祭りの日々は過ぎていく
少し落ち着いたあと、ぼくたちは好奇心に駆られて離れていくパレードを追いかけた。
馬車から見えるのは民衆に向かって手を振る王族たち。
その中に居るセレステラ母さまが、優雅な動きで視線をあちこちに巡らせている。
他の人たちと比べると視線の往復速度が違う。
その何かを探しているような仕草を見てエルナが首を傾げた。
「……セレステラ様、何かをお探しになられているのかしら?」
「チガウンジャナイカナ」
首がつかれたからストレッチしてるんだよ多分。
そうに違いない。
屋根の上からなので護衛以外には察知されることはなく、離れていくパレードを見送る。
鼓笛隊を伴う鎧を着た騎士たちの行進や、列をなす亜竜たちも迫力があった。
そして少し前に使った外周5区の宿に泊まり、お祭りの最終日を迎える。
■
最終日は今までと打って変わって穏やかなものだった。
どうやら今日の本番は新年を迎えるために各所で開かれるパーティのようで、外を出歩く人間も少ない。
城では今日明日と新年を祝う園遊会が行われるようだけど、ぼくたち庶民には関係ない。
どことなく寂しさを感じながら、ぼくたちは揃って外周7区へ向かう馬車の中に乗っていた。
「楽しかったね、お祭り」
「そうだにゃ」
長かった祭りもこれで実質おわり。
他国の色んな商品も見れたし、ノーチェの晴れ舞台も見れた。
全て見るには時間が足りなさすぎたけど……それでも楽しかったのは本当だ。
「来年もまた見れるかな」
「当たり前にゃ」
楽しげなみんなの様子を眺めながらブラウニーに抱きついて空中に浮かぶ。
こうすることで乗り物の揺れを大きく軽減できる。
加護との組み合わせによりぼくは乗り物酔いを克服おえっ。
「ふたりはミカロルの玩具箱亭だよね」
「そうよ、後夜祭までは居るつもり」
「じゃあ今日の飯は玩具箱亭にするにゃ」
「賛成ダ!」
「…………」
「アリス、生きてる?」
うつ伏せで空中に浮きながら、体調はバッチリだとしっぽの先端だけピクりと動かす。
「見た目だけなら水死体じゃな……」
いつものやり取りを挟んでいる間に、馬車は外周6区を過ぎて外周7区へ入ろうとしていた。
■
馬車はだいたい朝8時に外周5区を出て、外周7区に到着したのは朝の11時。
街の作りが扇形だから外壁側の道を使うとどうしても移動に時間がかかるな。
「生きて……帰って……きた……」
「戦地から帰ってきたみたいにゃ」
「アリスおつかれさま、がんばったね」
シラタマに頭を冷やされ、ブラウニーに寄り添われながら慣れ親しんだ外周7区の道を歩く。
冬の涼しい風を浴びていると少しずつ酔いが回復する。
「そろそろお昼だし、玩具箱亭にいく?」
「そうだにゃ……少しアリスを休ませてやりたいしにゃ」
ブラウニーに引っ張られながら移動する。
「おかあさん、毛玉が浮いてる!」
「ふあふあしてる」
「ほんとだ、なんだろうね?」
聞こえてくる謎の会話を聞き流している間に『ミカロルの玩具箱亭』にたどり着いたようだ。
「エルナちゃんにリオーネちゃん、おかえりなさい。ノーチェちゃんたちはお久しぶりね、元気そうでよかったわ」
「女将さんただいま!」
「お邪魔するにゃ、お昼ご飯食べにきたにゃ」
「えぇ、是非食べていって頂戴」
聞き覚えのある女性の声がする。
エルナとリオーネが親しげに話しながら、宿の奥へと移動していった。
ふたりは長期滞在の予定で先払いで部屋を取っていたのだろう。
「アリスはごはんどうする?」
「むり」
「飲みやすいスープでも用意するわね」
久しぶりの女将さんが苦笑している気配がする。
流石にこの状態だと食事も取れないので、大人しく休ませて貰うことにした。
その後は介助されながらスープを飲ましてもらい、食事が終わる頃にはなんとか動けるようになっていた。
「おひさしぶりです」
「随分と具合が悪そうだったけど大丈夫?」
回復して顔をあげると、玩具箱亭の女将さんの心配そうな顔がしっかり見えた。
「なんとか、スープおいしかった」
「よかったわ。スープを飲みにくるだけでもいいからまた遊びにきてね」
「うん」
穏やかに笑いながら奥へ引っ込む女将さんを見送って、ぼくは大きく息を吐いた。
「ちょっと連れ回しすぎたにゃ」
「そうだね、アリスごめんね?」
「謝らないで、ぼくも一緒にいきたかったし」
毎度まいどこの流れはあまりよくないなと思うけど、生まれつきの問題はどうしようもない。
ブラウニーやシラタマのおかげで行動そのものに負担はかけなくなってるだけマシか。
「どうする? ここでお別れ?」
「せっかくだから一緒に新年迎えたいナ」
「じゃあ今日だけうちに泊まるにゃ?」
「そうね、ノーチェちゃんたちがいいならお邪魔させて貰おうかしら?」
護衛たちに仲良い友達アピールする効果もあるしお泊りに異論はない。
エルナたちが女将さんに話に行く。
ようやく家だ。
■
ぐったりしながら家に帰り着いたぼくがしたのは、2階のノーチェの部屋を借りて横になること。
流石に区を跨いでの連日お出かけは無茶だった。
床でブラウニーを枕に転がって寝ていると、あっという間に夜が来る。
ようやく動けるようになったぼくが1階に降りると、買い集めた食べ物で最後のパーティが行われているところだった。
最後の方はぐだぐだだったけど、なんとかパーティに間に合ったようだ。
串焼き片手にたたっと走り寄ってきたスフィが顔を覗き込んでくる。
「おはよう」
「もういいの?」
「うん、だいぶスッキリした」
信頼できる場所で眠れたのが大きかったのかもしれない。
短時間なら普通に動けるくらいに回復したんだけどなぁ。
暗くなった庭に目を向けながら、ブラウニーが作ってくれた栄養剤を手にする。
「あ、外!」
不意に明るくなった空を指さしてフィリアが声を上げた。
方角的には城のある方、遠い夜空で色とりどりの星の光が踊っていた。
「あれって……ドラゴンさん?」
「たぶん」
どこか見覚えがある光はたぶん銀竜のものだ。
銀竜たちが光をまといながら夜空を縦横無尽に飛んでいるのだ。
まるで無数の流れ星が夜空に光の絵を描いているようだった。
そんな中で夜空高くまで光がほとばしり大きく爆ぜた。
爆発は何度も続いて光の大華を咲かせる。
「あの時みたやつよりすごいにゃ」
「……流石に勝てないって」
銀竜のブレスによる連続花火、まさしくスターマインだ。
素人のぼくが急造した即席花火が勝てるはずもない。
「ちょっと寒いけど、庭にでる?」
「賛成!」
「いこういこう!」
「アリスちゃん、はい毛布!」
ぼくがそう言うと、パーティの真っ最中だったみんながバタバタと準備をはじめる。
フィリアに毛布をかけられたぼくはブラウニーと一緒に庭に出て、ポケットから取り出した木材を使って簡単なテーブルと椅子を作った。
「テーブルだしてくれたの? ありがとう!」
「うん」
スフィとノーチェが持ってきた食べ物と飲み物をテーブルの上に並べるのを横目に、ぼくは星の光が瞬く空を見上げた。
城から見るこの空は格別なんだろうけど……ぼくは今日、ここで見れて良かったと思う。
祭りの締めとなる銀竜たちの演舞は月が昇り切るまでまで続いた。




