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何も起きない日

 新年帰省2日目。

 お風呂上がりにすぐ寝付いたぼくが起きたのは昼過ぎだった。

 スフィはとっくに起きているようで見当たらない。

 もがきながらベッドから這い出る。

 ブラウニーの手を借りて寝室の扉を開けると、ふたりの侍女が頭を下げてきた。


「……おはよう」

「おはようございます」


 ブラウニーが侍女たちに手を振りながら、ぼくを引っ張ってリビングの中央へ向かう。

 数秒ほど困惑していた侍女たちだったが何かに気付いたようで、部屋の棚にある道具箱からブラシやら何やらを取り出した。

 もうひとりはクローゼットに入っていった。


「失礼致します」


 ぼうっとしている間にブラウニーと侍女たちに囲まれて身繕いが進んでいく。

 歯を磨かれ、髪の毛を整えられて顔や首元、耳の内側まで温かいおしぼりで拭かれた。

 動きやすいワンピースに着替えさせられ、ケープを羽織らされ、足には温かい靴下が装着される。

 眠くて反応が出来ないうちに朝の支度が終わってしまった。

 戻ってさほど時間が経っていないのにブラウニーとの連携が良くなってきている。


「…………」

「お食事は如何(いかが)なされますか?」

「もうお昼すぎだよね、いいや。みんなは?」

「スフィ様とご友人の皆様は城内を見て回っておられます」


 スフィたちは揃って城内探検に出かけたようだ。

 昨日は緊張でそれどころじゃなかったけれど、山場を越えて余裕がでたのだろう。

 少しぼんやりしていると、侍女のひとりが意を決したように口を開いた。


「……すぐに厨房に伝えますので、軽食だけでもいかがでしょうか」

「じゃあ何かつまめるものを」

「かしこまりました」


 片方の侍女が部屋を出るのを見送ったあと、ぼくはソファに座った。

 今いるふたりの侍女は獣人だ、レトリバーみたいな垂れ耳の薄毛犬人に細く長い耳の薄毛兎人。

 母さまあたりが気遣って獣人を多く配置してくれているんだろうけど、入れ替わりが多くて顔が把握できていない。

 一体どれだけ侍女がいるのやら。


「探検ってことは中庭か庭園かな……城外にはでれないだろうし」

「皆さまは中庭を見ているようです。オウルノヴァ様から第一島内であれば城外に出る許可もでておりますよ」


 残った犬人侍女が独り言に気付いて返事をくれる。

 城外に出る許可が降りていることにちょっと驚いた。


「第一島ってここのこと?」

「はい、天星宮のあるこの島でございますね。城外には客人用の迎賓館、大浴場、使用人の町がございます。島の周囲には複数の島が浮遊していまして、そこには島に住むことを許された者たちの居住地等がございます」

「なるほど」


 大きな浮遊島を中心に周囲に複数の小さな島が浮かんでいる構造になっている。

 空から見た感じでは、第一島も端から端まで直線で6キロメートル以上ありそうな巨大な島だ。

 全部合わせればかなりの人間が住んでいそうだ。


「調子がよくなったらぼくも参加しようかな」

「でしたら暖かい格好を御用意しますね」


 侍女と話をしながらうつらうつらしていると、カートに軽食を乗せた侍女が戻ってきた。

 テーブルの上に並べられた料理は湯気立つかぼちゃのポタージュとブルスケッタだった。

 ビスケットみたいにカリっと焼き上げた正方形のパンの上にはサーモンクリームや塩漬け豚バラ(パンチェッタ)などが乗せられている。

 ひとつひとつは小さいが種類は多めだ。

 というか食べ物かどうか一瞬で判断できない見た目のものも混じっている。

 色味の違うオレンジが交互に重なる小さな網籠や、白と赤のキューブって。


「見たこと無いのがあるけど、これって?」

「こちらはカボチャとサーモンを細切りにして編んで籠を作り、クリームソースを包んで蒸し上げたもの。こちらのキューブは角切りにしたチーズとトマトを組み上げたもので、北海の塩と黒胡椒、オリーブの油で味付けされています」

「……オイシソウダネ」


 味はとても良かったけど手が込み過ぎである。



 料理から溢れ出る気合に反して量は少なかったため、持ってきてくれた料理を全て食べることが出来た。


「厨房の者も喜ぶでしょう」


 なぜだか嬉しそうにカートを返却しに行く侍女を見送りながら、ブラウニーが用意してくれた薬と栄養剤を飲む。

 最近は頑張って食事もした成果で体調も改善してきたから栄養剤の量は3分の1である。


「口直しのお茶をお入れしますね」

「お願い。ブラウはクッキー取ってきてくれる? 薬草入りのやつ」

「…………」


 事情は伝えてあるため、侍女は薬類を飲むのを見届けてお茶を入れてくれた。

 ブラウニーに頼んだのは消化を助ける薬草入りのクッキーで、最近は食後に少量かじっている。


「少し休んだら中庭見に行こうかな?」

「スフィ様がお出かけになられたのはお昼を食べてすぐでしたから、そろそろ戻っておいでになるのではないかと」

「……そっか」


 リビングにある、落ち着いているが高級感のある柱時計を見て侍女が言う。

 もう15時か……我ながらたっぷり寝たな。


「こんな日もいいかぁ」


 クッキーをかじりながらお茶を飲み、ソファに横になる。

 今から合流してもすることないし、このままのんびりするか。


 外遊びになると一緒に遊ぶのも厳しいし、日本からゲーム機とか輸入できたらいいんだけどなぁ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] スフィは前の時はアリスとお庭行くくらいだったので ノーチェ達がいるとより楽しそうで良いです
[良い点] だいぶお互いに慣れてきたところ [一言] 軽食とは一体…ウゴゴゴ…
[一言] 何も起きない日 …ほんとにござるかぁ? でもいままでがありすぎたし、こういう落ち着く日はいいと思います ……ほんとにござる?
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