セレブレーション
食事会が終わると、父さまと母さまは驚くほどすんなりとそれぞれの部屋に戻っていく。
もっと名残惜しまれると思ったのに意外だった。
「なんか、すごいあっさりだった」
「うん、スフィもびっくり」
「オウルノヴァ様、セレステラ様ともにまずは姫様に城に慣れて頂きたいと考えておられるのです」
侍女が「干渉は控えるように」というお触れがあったことを教えてくれた。
当人たちも面会は控えるつもりのようでかなり気を使ってもらってることがわかった。
家に来たばかりの子犬が自分でケージからでてくるのを待つ感覚なのだろう。
「それはそれで申し訳ない気持ちになるけども」
「まぁまぁ」
スフィになだめられながら部屋に戻る。
双子の片割れが落ち着いて距離を近づけてくれているから、ぼくが変に焦ったり気に病んだりしなくて済むのが救いだ。
「ご友人の皆様には客室を用意してございます、勝手ながら大きなお荷物も運ばせて頂きました」
「あ、ありがとうです、にゃ」
部屋に戻るなり侍女がノーチェに告げているのが聞こえた。
流石にお姫様の部屋に泊める訳にはいかないか、これは仕方がない。
荷物もまぁ完全ノーチェックというのも無理な話なので文句は言わない。
見られたらまずそうな物は全部ぼくのポケットにぶちこんでるし、そもそもぼくの所有物だ。
「緊張したぁ……」
「シャルラート! どういうことなのじゃ!」
流石にいきなり直接面談はきつかったのかノーチェとフィリアには疲労が見える。
一方でシャオはそれどころではないようで、早速シャルラートを問いただしていた。
取り敢えずは揉め事やトラブルが起きずに会食が済んだことに安堵の息を漏らす。
「えへへ、ノーチェ、ありがとね」
「にゃ? あー……別にいいにゃ」
何よりも、ノーチェがああまで言ってくれたことが嬉しかった。
構いに行くスフィを侍女たちの前で素気無く追い払おうとしているあたり、照れて余裕がないのだろう。
やってる本人達は気付いていないが、侍女たちはその様子を微笑ましげに見守っている。
よかったよかった。
■
メシの次は風呂である。
「ひっっっっっっっっっろっ!」
「うおお、なんという絶景なのじゃ」
「アクアルーンのプールみたいだよねぇ」
やってきた星空を見渡せる巨大な露天風呂を前にノーチェたちは愕然としていた。
スフィの言うアクアルーンのプールみたいは大げさだけど、個人用と考えると余裕で泳げるサイズは巨大すぎる。
「ここって他の人たちも使うにゃ?」
「こちらの浴室は星竜様とそのご家族、そのお客様用でございますよ。使用人や一般来訪者用の大浴場は城外にございます」
豪華すぎて相変わらず現実感がない。
「ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」
そう言って侍女たちが壁際に下がり、一部の侍女は浴室内にある待機室へ向かう。
お風呂場の中に使用人が待機しておくための場所もあるようだ。
「貴族の家ってこんな感じにゃのか?」
「流石にここまでのお風呂がある家はそうそうないよ」
「全く無いわけじゃないのが怖い」
「確かに特別大きいと言う訳ではございませんね、オウルノヴァ様もセレステラ様も華美なものより優美なものをお好みになられますので。この湯殿もセレステラ様のためにお作りになられたものなんですよ」
「へぇー」
確かに城の内装とかが随分人間が使いやすくなってるなと思ってたけど、母さま用にチューニングしたのか。
「おま、アリスかスフィが家をねだったらお屋敷くらいぽんっと出てきそうにゃ」
「そうかなぁ?」
「ぼくはもはや本棚おねだりしたら図書館が建ちそうで怖い」
定住先は街の方にしてるから施設のおねだりをする予定はないけど、気をつけないと「パパ、工房ほしいの」「城を建てたから使いなさい」みたいなコントが繰り広げられそうだ。
「さすがにそれはないんじゃにゃい? ……ですにゃ?」
「…………ええ、まぁ」
「曖昧な反応!」
庶民のぼくたちと貴族や族長クラスのお嬢様ばかりな侍女たちで意識が違いすぎる。
「常識が違いすぎる、実家に帰らせていただきます」
「ここにゃ」
「そうだった」
畜生という気持ちを込めながらパシャンと湯を叩く。手が痛い。
そんなボケとツッコミをやっていると侍女達のリーダーが堪えきれない様子で笑いを漏らした。
「失礼しました。オウルノヴァ様は姫様のご希望を聞いたうえで応じて下さいますでしょう、意にそぐわないものが贈られる心配はございませんよ」
言われてみれば良かれと思ってで何かを無理矢理押しつけてくるイメージはない。
多少試されたり勝手に護衛をつけられたりはしたけど、あっちの気持ちを考えるならむしろあまりに緩すぎるくらいの対応だ。
「…………そっか、よかった」
「しっかりするにゃ、城が建つ可能性は否定されてにゃいぞ」
「!?」
ほんとだ。
「シャオちゃんは落ち着いてるね」
「ラオフェンは水の都なのじゃ、賓客をもてなす城の大浴場は名物であったのじゃ。さすがに景色では勝てぬがのう」
「へぇー」
ぼくとノーチェがわちゃわちゃしている横では、シャオが無い胸を張っていた。
こっちも緊張が解けてなんとか調子が戻ってきたみたいだ。
このまま自分の家、友達の家くらいの認識になれたらいいなと思いながら浴室から星の瞬く夜空を見やる。
遠くで一条の光となった銀竜たちが、花火のようなブレスを放っている幻想的な風景を見ることができた。
???「ラオフェンにだって大浴場はありましたよ……一般の浴場とは比較にならないほどの巨大な浴場がね……」




