか研究が出来ていない。
父さまに工房をねだるのもひとつの手だけど、それはそれで問題があるんだよなぁ。
「お父様にお城の中に工房とかお願いしたりしないの?」
「工房を複数持つと、資料とか素材が分散しちゃうからさ」
現時点でも404アパートの部屋と街の家の工房で分散が発生している。
これ以上工房を増やしても今の規模だと扱いきれない。
「全部城に持ってくるなら別だけど、今はメイン拠点は街の方にしときたい」
「まぁ学院のこともあるからのう」
「あとはせっかくだし、谷でしか出来ないことをやりたい。城下街の見学とか」
「それは面白そうなのじゃ!」
「許可降りるのかな……?」
城での暮らしはどうしてもトラウマを刺激するので、払拭するためにも少しばかり活動的に動きたいな。
わがままだと思うけど、子供だから許してもらおう。
「父さまに頼んでみる」
窮屈な城で同じような日が続くのを憂いるのではなく。
城に居ても次の日が来るのが楽しみに思えるように。
笑って「それじゃあ、また明日」って言えるように。
ぼくは城での冬休みを満喫する努力をしよう。




