武術大会
錬金術師ギルドをでたあとは、空港で行われている飛竜騎士の演習を見に行った。
飛竜たちの編隊飛行はお祭りだからか相当に気合が入っていて、実に見事なものだった。
綺麗に並びながらの飛翔はもちろん、連続するアクロバティックの数々。
竜たちの飛行もすごいが振り落とされない騎士たちの技量もすごい。
途中で『ちょっ、まてっ、気合はいりす』という誰かの悲鳴が歓声にかき消されたのが気になったけど……まぁトラブルもなく終了。
それからは舶来市を軽く覗いて、日が落ちる前に帰路についた。
帰り着く頃にはすっかり夜になっていて、明日のこともあるので食事も程々に就寝した。
■
翌日の朝早くにブラウニーとフィリアとお弁当を準備して、気合の入ったノーチェと共に外周5区にある本戦会場へ向かった。
本戦参加者なら前日から近くの宿に泊まるんだけど……ギリギリまで家に居たかったらしい。
特急で整備した自転車を使って体力を温存し、余裕を持って会場入り。
「そんじゃ、かましてくるにゃ」
「がんば」
控室に向かったノーチェを見送って、ぼくたちは観客席に向かう。
「スフィもでたかったなぁ」
「また機会はあるよ」
えーっとたしか日程だと今日はこどもの部の第2回戦まで。
明日の午前中に準決勝と決勝が行われ、午後からは大人の部の本戦をやるらしい。
なので今日は観客も父兄とか友人、学校関係者が大半だ。
『これより聖王国武術大会、こどもの部を開始いたします』
拡声の魔道具によって職員の声が会場中に響き渡る。
競技場は巨大な円形のコロッセオに近い形で、観客席から舞台を見下ろせるようになっている。
「あ、ノーチェだ」
演奏に合わせて少年少女たちが、それぞれの得物を手に中心にある石舞台を囲むように並ぶ。
子供たちの中に大きめの木刀を手にしたノーチェの姿もあった。
この年代の子供にとって1歳の差は絶望的なほどに大きい。
本戦まで上がってきたのは年齢が上限に近い子だらけみたいだった。
「やっぱり小さい子には不利だよね」
「それを言ったら獣人の時点で……ね」
主に練気や身体強化などと呼ばれている、魔力を身体に満たすことで身体能力を引き上げる技術がある。
旅の途中で知ってから興味があったので調べた。
近接戦闘においては練気を使えるかどうかで戦闘力が劇的に変わってくる。
冒険者ギルドの戦闘技術評価において、Cランク認定の必須条件に挙がるくらいだ。
更に熟達してくると身体の内側だけではなく、身体の外側に鎧を着るように魔力を纏うことが出来るようになる。
いつぞやパナディアで会ったゲンテツという拳闘士もやっていたそうだけど、達人ならこれを応用して剣を素手で受けるなんて真似もやってのける。
この第2段階を使えるかが戦闘評価Bランクの認定条件。
更に極めた使い手は武器にまとわせて強化することも出来るそうだ。
そして、獣人はこの技術の第1段階を生まれながらにして体得している。
ぼくのクラスメイトの獣人たちも同年代の子供より圧倒的に身体が強い。
それは他の獣人たちも同じである。
「第1試合! はじめ!」
最初は10歳以下の子たちの試合からはじまった、ざっと30人ってところか。
流石に勝ち上がってきただけあって普人の子もがんばっているけど……。
「わぁぁぁぁ」
歓声があがった。
舞台の上で道着を着た薄毛狸人の男の子が格闘術で相手の男の子をふっとばしたのだ。
踏ん張ることすら出来ずに場外になった子が舞台の外で打たれたお腹を押さえて震えている。
「あのたぬきの子、強いね」
「……ノーチェほどじゃないけど」
負けた方の子は救護班に連れられて退場していく。
続けざまに次の試合がはじまる。
今度は普人の男女の対戦カードだ。
……申し訳ないけど、特に言うことはない感じだった。
大人たちや友人の応援を受けながら、さくさくと試合は進んでいく。
え、ノーチェ?
開始直後に圧をかけながら舞台際に追い込み、木刀を上に放り投げて意識を逸らして軽く押して場外勝ちした。どちらも無傷の文句の付け所がない圧勝だった。
1回戦が終わり、2回戦の準備がはじまる。
勝ち上がった15人とシード選手を加えた16人で試合が行われる。
流石に2回戦ともなると見どころのあるカードも出てくるけど。
3試合目では鞭使いの少年が巧みに移動先を誘導し、薄毛栗鼠人の少女から勝ちを拾っていた。
5試合目にはオーソドックスな盾と短槍を使う坊主頭の少年が狸人の道着少年を、着実に舞台際に押し込んで勝利する。
どちらも観客席で普人のコーチらしき人たちが大声で称賛していたので、きちんとした武術を習っているのだろう。
そんな中でノーチェはまた圧勝し、順調に3回戦に駒を進めた。
3回戦に残ったのは8人。
ノーチェ以外だと鞭使いの少年とシード枠の獣毛熊人の少年が強そうだ。
「みんなつよいね」
「うん」
獣人は生まれ持った自らのステータスに頼る傾向がある。
特に閉鎖的なコミュニティで大事に育てられる獣人の子供たちは、強い相手は年上の獣人になる。
要するにこういう戦術的詰め方とか、小細工に慣れていないのだ。
「ノーチェちゃん! がんばれー!」
「がんばるのじゃー!!」
3回戦第2試合はノーチェの出番。
相手は盾に短槍の少年……構えも同じだし、もうひとりの短槍使いと同じ門派かな。
「ハンズ! 獣人にネルグ流戦闘術の力を見せてやれ!」
近くに居たコーチらしき人間が鼻息荒く叫ぶ。
少年は10歳以下にしては体格も良いしパワーもありそうだ。
侮ることも逸ることもなくノーチェを前に、静かに盾を構える。
『3回戦第2試合……はじめ!』
開始の合図を受けて、ノーチェは刀を下段に構えつつゆっくり歩くように近付いていく。
1回戦とは打って変わった静かな動きにざわめきが広がった。
「…………!」
少年は盾を前に押し出しながら、同じようにじりじりと歩みを進める。
しばらく間合いを詰めながらのにらみ合いが続く。
「いや、これが児童の戦いか?」
「あの黒猫の少女、随分と落ち着いた立ち回りをするな。見た目通りの年齢とは思えんな」
少年はわざと盾をずらしたり、大きく動いたりしながらノーチェを誘う。
しかしノーチェは相手の動きに応じる気配もなく、自分のペースで間合いを詰めていく。
「アリスにすっごくやられてたもんね」
「……ふたりに対する唯一の勝ち筋だし」
模擬戦に参加するときはありとあらゆる手段で意識をそらして1本取っている。
それも最近じゃ通じなくなってきているので、模擬戦から離れて久しい。
十分に距離を詰めたノーチェは、不意に相手の誘いに乗ったと見せかけて半歩踏み込む。
反射的に盾で攻撃を払って短槍を突き出そうとした少年だったが、ノーチェは半歩踏み込んだだけで何もしていない。
フェイントに気付き慌てて距離を取ろうとする少年だったが、ノーチェは急加速して木刀で盾を叩き体勢を崩す。
いいタイミングだ、少年は堪えきれずにころんだ。
受け身を取った少年が立ち上がるタイミングを狙い、蹴りで短槍を遠くへ飛ばす。
短槍はギリギリ舞台の外に落ちず、舞台際に転がった。
「うわっ!?」
盾でノーチェを牽制しながら短槍に飛びついた少年のおしりを、当然のようにぴったりと追従したノーチェが足裏で押した。
勢いのついた少年は悲鳴をあげながら舞台の外に落ちて場外になる。
『683番の勝利』
会場がシンとなる中、審判がノーチェの勝利判定を出す。
自分の勝ちを確認したノーチェは一礼して舞台を降りていった。
■
試合が終わり、準決勝に出場する選手が決まった。
ノーチェ、鞭使いの少年、熊人の少年、外国人っぽい剣士の少女。
ぼくの読みだとノーチェと熊人の戦いになりそうだ。
「あたしは強くなりすぎてしまったにゃ……」
「ノーチェ……」
そんなこんなで選手用通路の前で出迎えると、ノーチェが憂いに満ちた顔で言った。
そりゃまぁ、同年代でノーチェと互角以上なのはスフィかブラッドくらいだろう。
「ひとつ上の年齢の部がちょうどよかったかもね」
「なんか悪いことしてる気持ちになるにゃ」
ノーチェは親の教育のせいか弱いものいじめを嫌がっている。
武術大会の本選出場者を弱者呼ばわりもそれはそれで酷い気がするが、ここまで圧勝しているのは事実だ。
11歳から14歳までの年長の部に出れば苦戦できて丁度よかったかもしれない。
「そういえば……」
ノーチェを労っていたフィリアが何かに気づいたように首を傾げた。
「アリスちゃんのクラスメイトのブラッドくんって、武術大会でてないのかな?」
「……言われてみれば」
彼も獣人の中では天才側の人材である。
間違いなく優勝候補のはずなのだけど……今日の試合にはでてなかった。
「おー、アリスじゃん! なんか久しぶりだな!」
噂をすれば影というか、選手控室の方からブラッドが歩いてきた。
「ブラッド、試合でなかったの?」
「おれはこれからだ!」
そう言いながら、大きな木剣を肩に乗せて胸を張る。
10歳以下の年少の部は終わって、次は11歳から14歳までの年長の部が行われる。
「ブラッド、10歳じゃなかったっけ?」
「そうだ、聞いてくれよ! 予選の前にじいちゃんたちが街にきたんだけどさ……その時知ったんだけどさ。おれ……11歳だったんだ!」
「……あぁ、うん」
ゼルギア大陸の大半の国では、年齢は数え年で計算される。
新年と定められた日に一律で年を取り、その年のうちにほにゃほにゃ歳になるっていう言い方をする。
ぼくたちの『今年で8歳になる』みたいな言い方もそういう理由からきている。
なお、ぼくたちは夏生まれっぽいから夏を過ぎた頃に自称年齢を繰り上げている。
生まれた月日は親くらいしか知らないから……把握してないとそういうこともあるのか。
いやまて。
「年末なんだからほぼ年齢あがってるじゃん」
「……え、あー……うん?」
書類上は数え年だし、満年齢だとしても12月に入った時点で年齢上がった扱いになるじゃん。
なんで把握してないのよ。
「……ブラッドもがんばってね」
「おう! トロフィーさわらせてやるからな!」
剣を持った手を高く掲げながら、ブラッドは意気揚々と選手用通路に入っていった。
そうか、年齢が違ったのか。
「んじゃ帰るか」
「せめて見ていってやれにゃ」
納得したところで帰ろうとしたらノーチェに突っ込まれた。
準決勝から応援するのでよくない……?
試合回数の計算まちがえてたので修正。




