準決勝
お昼を挟んで午後からはじまった年長の部の試合は順調に進んでいった。
年少は前回の1位に、年長は前回の上位3人にシード権があるみたいだ。
予選を突破して本戦に出る選手は50人。
2回戦目、3回戦目、4回戦目にそれぞれシード選手が追加されて総勢53人。
侮れない戦いを終えて、準決勝への進出者が決まった。
茶色の獣毛犬人の少年、槍を使う騎士志望の少年、獣毛狐人の少女、あとブラッド。
ルールの決まった大会なら普人でも獣人相手に戦えるようだ。
最年少のブラッドが普通に準決勝にいけるあたり、奴は戦闘に関しては天才なのだ。
戦闘に関しては。
■
「結局夕方になったじゃん」
「やっぱ年長のやつらの戦いはアツいにゃ」
「すごかった!」
スフィとノーチェは比較的年齢の近い子の戦闘に興奮中である。
色々参考になる部分もあったのかもしれない。
「今から帰ると夜になっちゃうし、宿あるかな」
「むずかしいんじゃないかな」
これからどうしようかと考えていると、フィリアが困ったような表情をした。
まぁ祭りがはじまったばかりだし、もっとも賑わう外周5区の宿は埋まるか。
「まぁ軽く探してみて、なかったら適当な公園で野宿?」
「えー」
嫌そうな顔をするスフィ。
近くにいた男が、今にも命乞いをはじめそうな顔で首を横に振った。
「女の子4人に野宿させるわけにいかないし、がんばって空いてる宿探してみようか」
「きっと見付かるよ」
「タブンネ」
道を歩いていたら親切な人が空いてる宿屋を教えてくれる事もあるかもしれない。
まぁスフィたちみたいなか弱い女の子たちに野宿させたくないのは本心だ。
泊まれる場所を確保できるならそれに越したことはない。
そんなわけで競技場を出たあとは、錬金灯で照らされた大通りでのんびり振る舞い料理を食べ歩いた。
外周5区だと牛の丸焼きをはじめ、日常の料理から離れた豪華なものが多くなる。
区や店のレベルによって出される金貨の枚数が違うのかもしれない。
数件ほど宿を断られたあたりで、冬なのに汗の匂いがする男の人から路地を曲がった所にある宿に空きがあることを教えてもらった。
お礼を言って遅くなる前にその宿に入り、大人しく夜を過ごす。
そして翌日、決勝戦の日がやってきた。
■
年少の部の決勝は午前中に行われる。
観客席で見下ろす舞台の脇には、4人の選手が気合の入った様子で出番を待っている。
ノーチェは準決勝の第1試合、相手は鞭使いの少年。
身長に差はなく、鞭を選択したのも体格やパワーに左右されないようにしたのだろう。
「ノーチェがんばれー!」
「がんばって!」
「負けるなーなのじゃあ!」
昨日よりも随分と客層の変わった観客の見守る中、舞台の上に両者が上がる。
応援の声量は向こうのほうが多いな。
「年少の部! 準決勝第1試合……はじめ!」
「フッ!」
開始の合図を受けて少年が右手に持つ鞭を振るった。
こういう試合で鞭か……と思ったけど、音からして柔らかい素材で作られているようだ。
痛くて腫れるけど、骨が折れたり皮膚が裂ける威力は出ない感じだな。
もっとも、当たらなければ意味がない。
木刀の切っ先を相手の視線に合わせて動かし、ステップでフェイントをかましながらノーチェは距離を詰めていく。
「うおおお! そこだ! ロシェ! その生意気なネコガキをボコボコにしちまえ!」
「ちょっとあんた! 子供相手に!」
少年側の応援をしていたおっさんが、近くの薄毛猫人の女性冒険者に怒られている。
それでしょげるくらいなら最初から下品な野次を飛ばすなと言いたい。
……つーか片手に酒もってないかあのおっさん。
「わりぃ!」
「気にすんにゃ」
少年が1度鞭の乱撃を止めて謝罪の言葉を口にして、ノーチェがそれに応じる。
観客は舞台上の健全なやりとりに感心していた。
「あぁ、なんで攻撃止めちまったんだ!」
「気づいたんだろ、どっちも将来有望だな」
「あん?」
15歳以上の本大会は午後からだ。
午前中にいるってことは年長の部の子を目当てにきたのだろうか、冒険者の姿も多い。
「どゆことなのじゃ?」
「あれね、誘導されてるのに気づいたんだと思う」
「あの子のスタミナじゃ試合終了まで連続攻撃は続かない。身体能力じゃどうやったって獣人には勝てない」
種族差を差を覆せるのは長い時間をかけて研鑽した練気だけだ。
「普通の獣人なら反応速度と身体能力にまかせてとりあえず鞭を回避する。それを利用して舞台際に追い込んで、全力の一撃を叩き込む場外狙いのスタイルだった」
ノーチェにそれは通じない。
すぐに放たれる力の入った攻撃を木刀で捌き、フェイントは無視して距離を詰める。
「あれフェイントかよ、あの年でよく見抜けるな……」
「よほど師匠がいいのかもしれん」
ノーチェの見極めには冒険者たちも感嘆の声を隠せないでいる。
「アリスにさんざんやられてるからね……」
「ああいうの、アリスちゃん凄いうまいよね」
シュールと相手の意識の隙間を突くのは得意分野だ。
おかげでスフィもノーチェもフェイント系にはクソ強い。
「パンチとかあたっても全然いたくないけどね」
「武器使おうとすると重さで倒れるからのう。つくづく不思議なのじゃ」
「アリスちゃんとブラウニーちゃんって、そういうところちょっと似てるよね」
「ノーコンマスターといっしょにしないでほしい」
ブラウニーのノーコントロールアタックはそういう特性なのだ。
世界の法則に近しいものと同列に扱われるのは心外極まる。
「ブラウ、見えない」
背後の席にいたブラウニーが抗議するように後ろから抱きしめてきた。
成長して大きくなっているから、腕で顔が塞がって前が見えない。
これがベアハッグってやつか。
ようやくブラウニーが腕を退けてくれると、試合は詰めに入っていた。
狙いを定めることで1度懐に入れてしまったのが少年の失策だった。
猫人の俊敏さを利用して間合いを詰められた少年は焦って雑に鞭を振ってしまう。
その鞭を木刀で絡め取り、ひと息に少年の手から武器を奪い取る。
木刀を放り捨てながら走り、つんのめった少年の服を掴んで踏ん張った。
「どっせえええええい……にゃっ!」
「うわあああああ!?」
ノーチェの力が弱いといっても獣人の中での話。
気合を入れながら体重のない少年を持ち上げて、場外に放り投げる。
悲鳴をあげながら放り出された少年は、砂の上で受け身を取りながら転がった。
『そこまで! 勝者683番!』
安定の勝利だ。
■
準決勝第2試合では、ほんとに10歳かと疑いたくなるような熊人の少年と剣士の少女の戦いとなった。
少女はチョコレート色の肌な異人で、ローブの下は下着みたいな格好をしていた。
外見の特徴からして近海の島出身かな。
曲刀じみた木剣を手に、油断することなく獣毛熊人を見定めている。
あの二足歩行する熊な見た目の少年は身長180センチくらいある。
少女と頭ひとつぶん違う。
『準決勝第2試合、はじめ!』
「ファル・ナグル族が闘士シャンディゴ! おあいてねがう!」
「ウオオオ!! 俺サマはガブソン! かかってこいやぁ!」
獣人の圧倒的なパワーを活かしたガブソンの攻撃がはじまった。
小細工なしのパワーでゴリ押し、出来るやつがこれに徹するとマジで強い。
フェイントとか技とか関係なくなる。
暴風のような攻撃を捌きながらシャンディゴは着実に反撃を重ねていった。
しかしながら絶望的なほどに力が、パワーが足りない。
技術ではシャンディゴの方が上で、有効打を多く貰ったのはガブソンの方。
しかし木剣では毛皮を超えてダメージを与えることが出来ず、体力差で押されていく。
次第に腕が上がらなくなっていき、足も遅くなる。
パワータイプの獣人と正面から殴り合うことを選んだのが敗因だ。
「ハァ、ハァ……」
「ハァーハッハッハ! 終わりダァ!!」
「あぐぅっ!」
突進したガブソンが腕を振るい、シャンディゴをすくいあげるように場外に放り出す。
こいつも加減はわかっているようだ。
『そこまで! 勝者301番!』
熊人ガブソン……ノーチェとはいい勝負になるかもしれない。
「ウオオオオオオオ!」
勝利の雄叫びをあげたガブソンが両手で激しく胸を叩き始める。
突然の奇行に応援していた一部の獣毛熊人たちが恥ずかしそうに身を縮こませる。
熊……人……?




