祭りも終わりが近付いて-2
前回外周3区に来た時は卵祭りの真っ最中。
これからというところで騒動が発生してゆっくり見ることができなかった。
お手製栄養剤を呷りながら外に出ると、そこには別世界が広がっていた。
道行く町人も旅装束も獣人だらけ。
統一された建物の外観すら違う。
「獣人だらけだ」
「にゃんか薬の匂いするんだけど、それ美味いにゃ?」
「くそまずいが?」
飲んでいるのは色んな薬草や干した果物を煎じて糖蜜に混ぜてお湯で溶いたもの。
食感も味も罰ゲームに使えそうな苦さと不味さだけど効果はある。
ぐびぐびと飲み干して、空になったコップをブラウニーに渡した。
きっっっつい。
「栄養不足って思ったよりダイレクトに身体に影響でるんだなぁ」
「当たり前にゃ」
「ぶヴぉっ!?」
ノーチェの突っ込みの裏で「大げさじゃろう?」とコップの残りを指につけて舐めたシャオがしっぽを爆発させて倒れかけていた。
好奇心は認めるが覚悟なしで飲めるものじゃないぞ。
「街を見て回ろうか」
「むぅー」
ちょっと頬を膨らませながら抱きしめてくるスフィと並んで街を歩き始める。
「そのやりかたで食べる量が増やせるにゃ?」
「物理的な容量は変わらない」
胃を拡張するとは言ったけど、何も物理的に胃を大きくするわけじゃない。
消化を助ける薬を併用しながら満腹感を得てる状態で食事をとって、神経を誤魔化すことで食事量を拡張するのだ。
一種の過食を自分から引き起こすような強引な手段だけど、ぼくの場合は食べる量そのものが足りてないので仕方ない。
良い子は絶対真似しちゃいけない。
「今日はなんだか別世界だね」
「なんか村を思い出すゾ」
普段は普人ばかりの環境下で過ごしているせいか、獣人だらけという環境は確かに新鮮である。
そのぶん視線が気になるけども。
「珍しい、砂狼人」
「凄い美少女、どこの子かしら」
聞こえてくる女性らしきひそひそ声になんとも言えない気持ちになる。
スフィが世界一可愛いのは事実だけど、それは身内の贔屓目込みの話だ。
獣人の評価基準はどうやら毛並みにあるようだ。
ちゃんと手入れされた綺麗な髪の毛やしっぽを持つぼくたちは獣人の基準だと美少女に分類される。
もしも素の白銀の毛並みなら空前絶後の超絶美少女扱いをされかねない。
つまりここは敵地ってわけだ。
「ぼくみたいな男らしい狼を捕まえて女の子と間違えるなんて」
「え……?」
「たぶんね、自己暗示の副作用だと思うの」
スフィは一体何を言ってるんだ。
適当な広場の椅子に座ってそんな風に喋っていると、近くの大きな建物に向かって徐々に人が集まってきた。
建物は集会所っぽいけど、あそこで何かあるのかな。
「人が増えてきたにゃ、なんかあるにゃ?」
「あ、お祭りの時は星の民の相談会があるって母ちゃんが言ってた」
「星の民にゃ?」
ユテラが知っていたようで教えてくれる。
「星降の谷に住む希少種の人たちらしいよ。お祭りの時だけ街にでてくるんだって。一角馬人とか二角馬人とか、妖狸人とか、普段は星竜様の庇護を受けて星降りの谷に住んでいるんだって」
「へぇー」
そういえば谷には一族単位で竜の庇護を受ける希少種が住んでいるって聞いたな。
「占いとか、病気の治療とかやってくれるんだって。アリスちゃんも見てもらったら?」
悪気なく言ってくるユテラに対して返答に困った。
母さまの側仕えに頭に白い角が生えた馬人の女性が居たのを思い出す。
治癒の力を持つ種族がいるなら間違いなく試してるし……試さない理由がないよな。
「ぼくのは病気じゃないから」
「えっ?」
意外そうなユテラに体質だと説明していると、ダメージから復帰したシャオがベンチから立ち上がる。
「それはそれとして、せっかくだから覗いてみぬか? 減るものではなかろう」
「まぁ、たしかに」
「そうだにゃ」
決まった用事があるわけでもなければ、シャオの提案を否定する理由もない。
物見遊山気分で人混みに紛れて集会所らしき建物に入ることにした。
■
中は獣人がたくさんで、いくつかある部屋の前には行列が出来上がっていた。
門番にはそれぞれの種族が立っていて、カウンターでは貢物を受け付けている。
……なるほど、こういうタイミングで外貨や"外"の工芸品を稼ぐのか。
「すごい列じゃな……」
「これは無理そうだにゃ」
頭に白い角を生やした白髪の馬人の列が一番長い。
種族の装束なのか白い法衣を着ていて、どことなく神聖な雰囲気が漂っている。
次に漆黒の髪に頭の両脇から曲がった二本角を生やした馬人の列。
こっちは男女ともに黒い下着みたいな服を着ていた。
狸のような耳としっぽを生やした和装の人たちは妖狸なんだろうけど、見た目だけじゃ狸人との違いがわからない。
「さすがにこの列に並ぶのはなぁ」
特に一角馬人の列はみんな必死だ、物見遊山で近寄っていい雰囲気じゃない。
一方で二角馬人では精力剤とかの販売を行っているみたいだ。
ビキニの肩紐に錬金術師のバッジをつけて、その上にコートを羽織っている人がいる。
凄い格好だな。
一番緩いのは妖狸の列で、そこで占いをしているようだ。
「わたし、占いしてもらいたいかも」
「あ、私も」
ユテラとフィリアが同調する。
まぁ一番列が短いしそのくらいなら問題ないか。
「ぼくはロビーで休んでるよ」
「アタシもパスにゃー」
「スフィも」
ノーチェはともかくスフィは占いにはあまり興味がないらしい。
「…………な、なァ。治療って、手もできるかな?」
俯いていたリオーネの言葉に、エルナがハッとした表情で妹を見つめた。
リハビリの効果が出ているとは言え先は長い。
治してあげられるなら治したいのが当たり前だ。
「大丈夫よ、リオーネ。少しずつ動くようにはなってきたし。それに貢物を準備してきてないもの」
エルナはそう言いながら優しい表情でリオーネを宥める。
当然ながらそれぞれの列や内容で求められる貢物の質や額が違う。
占いなら子供でも支払えるような額、治療に関わるものはそれなりを求められている。
ぼくが出す……のはエルナが受け入れるはずもないか。
もどかしいね。
「……ウン」
「優しい妹を持って嬉しいわ、ありがとう」
リオーネが落ち着いたところで、ぼくたちは揃って集会所のロビーに戻った。
妙に観葉植物の多くて視界が悪いロビーの適当な椅子に腰掛け、ひと息つく。
列が短いとは言えフィリアたちが戻るまで結構かかりそうだ。
「少しかかりそうだし、飲み物もらってこようか」
「賛成じゃまだ舌がびりびりするのじゃ……おえ」
「スフィたちが行ってこようか?」
「人酔いしちゃったから風に当たりたい」
まだ本調子ではないせいか人の多さと熱気に当てられてしまった。
「じゃあ一緒に行こ」
「わしもいくのじゃー」
「アタシらはここにいるにゃ、気を付けてにゃ」
「大丈夫だと思うけど、注意してね」
「はーい」
ノーチェたちネコ科組はロビーに残るようで、ぼくとスフィ、シャオの3人で1度集会所を出た。
なんか綺麗にイヌ科とネコ科で分かれたな。
集会所近くには屋台がないので少し歩くことになりそうだ。
「ふむ、この面子で歩くのは新鮮じゃな」
「言われてみれば」
「たしかにそうかも?」
シャオは普段はフィリアと一緒に行動することが多い。
ぼくやスフィがシャオと行動する時は他のメンバーも一緒だ。
「普段とは違う組み合わせ……いつもと違う……トラブルの予感?」
「縁起でもないこと言うではないのじゃ」
「さすがにトラブルはもうやだよ……」
ここ数日は騒動が多すぎたせいかスフィがげんなりしてしまっている。
冒険とトラブルは似て異なるもの、面倒事に巻き込まれるのは確かに嫌か。
人気がなくなった集会所近くの曲がった通り道。
シャオとスフィは揃って一歩前に出て、ぼくを振り返って胸を張る。
「あれだけのドタバタが落ち着いたのじゃ! 流石にもう何も起こらぬわ!」
「そうそう! もうないって!」
ぼくはそんなふたりの背後、道を分ける茂みの向こうをそっと指さした。
何事かとふたりが振り返る。
視線の先では薄汚れた格好の獣人の男たちがいた。
肩にもぞもぞ動く小さな袋を抱えて、周囲を警戒しながら路地裏に入っていく。
こっちの身長が低いせいか気づかれていない。
「「…………」」
そういうパターンできたかぁ。
※星降の谷のルビを『スターフォール』に統一しました。
合わせて過去の表記も変更してます。




