旅路
12月23日がやってきた。
朝食を終えたあと、ぼくたちはヘリポートがあるバルコニーに集まっていた。
「アリス、身体には気をつけるのですよ。スフィも手紙を待っていますからね、いつでも会いに来てください」
「おかあさん、お手紙ちゃんと書くから、ね」
「…………」
城へ忍び込むルートがないから会うのは厳しいなぁ。
手紙くらいならいくらでも紛れ込ませることができるけど。
「念のためにサンドイッチを用意させました。道中でおやつとしてお召し上がりください」
「ありがとう」
侍女から箱に入ったサンドイッチを受け取り、ブラウニーが背負うリュックの中にしまった。
「父さま、銀竜ってどうやって呼ぶの」
「領域内であれば手を上げて声をかければ伝わる。領域の外では笛が必要になるな」
「外ではいらない……」
銀竜はこの国では上級星堂騎士の象徴だ、子供が気軽に乗り回していいものじゃない。
ただの飛竜とは違う、いくらなんでも目立ちすぎる。
「かもーん」
言われたとおりに空に向かって片手をあげて声を上げた。
シンとした空気の中で時間がすぎる。
10秒、20秒、少し銀竜が嫌いになってきた。
「こっちー!」
隣にきたスフィが片手を上げて大きく声を張り上げると、空の向こうがキラリと光った。
すごい速さで上空まで飛んできた銀竜が頭上で一回転して位置を調整し、ヘリポートのところへ降りる。
「ほんとにきた」
「ぼくはシラタマがいればいいや」
「チュルルルル」
「声量が足りなかったのだと思うが」
父さまの正論を無視して大きいサイズになったシラタマの羽毛に顔を埋める。
声張り上げるの疲れるし、空を飛ぶ手段はあるし。
「クルルゥ……」
「チュルル」
気配でシラタマが銀竜にマウントを取っているのがわかる。
亜竜より立場の強い鳥かぁ。
ぐだぐだしている間に別れも済み、出発の時間が来た。
母さまを中心に、侍女たちがずらっと並ぶ。
「ノヴァ様、娘たちをお願いします。必ずまた戻ってきてくださいね」
「スフィ様、アリス様、おかえりをお待ちしております」
こういう状況で返す言葉はきっとこれが一番合っているだろう。
「いってきます」
「いってきます!」
また帰ってくるという意味を込めて、ぼくたちは母さまたちにむかって手を上げた。
■
「ふわー!」
ぼくはシラタマ、スフィとブラウニーは銀竜に乗って空を飛ぶ。
流石に速度じゃ銀竜には勝てないけど、今回は下に降りるだけなので問題ない。
竜の姿の父さまを追いかけて、島の周囲を旋回するように地上へ向かう。
こうしてみると浮島も結構大きいし、街みたいなのがあるのも見える。
使用人とか職人、その家族が住むための場所って感じかな。
浮島の下には島から水が流れ込む大きな湖と、そのほとりには建築物がある。
街道らしきものも見える。
精霊領域内にひとつの国家が出来上がっているようだ。
『小屋は東部にある、ついてきなさい』
父さまを追いかけているうちに地上が近付いてくる。
地上では珍しい獣人やその他の種族の人たちがいて……みんな倒れてる?
いや、全員が平伏している。
やがて父さまは、街から離れた小高い丘にある古ぼけた小屋の手前に降り立った。
スフィ、少し遅れてぼくたちの順に着地する。
「この中だ」
人型に戻った父さまが小屋の中に入る。
顔を見合わせながら、ぼくたちも手を繋いで小屋の中へ。
小屋は簡単なテーブルと椅子と古びたクローゼットがあるだけだ。
「玩具の精霊よ、道を開けるか?」
「…………」
父さまの呼びかけに答えるように頷きながら、ブラウニーがクローゼットの扉を開けた。
中身は空っぽだけど、下の方に暗闇に続くような穴が空いている。
「あいかわらずブラウニーが先頭じゃなかったら近付きたくもない穴……」
「こわいよね」
どうしてこう邪悪なものがでてきそうな位置と見た目なんだ。
「封鎖されている通路だが、あとは玩具の領域の管理者が何とか出来るだろう。道中くれぐれも気を付けよ」
「……父さま」
父さまの大きな手が、ぼくとスフィの頭をぽんと撫でる。
「お前たちはもう自分の身は自分で守れるのだろう。何も出来ない赤子の頃とは違う……だからこそ止めはしない。次もまた、自分の足で帰ってくると信じている」
「……うん」
「やくそくする」
「次に会う時は友と共にだな。楽しみにしていよう」
スフィと揃って父さまと手を繋いだ。
名残惜しむように手を離して、父さまに見送られながらクローゼットの穴をくぐった。
■
「……え、ええ? どこ、ここ?」
クローゼットの穴を越えた先は埃っぽい小屋の中。
外に出てみれば赤茶けた岩の転がる荒野の向こう側に巨大な赤岩が鎮座していた。
そんな荒野を貫くようなコンクリの道路が地平線の向こうまで果てしなく伸びている。
「何これネバダ、アリゾナ? レッドロック?」
アメリカの荒野や砂漠地帯みたいな風景だ。
これまた予想していたのとはぜんぜん違うな。
「ここ、本当におもちゃさんたちの世界?」
「自信なくなってきた」
異空間であることに間違いはないだろうけど玩具要素が欠片もない。
いや、前の第0セクターのカバー都市も玩具要素はなかったけど。
道路を前に呆然としていると、背後からキコキコという最近聞いた音が聞こえる。
ブラウニーが小屋の裏手からオープンカーを運転しながら出てきた。
ここにもあるんだ、足漕ぎカー。
またシラタマ頼りかと思ったけれど、移動は心配なさそうだ。
「…………」
ブラウニーがぼくたちの前に車を移動させて止める。
――ゴン
もちろん、岩にぶつけながら。




