相談
1月1日。
ゼルギア大陸でも新年にあたる日を迎えた朝。
ぼくはノーチェの部屋に扉を設置し直して、朝からシャワーを浴びていた。
「さっむぅ……」
外の日本も新年ムードで、窓から正月の飾りつけが見える。
エアコンで部屋が温まるのを待つ間、ブラウニーが入れてくれたお茶をゆっくりと啜った。
後夜祭は祭りの後片付けをして家族とのんびり過ごす時間だそうだ。
アルヴェリアにおいて冬季というのは寒いだけで作物は普通に取れるし、オウルノヴァの加護で被害を被るレベルの豪雪に見舞われることもない。
特別な冬支度は必要ないというのはある意味ではチートである。
「もどるか」
ノーチェとスフィが起きる前に戻ろう。
お茶を飲み干して、ブラウニーを伴って404アパートを出る。
……当然バレていて"ずるい"と怒られた。
■
「それじゃあアリスちゃんは1度御実家に戻るのね」
「そのつもりだよ」
早朝。昨日の残りを朝食にしながら、ぼくたちは今後について話し合っていた。
「あたしもいきたいナァ……」
「お貴族様の家なんて無理でしょう」
ぼくたちは実家の貴族の家から1度顔を出すように言われているとエルナたちに伝えた。
約束通りちゃんと戻らないとあとが怖い。
「また少ししたら戻ってくるけど……」
「だとしたら早めに部屋を引き上げて外周1区に戻ろうかしら」
「えぇー!」
不満そうなリオーネをエルナがなだめる。
わざわざ外周7区に滞在する理由がないのだろう、気持ちはわかる。
「家族との時間を邪魔しちゃダメでしょう?」
「むぅ……でも、来年もまた会えるかわからないし……」
「お父様にお願いしてみましょう、留学って形なら賛成してくれるかもしれないし」
説得されているのを横目に、ぼくたちも今後について話し合わなければいけない。
「フィリアはどうするの?」
「ふぇ?」
「シャオは残るとして、フィリアはお兄さんとの合流どうするのかなって」
結局フィリアに連絡が来ていたかどうかは把握できていない。
確実に聖都には来ていると思うけど、単純に忙しいんだろうか。
「わ、私は……」
「ちょっと待つのじゃ! なぜわしを置いていく前提なのじゃ!?」
「お祭り終わったからラオフェンの人たちも帰郷するんでしょ、そっちとのやり取りどうするの? 気軽に行って戻ってってわけにはいかないよ」
「うぐぐぐ」
昼間はマイクの礼拝堂に行く必要があるし、夜に開く玩具の街への入口も自由に使えるとは行かない。
次の外出許可がそう簡単に出るとは思えないし、冬休みの間はまるごと城に滞在する覚悟が必要になるだろう。
「一緒に帰るにせよ、迎えが来るのを待つにせよ、留学するにせよ、残って話さないといけないんじゃないの?」
「た、たしかにそうじゃが……」
学院の冬季休校が明けるまで一緒に居ても問題ないノーチェとは違い、ふたりには話さなければいけない家族がいる。
きちんと話をする前に連絡が取れない星降の谷へ連れて行くわけには行かない。
「というわけでお留守番よろしくね」
「イヤなのじゃ! 捨てないでほしいのじゃ!」
腰にしがみついてくるシャオを引き剥がそうとして失敗した。
くそ、力じゃ敵わない。
「シャルラート! 引き剥がして!」
「ふはははシャルラートはこっちの味方なの……え? しゃ、シャルラート? なんでわしを引き剥がそうとするのじゃ!? やめるのじゃ! あああああ!」
シャオの冬服の襟首を口先でつまんだシャルラートが見るからに優しくシャオを引き剥がす。
その隙に浮かび上がって距離を取ったぼくは、壁を伝いながら部屋に戻って帰り支度をはじめた。
「フィリアもどうするか決まったらおしえてね」
「は、はーい!」
■
「わざわざ呼びつけて悪かったね、父さまたちとの約束通り谷に戻ろうと思うんだけど」
獅子人姉妹が再会を約束して宿に戻った後、ぼくは近所で控えている護衛たちを呼び出した。
近衛組は南側を担当していてギルダスとヴィータが続投。フォレス先生たちが抜けて、その分の人員は冬の間に調整されるらしい。
夜梟組は東側を担当していていてジルオとカインが続投。ジルオを隊長にして新しいチームを作り、既に配備を終えて警備にあたってくれている。
問題だった教会組は家の西側を担当している。人員は若い星堂騎士を中心にした6人1チームで意外にも少数だ。
オーダー通りに表向きは目立たず、冒険者パーティを装って家の周辺を守ってくれていた。
「そうですな、もう数日すれば城も人の目が少なくなると思いますが……」
「うーん……」
「来る時に使われたという極秘ルートは使用されないのですか?」
ギルダスの提案への返答に悩んでいるとジルオが訪ねてきた。
おおよその情報共有はされているようで話が早い。
「そのつもりだけど、道のある場所が家からちょっと距離があるんだよね」
家の中に道を作れるのは夜だけ。
しかもブラウニーに改めて確認したらその子供も特定の条件を満たしている必要があって、うちのパーティで該当してるのはぼくとシャオだけらしい。
昼間ならマイクの礼拝堂に行かないといけないんだけど、比較的通りに近い位置にあることが多くて家からは距離がある。
「友達との話もあるから、いつまでに戻ればいいか確認しておきたくて」
今回の目的は情報共有だ。
いつ家を出ていつ頃に谷に到着予定という情報がないと護衛たちも困る。
「予定ではセレステラ様がご帰還なされるのは1月の3日と予定されていたはずですが……」
「こちらもその予定を伺っております。3日前後を目安にされると良いのではないかと」
「じゃあその予定で進めようかな」
ギルダスの言葉を聞いた若い星堂騎士が同意を示す。
フェイクの可能性もあるけど、それも含めて3日までに戻れば何も言われないだろうという話だ。
「その通路の場所というのはどちらにあるのでしょうか?」
続いて若い星堂騎士が探るように聞いてくる。
……少し気になる情報があるんだよね。
「お祭りを巡ってる時にちらっと聞いたんだけど、最近の騒動を受けて教会騎士団が警邏へ協力を申し出たんだってね」
「は、はい。姫聖下が滞在される街の治安は我々にとっても優先事項でございます」
「教会騎士の一部も新しい詰所を設置して、より周囲の安全を確保できるようにするって。街の人たちも褒めてたよ、教会騎士団はすごいね」
「ハッ! 身に余るお言葉にございます!」
ぼくが褒めると、若い騎士は跪いたまま嬉しそうに応えて背を伸ばす。
「手始めに外周7区にいくつか詰所を増設するんだってね……この住宅地を囲むみたいに。近くの人もこれなら安心だって嬉しそうにしてたよ」
「ハッ!」
騎士の眼球が一瞬ピクりと動いた。
そうだ。こいつら約束で周囲に配置出来ないからって街そのものに騎士を増員する方法を取ってきやがったのだ。
父さまの一言があるとはいえ随分あっさりと引き下がって、その上人員を搾ってきたなとは思っていたよ。
「教会騎士が街の安全を守ってくれるとぼくたちも安心できるから、よろしくね」
「ハッ、伝えさせて頂きます!」
眼の前の若い騎士の心音がわずかに大きくなった。
近衛や夜梟と違って教会騎士団が治安維持に協力しても違和感はそこまでない。
まったく油断も隙もない。
「街そのものが安全なら、街歩きも気にしなくていいでしょ」
「…………ハッ」
星竜教会は精霊崇拝の多神教に近い形式を取っている。
そのため土着神のような扱いを受けるマイクの礼拝堂は教会が管理する施設でもある。
場所は使っていればバレるだろうけど、勝手に要塞化されても困るので釘を差しておかないといけなかった。
「取り敢えず3日に帰還する方向で進めるとして……」
苦笑するギルダスとジルオに向かって話を続ける。
家の都合で残ることになるかもしれないメンバーがいることや、留守の間の家の様子見などをお願いして話し合いを終えた。




