外周3区へ
翌日、武術大会の準決勝がはじまった。
出場選手は4人だ。
チャイナ服みたいな道着を着た薄毛兎人の女。
灰褐色の毛並みの獣毛狼人の男。
筋骨隆々のスキンヘッドの普人の男。
小柄な和装の獣毛鼬人の男。
見覚えがあるのが何人かいる。
中でも紹介されて舞台の脇に立つ兎人の女は印象が強かった。
金色の髪に黒い兎耳、厚めの道着の上からわかるくらいに胸が大きい。
「ねぇ、あの兎のお姉さんって」
「おっぱいばいんばいんの姉ちゃんにゃ」
「おっぱいのひとだよ」
前に外周3区で見たことなかったっけと聞こうとしたら酷い返答がきた。
確かにバニースーツで飛び跳ねながらおじさんたちの視線を独り占めしてた人だけど。
「岩砕のライチ、外周3区を拠点にするBランク冒険者。『ヴォーパルラビット』っていうアルヴェリアでは有名な冒険者クランのエースよ」
背後から解説が聞こえた。
今日も謎の解説おじさんがいるのかと思ったら眼鏡をかけた女性だった。
解説おじさんのメスだ。
手帳とペンを手に真剣に舞台を見ている。
なんか雰囲気が記者っぽい。
「あっちの灰色狼人はディスタ、Bランク冒険者。普人は『アックスオブラウンド』のガンディ、同じくBランク冒険者。鼬人は……こっちじゃ見たこと無いわね」
「ありゃ竜宮の大剣豪、海割レンジュロウだよ。嘘か真か海ごと海賊船を真っ二つにしたこともあるらしい」
「へぇ、海を超えての道場破りって訳ね」
隣にいるのは昨日もいた解説おじさんだ。
昨日は気づかなかったけどこの人も手帳とペンを手に真剣に舞台を見ている。
拘りがないから護衛たちの誘導で席に座ったんだけど、もしかしてここ記者席の近く?
「そういやパドルの姿がないけど、どうしたんだろう」
「昨日あのおっぱいお姉さんに負けちゃったよ……見てなかったの?」
「ブラウニーを枕に寝てたのじゃ」
寝ちゃった後に負けたのか。
今日は寝ないようにしようと思うけどたぶん無理だな。
■
意外なことに寝ずに決勝まで見終わった。時間は昼を少し過ぎたあたりだ。
決勝戦はレンジュロウと兎のお姉さんのカード、石舞台が半壊する激戦の末に兎のお姉さんが優勝した。
木刀を手に忍者チックな動きで遠近自在に攻めるレンジュロウだったが、お姉さんは兎人にあるまじき重量パワー型の立ち回りできっちり押し切り返して勝利。
硬い重い強いはやっぱり強力である。
30日に竜の見守る場所でまとめて表彰式をやるらしいので、武術大会はこれにて終了。
余韻にひたるスフィたちと一緒に会場を出て、外周3区へ向かう馬車に乗った。
「前から気になっていたんだけど、ついてきているあの人達って……」
「実家関係の護衛」
「そうなのね……」
エルナたちも当然のように気づいていたようで、その一言で納得してくれた。
一応は伯爵家の落し胤ということになっているから護衛の存在は不思議に思われないようだ。
乗客が他に居ないから気軽に話したんだろうけど、お嬢様率が高すぎる。
馬車は専用道路ですいすいと進み、日が落ちるまでには外周3区に到着した。
今日明日は外周3区で……えー30日から31日までは外周5区にいることになるのか。
移動が、移動が多い……!
「んんー……到着ね。アリスちゃんは大丈夫?」
「…………」
「口では大丈夫だって言ってるのじゃ、多分ダメなのじゃ」
「早く休ませないとまずいにゃ」
ぐったりとしたままブラウニーに運び出され、獣人達の視線を受けながら事前に聞いていた宿屋に向かう。
「ごめんね、無理させすぎちゃった……」
申し訳無さそうなスフィが顔を覗いてくる。
ほぼ運ばれているだけだから大丈夫と返事をしている間に、宿屋の中に入っていった。
宿屋は『百獣の寝床亭』という名前らしい。
結構大きな宿で1階は食堂になっているようだ。
時間帯もあってかたくさんの獣人が食事を取っている。
「あぁ! ノーチェちゃんとスフィちゃん!」
黒よりの焦げ茶色の髪の毛の薄毛猫人の少女が奥のテーブルからでてきた。
ブラウニーに持ち上げられているから普通に見えた。
「よかった、会えないかと思ってた! みんな……? 元気そうでよかった」
「ユテラも元気でよかったにゃ」
客をすり抜けてこっちにくるユテラが、ノーチェの手を引いて食堂の奥へ連れていこうとする。
一瞬ぼくを見て疑問符を挟んだのは何でだろうね。
「紹介するにゃ、こっちはリオーネとエルナにゃ。ともだちにゃ」
「は、はじめまして! ユテラっていいます!」
「よろしくナ!」
「はじめまして、よろしくね」
ユテラとリオーネは歳が近いせいかどちらも気安そうに挨拶を終えた。
それにしても女の子だらけなせいか随分と姦しい。
「こらユテラ、そちらの都合もあるんだから無理矢理引っ張っちゃダメよ。それともう少し静かにね」
見かねたのかユテラの母親である猫人が叱りにやってくる。
客が怒るより早く動いたあたり、流石は宿屋経営者だ。
「母ちゃん、ごめんなさい……」
「部屋が空いてたら泊まるつもりだったしにゃ。あとで話すにゃ」
「そうだね、あとでお部屋行ってもいい?」
「構わないよにゃ?」
ノーチェの確認にみんなが同意を示す、ぼくも示そうとして震える手を持ち上げた。
「お前は無理するにゃ」
「先にお部屋を取れるか確認して、アリス休ませてこようよ」
「そうだにゃ」
「…………」
すまねえ、すまねえ。
言葉にならない謝罪を繰り返しながら、カウンターに向かうノーチェたちを見送る。
時間にしてはわずかなやり取りを経て、鍵を手にノーチェが戻ってきた。
「なんかあたしらの分の部屋はもう取ってあったらしいにゃ」
「びっくりだよね」
「えぇ……?」
どうやら事前に誰かが来て、ノーチェとスフィとしっぽ同盟の名前で部屋を確保してくれていたらしい。
不思議だね。




