お忍び中のお姫様
「チンピラがでるよ……家にかえろう……せめて外周5区にいこう……」
「よしよし」
「やべぇのには平然と対応すんのにどうしてチンピラにだけ弱いにゃ」
「チンピラって幽霊かなんかなのじゃ?」
やべぇのにはやべぇのなりに言動に理屈と理由があるんだよ。
チンピラはその理屈でどうしてそう動くのかがわからないから怖いんだ。
外周5区に行こう。
錬金術師ギルドに行って暇してる学生を「お兄ちゃんたちすごく頭いいのに一緒にお祭りいってくれる女の子もいないんだぁ、かわいそぉ~」って煽って遊ぼう。
……なんでそんな事する必要があるんだ。
「冷静になった。意味不明なやつらに振り回されるのも腹立たしい」
「急に!?」
「横から見てるとお前も大概意味不明にゃ」
途中で変な思考が挟まって急に冷静になった。
「どっちにせよフィリアたちが戻るまで動けないし、なんかゲームでもする?」
ポーチの中から念の為に持ってきておいたトランプを取り出す。
スフィが何とも言えない表情でぼくを見てきた。
「ほんとに冷静になってる……」
だから冷静になったって言ったじゃん。
■
結局トランプで時間を潰すことになった。
まずシャオが大人ぶってポーカーをやりたいと言い出したので、軽く全員の小遣いを全部巻き上げた。
キレたノーチェにノーゲームを主張され、ぼくは巻き上げた賭け金の全てを返還した。
そもそも友達同士での賭けが不健全だし異論はない。
ギャンブルには常に捕食者が潜んでいると知ってもらえると嬉しい、ぐるるる。
そんなわけで今は簡単なババ抜きをしていた。
ババ抜きでは速攻でぼくとスフィが抜けてノーチェが続く。
残ったエルナとリオーネ、シャオで三つ巴の戦いが行われているところだ。
「ねぇ」
暇になったぼくはスフィに背中を預けながら目を閉じていた。
すると手漉きでぼくの髪を毛づくろいをしていたスフィが疑問に満ちた声を出した。
「フィリアたち、おそくない?」
「言われてみれば遅いにゃ?」
「占いっていうから結構時間かかってるんじゃ」
占いなら1件数秒ってわけにもいかないだろう。
列が短いとは言えすぐ終わる訳が無い。
「……よし! 揃ったゾ!」
「ぬおああああ!」
ゲームも決着がついたようで、ジョーカーを手にしたシャオの断末魔が響き渡る。
「丁度終わったし、ちょっと見に行こうか」
「そうだね」
「お?」
同意を得たところで、ぼくたちは再び列を見に奥へ向かった。
ロビーの先にあるホールに入ると列は随分と減っていた。
一角馬人の列はまだまだ全然あるけど、二角馬人や妖狸の列はかなり捌けている。
フィリアたちが並んでいたはずの妖狸の列を辿っていく。
すると部屋からでてきたフィリアたちと鉢合わせた。
「あれ、みんなどうしたの?」
「外でちょっとトラブルがあったから心配になって」
「ええー、結構心配性なんだね」
確かに心配性気味なぼくの言葉を聞いてユテラがくすくすと笑う。
心当たりがありすぎるフィリアは笑えないようだ。
「まぁ大丈夫ならよかったにゃ、何を占ってもらったにゃ?」
空気をほぐすように敢えて明るくノーチェが尋ねる。
「わたしは引っ越してからうまくやっていけるかって」
ユテラは朗らかにそう答えた。
「私はね……これからも友達と一緒にと居られるかなって」
フィリアはしばらく下を見ていたが、待っていると恥ずかしそうに顔をあげた。
「へぇ、それでどうだったにゃ?」
「順調に行くように背中を押す風が吹いてるって!」
ユテラの方は良い結果だったようだ。
妖狸の占い術がどんなものかは知らないけど、結果がプラスであるに越したことはない。
「フィリアは?」
「うぅん……大いなる意思がその未来を望んでいるからきっと心配いらないって言われた」
「えー?」
スフィの問いかけに困ったように答えるフィリア。
内容を聞いてぼくも首を傾げてしまった。
大いなる意思ってなんだ。
「まぁ悪い結果じゃないならよかった」
「そうだね」
一瞬ひやっとしたけど無事に合流できたし、占いの結果も良かったなら言うことはない。
最近色んな騒動が押し寄せてきていたから心配しすぎたかな。
このくらいの平穏が普通なのだ。
「じゃ、行くにゃ」
ひと息ついたところでノーチェが音頭を取り、ぼくたちは集会所を後にした。
■
「チピピピ、チュリリリ」
「雪でも降るの?」
集会所を出て少し歩いたあたりで、頭の上にいたシラタマが身体を左右に揺らしながら歌いはじめた。
雪の精霊の機嫌が良い時はぼくと一緒に極寒の地に居る時か気温が下がる時だ。
「えぇ、雪降るの?」
「これ以上寒いのは嫌にゃ」
「ヂュリリリリ!」
「どうどう」
寒いのを嫌がられてキレはじめたシラタマをなだめつつ空を見上げる。
灰色の空からちらちらと雪が降り始めていた。
「そういえばその娘って……ノーチェちゃんたちのお友達?」
自然な流れで同行していた犬っ娘に気付いたユテラが恐る恐る聞いてくる。
周囲を警戒しまくる犬っ娘はどう見ても普通の子供の雰囲気ではない。
「ええとね、スフィたちの護衛……みたいな?」
「……はい、私のことはお気になさらず」
「もしかしてスフィちゃんたちってけっこうなお嬢様?」
「そうだったみたい?」
気になっている様子のユテラをスフィがうまく誤魔化した。
うまく誤魔化したってことにしておく。
というか実家がどんなところかまでは話していなかったのか。
「親が結構偉い人だったみたいで、街に居ていいけど護衛をつけられてる感じ」
「そうなんだ……お家が見つかったってだけ聞いてたけど……凄いね。もしかしてお貴族さまだったり?」
子供らしく興味津々なユテラに犬っ娘の警戒心がじわじわ高まっていくのを感じる。
「詳しくはいえないけどね、あるお貴族様の庶子だったんだって」
「ええええ!? じゃあ本物の貴族のお姫様ってことじゃん……すごい! 物語みたい!」
ユテラはキラキラと目を輝かせる。
「物語にゃ?」
「そうだよ、『王女の約束』とか『ラシエラ伝記』とか! 城に住むお姫様がお忍びで街にでてきて、そこで町民の女の子と友達になるの! 本物じゃん!」
「スフィ読んだことある、『ラシエラ伝記』!」
「いいよねぇ!」
「ねー!」
確かおじいちゃんの書架にも何冊かあったな、昔の王女の自伝を原作にした小説。
「私もお城からお迎えがきて貴族のお姫様になんて妄想して母ちゃんに怒られたりしてたなぁ。そのうちお姫様がお忍びで街を歩いてるかもって思うようになって……」
「スフィも! いつかお迎えがきてお姫様になるんだって思ってた!」
はじめて聞くスフィの内心にちょっとした申し訳無さを感じる。
結果的に遠回りしたのはぼくが慎重になりすぎたせいでもあるし……。
でもこういうのって年頃の女の子はみんな通過する感じなんだろうか。
すすすっとノーチェの隣に移動する。
「そんなこと考えたこともなかったにゃ」
これはザ・ストリートチルドレン。
「あ、あはは」
これはアルヴェリア貴族の庶子。
「……お忍びでいっても誰も友達になってくれなかったのじゃ」
ボッチ・ザ・フォックス。
そして元男な転生者であるぼく。
こっちサイドに一般的女子がいねぇや。
「ラシエラ伝記ってどんな話にゃんだ?」
「ある大国の不遇のお姫様が城を抜け出して、そこで出会ったスラムの少女と意気投合! 一緒に冒険に出て名を挙げてバカにしてたやつらをぎゃふんと言わせる冒険活劇よ! こんな物語みたいなことって現実にあるんだね! もしかしたら聖王国のお姫様もお忍びで街に出ていて、偶然出会っちゃってたりして!」
「…………」
ノーチェたちの視線がユテラに気付かれないようにスフィとぼくを行き来する。
やめろ、そんな目で見るな。
「まぁぼくは貴族の庶子だったってだけの一般! 庶民! だから」
「う、うん……スフィたちはそんなかんじ? だから」
最高級の肉とワインなんて穢れを嫌いポテチとコーラにて身を濯ぐ清浄なる庶民である。
「うふふ、わかってるってば。スフィちゃんたちのことじゃないよ。お貴族様だからって取り入ったりしようなんて考えないから安心して! せっかく知り合えたんだし、ちゃんと友達でいたいもん!」
ひとまずはユテラがいい子で良かったと思う。
「…………そうだにゃ、あたしも同意見にゃ」
いい感じに同意をするノーチェだが、ジト目でぼくたちを見ている。
せ、籍で言うなら王族でも貴族でもないのは事実だもん……。




