外周5区にて-3
「パドルさんだ」
続く試合で出てきた茶色の毛並みの獣毛犬人を見てスフィが声をあげた。
覚えている、たしかシーラングの都市ハイドラで会った獣人クランのリーダーだ。
「参加してたんだ」
「うん、昨日も出ていてね、強かったんだよ」
訓練用の片手斧を使いながら、パドルは対戦相手の普人を的確に追い詰めていく。
相手も弱くはないんだけど、流石に戦闘に慣れてる獣人が一枚上手だな。
試合はあっさりとパドルの勝利で終わり、歓声があがる。
「ちょっと話したけど、リンダの姉ちゃんたちは予選落ちしたらしいにゃ」
「へぇ」
リンダはクラン所属のゴールデンレトリバー似の獣毛犬人だ。
どんな予選か知らないけど、獣人が落されるくらいだから単純な腕比べというわけじゃないのだろう。
そんなわけで準決勝への進出者が全て決まるまで見届けて、ぼくたちは競技場を後にした。
途中から寝てたわ。
■
「アリスは起きてるにゃ?」
「……うん」
「うんとねー、意識はありそう」
「あの中でよく寝れたのじゃ……」
ブラウニーに背負われながら暗くなりつつある街を歩く。
向かうのは宿……じゃないな、まずは冒険者ギルドだ。
「あたしとフィリアが行くにゃ」
「スフィたちはアリスのこと見てるね」
人の数がまばらになった冒険者ギルドの中を、ノーチェがすたすたと歩いていく。
まぶたが重い。
数秒ほどうつらうつらしていると、ブラウニーが動いた。
ノーチェが戻ってきている……瞬間移動?
「お手紙きてた?」
「ユテラもこっちに到着してるみたいにゃ。ええと……外周3区の宿に泊まってるからよかったら連絡くれって。どうするにゃ?」
「明日、決勝戦見たら行ってみようよ。あ、予約だいじょうぶかな?」
「ああああ!! 見つけたゾ!」
目を閉じて話に耳を傾けている最中、突然の大声に身体がビクっとはねた。
え、何ごと?
「お、リオーネとエルナにゃ」
「家に遊びに行ったらいないし! 知らない怖いおっさんが見てくるし! 何かあったのかと思ったゾ!」
「武術大会の競技場を出たところで見かけて、追いかけてきたのよ。突然ごめんなさいね」
ああ、獅子人姉妹か。そういえば襲撃騒動から会っていなかった。
ミカロルの玩具箱亭に滞在しているんだっけ、完全に忘れてた。
「おあー、悪かったにゃ。あれからちょっと……別のこと考える余裕なくてにゃ」
「もう! 心配したんだゾ!」
「お姉ちゃんたちもお祭り一緒に見て回る?」
「当たり前だ!」
「皆がよかったら一緒に行動させて貰えると嬉しいわ」
話が一段落して、今度はみんなで固まって歩き始める。
ほんとうの意味で気が抜けたのかもしれない、マジで眠い。
「アリスはどうしたんだ?」
「おつかれなの」
「そっかぁ」
誰かが髪の毛を撫でる。この手つきはスフィだ。
「アリス、今日のお手紙書ける?」
「…………うん、もし今日きたら、渡すのは、おねがい」
約束通り両親への手紙は毎晩書いている。
セレステラへの貢物の中に紛れ込ませるらしいので、回収役に渡す手はずになっている。
毎晩書く意味があるのかと思ったけど、日数分の手紙があることが重要らしい。
今日は27日だから、今日か明日あたりに回収役が来るんじゃないかと読んでいる。
書いた分はスフィに渡しておけばいいだろう。
そうと決まれば我慢せず仮眠を取ったほうがいい。
ぼくはブラウニーにしっかりとしがみついて意識を手放すことにした。
■
「ふあ……ぁ」
「アリス、大丈夫?」
「だいじょうぶ、まだ寝れる」
起きるとどこかの料理店の中だった。
食事だけならふるまい料理があるためか客は少ない。
店内は随分と静かで、落ち着くにはいい感じだ。
「外周3区にはリオーネたちも来ることになったにゃ」
「りょうかい」
「悪いわね、無理やり押しかけちゃって」
「気にしないで」
スフィが水の入ったコップを近づけてくる。
されるがままに水を飲むと少し頭がスッキリした。
「そういえば、リオーネたちの両親はこっちに来るの?」
「こっちに来る前に届いた連絡だと年始の雪が落ち着く時期になりそうよ」
何気なくでてきた疑問にエルナが答える。
山の向こうのサバンナだっけ、岳竜山脈を越えることになると考えると早いほうだ。
……というか時間差を考えるとあっちに連絡が届いてからまだ数ヶ月だよな。
早すぎないか。
「オヤジが強行軍するっていうの、みんなが必死で止めたって書いてたゾ」
「十分強行軍だけどね……早くても来年の夏になるかと思ってたわ」
不思議なもので、以前はなんとなく流していた話がちょっと興味深く感じる。
ここで父さまを呼んだら飛んできてくれるんだろうかと考える。
……しれっと来そうだ。
「そういやフィリアのお兄さんは?」
「え、ええと……たぶんまだ忙しいんだと思う」
興味ついでに聞いてみるものの、フィリアは反応は芳しくない。
連絡がなくてショックという感じではないな。
「時期的に聖都にはきてるはずなんだけど、でも、あんまり話したことなかったから……」
以前の接触が少なすぎて反応に困っているみたいだ。
無理もないか、ぼくも会った上で両親についてはまだピンときていないし。
相手が自分にとってどんな存在かが確立されていないのだろう。
「子爵家の跡取りなら今は聖都いないとまずいよね」
「入れ違いで家に手紙が届いてたりしてにゃ」
「まさかぁ」
ノーチェの言葉にフィリアが笑う。
ありそうでぼくは笑えなかった。
「お嬢様」
不意に隣のテーブルに座っていた普段着のジルオが声をかけてきた。
今の時間帯はジルオが担当なのか、いっきに人が増えてシフトが把握出来ていない。
「あれ、ジルオ?」
「なに?」
「先ほど伝令役がきましたので手紙が今あれば持たせますが……どうしますか?」
どうやらぼくが起きるのを待ってくれていたようだ、悪いことをした。
「スフィはお手紙あるよ」
「ちょっとまって」
スフィがポーチからキレイな封筒を取り出している間に、ぼくもポーチから紙とペンを取り出す。
ええと……『12月27日 武術大会を見た、ねむかった アリス』と。
「書けた」
「………………」
「………………」
手紙を畳んで封筒の中にしまい、他の封筒とまとめてジルオに差し出す。
が、書くところを見ていたスフィとジルオとフィリアが不自然な体勢で固まっていた。
「…………?」
「スフィお嬢様、提案なのですが」
「うん」
「今後はご一緒にお手紙を書かれてはいかがでしょうか」
「お手紙はお姉ちゃんと一緒に書こうね、アリス?」
「アリスちゃんお仕事の手紙とかはすごくちゃんとしてるのに……どうして……」
…………ん?




