決勝戦
いよいよ決勝戦。
その前に小休憩を挟んで3位決定戦が行われることになった。
鞭使いの少年と異邦人の少女。
戦いはある程度拮抗した後、技術で上回る少女が勝ちを収めた。
順当な結果だろう。
そんなこんなでついに決勝戦がはじまった。
■
『聖王国武術大会! これより年少の部決勝をはじめます!』
拡声の魔道具で行われた宣言に観客席から歓声があがる。
子供の大会でもかなりの人数が見ているようで、ぼくたちの周囲も大人で一杯になる。
最前列の席を取っておいてよかった。
因みにVIP席の中心には王族らしき人物が率いる一団がいる。
いまも祝祭警備の統括責任者である聖王の代理らしい。
人々が見守る中、舞台の上に立ったノーチェとガブソンが睨み合う。
小柄であるノーチェと並ぶと体格差は大人と子供だ。
『683番ノーチェ、301番外周3区出身ガブソン。両者準備を……決勝戦、はじめ!』
「グオオオオオオオ!」
開始の合図と同時にガブソンが駆け出した。
巨体を活かしたぶちかましか、正面切っての戦いじゃ厳しい。
だからノーチェもうまくいなして舞台際に追い込む。
そう、思っていた。
「シャアアアアアアア!」
「!?」
木刀を構えたノーチェが正面からガブソンに突っ込んでいく。
身体をひねり、遠心力を加えた木刀が走るガブソンの胴体を叩く。
「グッ!」
「シッ」
ガブソンが一瞬の間を置いて両腕を振り下ろす。
ノーチェはすでに脇から抜けていて、その両手は石の舞台を打った。
「フゥゥ! 『スマッシュ』!」
「グオオアア!?」
姿勢を低くしたノーチェが、右脚に翠色の魔力光をまとわせてガブソンの身体に蹴りを打ち込む。
インパクトの瞬間、翠色の雷が迸る。
「ギイ!?」
悲鳴ごと硬直したガブソンが身体を傾けた。
「ボルトスラッシュ!」
「アガっ……!」
動けないガブソンの背中に、ノーチェの雷を纏った一撃が叩きつけられる。
ゆっくりと巨体が石舞台に倒れていく。
ま、まさか正面から応戦するとは思っていなかった。
「猫人が雷魔術だと!?」
「いや、詠唱していなかったぞ……まさか加護持ちか!」
「あの雷は……!! あ、ありえん……呪われた黒毛だぞ、あっていいはずが……」
「…………?」
ノーチェの攻撃に観客もおおいにざわついている。
その中に焦ったような、聴き逃がせない呟きが混じっていた。
背後を振り返るけど……歓声と人の多さでわからない。
ちっ、この状況じゃ特定は無理か。
呪われた黒毛か、どこの誰か知らないけれど警戒しておくかな。
「ガブソォォォォン! 負けるなああああ!」
「相手がかわいいからって油断してるんじゃねえええ!」
仲間らしき獣毛熊人の声援が飛び、倒れそうなガブソンが両手を石舞台につく。
トーナメントのルールは場外に出るか、一定時間起き上がれなくなると負けだ。
あとノーチェのしっぽがうねった、カワイイ言われて照れてる場合じゃない。
「ヌゥゥゥオオオ! 『ストライクエア』!」
一瞬の油断をつき、ガブソンが手を軸に身体をもちあげて、逆立ちの体勢になりながら蹴りを放つ。
淡い黄色の光をまとった脚が空気を蹴ると、強風が起こってノーチェが飛ばされる。
あの巨体であんな動きもできるのか。
「!」
空中で体勢を立て直したノーチェが危なげなく着地する。
ガブソンは追撃しようとしたのか、振り返ったまま妙な体勢で静止していた。
おそらくさっきの雷撃のダメージが残っているのだろう。
「雷系か、加護の中でも大当たりの部類だな。冒険者たちがスカウトに走りそうだ」
「熊人の方もあれを食らって動けるのかよ……もう10歳以下の戦いじゃねえ、これだから獣人は」
雷を木刀にまとわせながらノーチェが再び距離を詰める。
ガブソンは震える手を大きく振り回して威嚇するが、雑な攻撃なんてノーチェに当たる訳が無い。
大ぶりになってしまった腕をくぐり抜け、ノーチェはガブソンの腕の中に入り込む。
そして稲光が3回光り、ガブソンはうつ伏せに倒れ込んだ。
ノーチェは彼が倒れる寸前に身体の影から飛び出し、黒焦げになった木刀を構えた。
1秒、5秒、10秒。
動こうとしていたもののガブソンは規定時間を過ぎるまで起き上がる事はできず、ノーチェの勝ちが確定した。
『ナイン、テン! そこまで! ガブソン選手ダウン! ノーチェ選手の勝利です!』
――ワアアアアアアアアアアアアアアア
勝利宣言を受けて、ノーチェが焦げた木刀を掲げる。
『本年度の年少の部、優勝はノーチェ選手です。みなさま拍手でお見送り下さい』
盛大な拍手を受けて、しっぽをうねらせながらノーチェが舞台を降りる。
ガブソンは救護班が担架に乗せて連れて行った。
いい勝負だった。
■
「ノーチェおめでとう!」
「あ、ありがとにゃ。にゃんか照れるにゃ」
「おめでとうなのじゃ!」
今回はぼくたちが控室に突っ込むことになった。
この後は年長の部の準決勝と決勝戦が行われる。
表彰式は後日、星竜が見守る中まとめてやるらしい。
「最後のひと、つよかったね」
「まさか正面衝突するとは」
「腰が引けてたら押し切られてたにゃ、パワーじゃ敵わないにゃ」
ノーチェもちゃんと考えた末での判断みたいだ。
このあたりの肌感がデータで考えるぼくとの違いだ。
ぼくはこういう部分でハルファスに負けたんだろうなぁ……。
「なにはともあれ、おめでとう。お祝いしなきゃね」
「……おう、派手に頼むにゃ」
照れくさそうにへへっと鼻をこするノーチェ。
錬金術師ギルドにお願いして、良いレストランを予約……いや、違うな。
「……ごちそう用意して、"アパート"でお祝いだね」
「お、それいいにゃ!」
祭りの時期の混んでいる高級レストランよりも、気兼ねなく騒げる404アパートのほうがいいだろう。
「それじゃあお買い物して帰るの?」
「奮発して外周5区の市を見て回ってもいいかもね」
「色々高いもんにゃぁ、このあたり」
「その代わり品質は良いからね」
何もふるまい飯ばかりが祭りじゃない。
人の多さを見込んで流通も活発になっているため、市には普段見ないような商品も多い。 普段は高くて外周5区の市には手がでないけど、こういう時くらいはいいだろう。
「それじゃあ遅くならないうちに市にいこっか」
「あの、アリスちゃん……」
決まりかけたところで、フィリアがおずおずと手をあげた。
「ブラッドくんの試合、見なくていいの?」
「……見なきゃダメかな」
「さすがに見てあげたほうがいいと思うよ」
「つーかあたしもいろんな試合を見たいにゃ、午後は大人の部だにゃ」
「スフィも見たい」
「わしも試合の方がいいのじゃ」
くっ、四面楚歌……!
仕方ない。
「ブラッドの試合を見たら、ぼくは午後から錬金術ギルドの発表会の方に顔出してくる。あとで合流しよう」
「えぇー!」
「あたしらはそれでいいにゃ」
「仕方ないのじゃ」
丁度というべきか、外周5区には他にも大会や発表会の会場が存在している。
共同研究とかの展示もしているはずだし、一応顔を出しておかないといけない。
スフィだけが不服そうだけど、他のみんなは承諾してくれた。
まぁ小難しい学問の発表にはあまり惹かれないのだろう。
「そんじゃ、見に行くかぁ」
今度はノーチェも交えて観客席に戻ることにした。
因みにブラッドは準決勝で負けた。
相手の獣毛狐人の少女の幻術に引っかかって場外になった。




