展示会へ
年長の部の決勝戦は槍使いの普人少年と幻術使いの狐人少女の戦いになった。
ぼくでも見える幻術と魔術を織り交ぜて攻める少女に、少年は槍のリーチの長さを駆使して対抗している。
「あの幻術、虚像を認識に作用するんじゃなくて実際に作り出すタイプかな」
「そのようじゃな。そもそも認識干渉は超高等幻術なのじゃ、使い手はそうそうおらぬ」
素朴な疑問を口にすると、狐人が周りにたくさんいたシャオが教えてくれた。
「それ、どう違うにゃ?」
「幻影は誰でも見えるのじゃが、匂いや感触ですぐにわかるのじゃ。認識干渉は幻術にかかった者にしか見えぬが、匂いや感触ではわからぬ。触ってもそこにちゃんとあるように感じるのじゃ。攻撃されても傷は負わぬがのう」
「幻であることには変わりないからね」
立体映像と幻覚って言い方が近いかもしれない。
認識に作用する力が利かない体質なので、ぼくにとっては立体映像の方が厄介だ。
そんなこんなで互角の戦いの末に、少女の魔術を少年が槍で相殺した。
木製の槍はそれで粉砕されたが、少女も魔力が尽きてしまったようでフラフラだ。
一方で少年も武器を失った上に魔術の余波で満身創痍。
「うおおおおお!」
「くあああああ!」
少年が覚悟を決めた様子で雄叫びをあげながら突っ込み、少女も同じく咆哮をあげて拳を構える。
舞台の上では殴り合いがはじまった。
武術の体をなしていたのは最初だけ。
フラフラの少年少女の殴り合いは次第に泥仕合と化していく。
お互いそれは不満だったのか、少女が先に打って出た。
低位置からの全力踏み込み、そこから繰り出されるアッパー気味のボディブロー。
後先考えない一撃をまともに受けた少年の身体が浮き上がる。
「アアアアアアアアアアアアアア!!」
仕留めたと誰もが思った瞬間、少年は握りしめた拳を少女の横面に叩き込んだ。
テンプルに当たったのか、少女は舞台に倒れて動かなくなる。
少年は震える脚で舞台を踏みしめ、倒れないように耐え続けている。
『8,9,10! 勝者432番テュロス!』
――…………ワアアアアアアアアアアアアア!!
少女は起き上がることが出来ないままカウントが終わり、少年は勝利宣言を聞いてようやく舞台の上にへたりこんだ。
熱い戦いを制した少年に惜しみない拍手が送られる。
『女の顔を殴るなんて』などという、少女に対する侮辱を口にする人間はいなかった。
■
「というわけで展示会の方にいってくる」
「ひとりでだいじょうぶ?」
「問題ない、またあとで」
結局ブラッドを軽く励ましつつ決勝戦まで見終えて、一緒にお昼を食べてから競技場を抜けた。
こっちは護衛組に任せて、ぼくの方は全ての精霊を連れて行かせてもらう。
流石にひとりかふたりはついてくるだろうけど、彼等もぼくが周囲を精霊で固めている方が安心だろう。
ミストさんのおかげでだいぶ戦力を配分しやすくなった。
会場を出て向かう先は少し離れた位置にある展示会の会場だ。
魔術師ギルドと錬金術師ギルドで共用されているそうだ。
「魔力を糸のようにして人形にくっつけることで、より滑らかに操ることが出来るようになりました!」
チェックを受ければ誰でも入場できるようになっている広い会場に入ると、最初によく通る声が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、年かさの魔術師に囲まれたクリフォトの姿があった。
集まっているローブ姿の人たちに豚のぬいぐるみのルイくんを動かして見せている。
そういえば魔術師ギルドからの推薦枠だっけ。
目があったので軽く手を振りながら、展示ブースを見て回る。
魔術師ギルドは新しい魔術の研究成果が、錬金術師ギルドは……かなり範囲が広い。
ちらっと見ただけで新しい魔道具技術から猫の行動研究まである。
気になった研究のブースからカードを貰う。
あとで奥にある手続き所で精算すると、研究レポートの写しを送付して貰えるのだ。
ちょっとお高いけど……幸い今は家計に余裕がある。
「アリスれ……さん!」
そうやって冷やかしていると、ひときわ人の数が多いブースから声をかけられた。
聞き覚えのある声……たしかヴァーグ導師のお弟子さんだ。
人混みで見えないけど、あそこが共同研究の場所か。
「裏にどうぞ!」
どういうわけか、あっちからはこちらが見えているようだ。
なんで……。
――チリリン
ああ、頭上にワラビが浮かんでいるからか。
「おつかれ」
「導師が連絡がつかないと心配しておられましたよ、お元気そうで何よりです」
「ちょっと実家関係でね……おふだおばけは?」
「導師ならウェンデル老師と奥に」
思わず口が滑ったぼくに普通に対応した錬金術師が一瞬『あ』という顔をする。
誰のことだかスムーズに認識できてしまったらしい。
「挨拶してくる」
「……は、はい」
因みにヴァーグ導師の身体を覆い尽くす御札の下には、病気との戦いの壮絶な傷跡が……ない。
あれは数式に囲まれていると安心するからだそうだ。
警備の人に許可を貰ってブースの衝立の向こうを覗き込むと、元気そうにわさわささせる御札おばけとウェンデル老師がいた。
「ヴァーグ導師、ウェンデル老師」
「はん、随分と遅い顔出しじゃないか。元気そうだね」
「これは嫌味ではないウェンデル老師は騒動の直後から連絡が取れず何かあったのではないかとずっと心配していた私よりもだ」
「ヴァーグ導師、その、聞こえておられないのでは」
いや聞こえてる。
この距離じゃぼく以外は聞き取れないようなぼそぼそ早口だけども。
クリフォトの声の大きさの半分でもあればいいのに。
……そんな声量で高速トークされたら音響兵器だな。
「ご心配おかけしました」
「ま、元気ならいいさ」
「両親と会えて、色々話してた」
「それは何よりだね、こっちの反応は上々だよ」
上々か、やっぱり参加者がレジェンドクラスだけあって求められるハードルも高いのだろう。
……なんかちょっと悔しいな。
「その様子じゃ身の回りも落ち着いたんだろう? 今度はあんたの個人研究を楽しみにしてるよ」
「おてやわらかに」
「アハハハ! 面白い冗談を言うじゃないか! 熱いうちに徹底的に叩き上げてやるに決まっているだろう?」
「私も楽しみにしているとてもだ君の世界の見え方の違いはとても面白い」
「ぴえん」
ぼくがチキンレースなんてアホなことをしていたせいで、気づくと自分のハードルもぶちあげられていた。
ウェンデル老師の魔女みたいな表情からして、つまらない研究発表なんてしたら吊るし上げられそうだ。
……上等じゃねぇかこのやろう。
内心でそんなことを考えながら、ぼくは面白そうだったり興味深そうな展示の情報を聞き、情報交換をして過ごした。
ぼくの知らないことやわからないことも丁寧に教えてくれるし、改めてこのふたりは凄い錬金術師なのだと思い知った。




