アーティファクト
「あ、星煌石ってなんにゃ? 気になってたにゃ」
「うーん」
髪の毛を洗ってもらい、これでもかと丁寧に染料を落とされてひと息ついたところでノーチェが聞いてきた。
そういえばまだちゃんと説明していなかった。
「いわゆるミスティックジュエル」
「ミスティックジュエルにゃ?」
「この世界の物体はこうなってほしい、こういうのだったらいいなっていう幻想がたくさん集まると別の物質に変化する。原理は不明だけど、まぁ物体の亜精霊化みたいなもの」
例えば銀は魔を払う聖なる金属という幻想を集めてミスリル銀に成る。
黄金は不滅の象徴という幻想を集めてオリハルコンに成る。
そんな風に、生物の幻想を集めやすい貴金属や宝石は精霊の力を宿すことがあるのだ。
しかしこれらはどちらかといえば人工的に発生させる変化である。
「それ以外では精霊領域で生成された宝石や鉱石はその領域の影響を受けた変化を起こすっていわれてる。精霊領域で産出する素材は精霊の力を宿してるみたいだから。星煌石は星降の谷でダイヤモンドが変化したもの」
宝石加工技術が発展している影響もあるだろうけど、どこかの時代の誰かがうまくやったようでゼルギア大陸でもダイヤモンドは高い価値が認められている。
また宝石は全体的に染まりやすいという特性があるようで変化を起こしやすい。
仮説的なものは知っていたけど、ラフィ・ロールからの情報もあって何となく理解が進んだ気がする。
「ええと、にゃ」
「簡単に言えば星竜の力を宿す宝石。精霊自身がくれる身体の一部に次ぐような素材。アーティファクトに近いものが作れる」
「チュルル」
魔道具でも武具でも何でも使えて、作り手次第ではアーティファクトに比肩するようなものも作れるだろう。
ぼくの手には余る。扱いきれない。
因みに素材の等級としては精霊の一部が最上級である。
あれは言ってしまえば概念の一部、世界の欠片みたいなものだから。
そもそも力尽くで切り取ったところで精霊が許可していないと消滅するし、手に入れる手段がないんだけども。
「アーティファクトってあれだよにゃ、凄い武器」
「武器……に限らないけど、まぁうん」
「大昔のアイテムなんだよね」
主に神代以前に作られた現代では再現不可能な工芸品。
明らかに人工のものから由来不明の自然物まで、全部ひっくるめて『アーティファクト』と呼ぶのが一般的になっている。
「作れるにゃ?」
「近いものなら」
大半のアーティファクトは現在では製法自体が喪失しているから作れないだけで、過去に人の手によって製造されていたと思わしき痕跡も見つかっている。
ぼくの持つビームライフルもアーティファクトに分類されるけど明らかな量産品だし。
神代以前では神や精霊が身近だったから、その力を借り受けて強大な力を持つ魔道具を作っていたとする説が濃厚だ。
星煌石はそんな古代の超遺物に近しい性能の道具を作れるアイテム、その中でも最上位に位置づけされる素材のひとつである。
「まぁぼくには加工は無理だけど」
「チピッ」
「えぇー、無理にゃ?」
「さすがに勿体ないよ、貰えたら加工できるちゃんとした職人を探そう」
加工は出来るけど武器防具、道具として完成させるのは難しいのだ。
最上質の鋼鉄を自由に変形させられるからといって、それで名剣が作れる訳じゃない。
「ちょっと残念にゃ、アリスなら何か作れるのかと思ったにゃ」
「チュピピ」
「流石に数ミリサイズの石で小さめの屋敷が買えるようなものを加工する自信はないよ」
市場で取引されるのは昔に下賜されたもので、1カラットあたり金貨数百枚の値段がついたりする。
宝飾品と言うより素材としての価値が高いから実物が出回ること自体が稀なんだけど。
「チュリリリ」
「どのくらいの大きさの石を貰えるかわからないけど、物によっては城が買えるくらいの値段がつくだろうし……。まぁ錬金術師ギルドに伝手を辿って頼んでみる。見つからなければ父さまに頼んでみてもいいし」
「…………」
父さま、あれで祭りの際に色んな技術者に珠玉の逸品を作らせて奉納させて、一番腕の良いものの願いを聞くみたいな催しもやっている。
何を作るにせよ一生物になるのだから作り手は慎重に選びたい。
こういう渡し方をするなら、父さまからしても気軽に渡せるようなものじゃないくらい希少な可能性も高いし。
「チュリリリ」
「そんでシラタマ、いつまで羽を見せびらかしてるの、お湯に落ちるよ?」
先程から綿雪のような羽毛を咥えて肩から視界に入ろうとしていたシラタマを掴む。
確かに凄く希少な素材だけど、本体が常に近くに居るんじゃあんまり意味がない。
「傍にいてくれるだけで助かってるからいいんだよ」
「チュピピピリリリ」
手の中から抜け出したシラタマが頭の上に着地した。
なんか後頭部の上の方でごそごそしている。
「なにしてるの……」
「チュルルル」
満足したように座る気配がしたけど、なんか頭がひんやりする。
髪の毛の中に羽を仕込んだりしてないよな……。
「ヂュリリリ!」
「……いたっ」
自分の髪の毛に触れようとすると軽く突っつかれた。
反射的に口に出したけど、痛いと言ってもびくっとなる程度だ。
「頭の上つめたいんだけど」
「チュルルル」
しばらく攻防した末に突破口が見つからなくて諦めた。
「動いたら疲れてきた、そろそろ出たい」
「ただちに準備致します」
見守っていたリーダー格の侍女に声をかけながらお湯から出ると、軽く手を叩いて準備室から人を呼びつけた。
大きなタオルとバスローブを持って出てきた侍女たちが、あっという間に取り囲んで髪や身体を拭き上げる。
シラタマは上空に飛んで避難したようだ。
「みんなはどうする?」
「スフィもでるー」
「あ、私も」
「わしものぼせてきたのじゃ」
念の為に確認すると、みんなもここでお風呂から出るようにしたようだ。
スフィから順番にお湯をでてタオルで拭かれていく。
そんな中、ノーチェだけはお湯の中で外を向いたままぼんやりしていた。
「ノーチェは?」
「ノーチェー? どうしたのー?」
ぼくとスフィで声をかけてみるものの、反応がない。
お湯から出たスフィと顔を見合わせていると、タオルの順番待ちをしていたシャオがノーチェに近付いていく。
「どうしたのじゃ? おーい……あ!」
近くで声をかけたり顔の前で手を振っていたシャオが困惑したようにこちらを振り返った。
何事かと耳を向けて澄ませると微かにつぶやくノーチェの声も聞こえてきた。
「城を買えるお宝城を買えるお宝城を買えるお宝…………」
「な、なんかノーチェが変なのじゃ!」
「あぁ……うん」
途中から反応がないと思ったら、降って湧いた巨額のアイテムにフリーズを起こしていたらしい。




